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 あれから、ちょこちょこティアリーゼとシュクルが遊びに来るようになった。

 とはいえなにやら彼らも忙しいらしく、ずっといるというわけではないのだが。

 セランはティアリーゼが来ると、必ず特訓をねだった。

 シュクルはあまりいい顔をしなかったが――単純にティアリーゼを取られたようで気に入らないらしい――キッカが間に入ってなだめてくれた。

 ティアリーゼがいない間もせっせと自分にできることをしていたセランは、剣を持てすらしなかったのが嘘だと思われるほど、めきめき成長し――。


(これで順調ならいいんだけど、まだティアリーゼからは一本も取れないんだよね)


 今日も庭で短剣を振るっていたセランは、持ち方を変えてみたり、敵だと想定した木への攻撃方法を変えてみたりと特訓に勤しんでいた。

 ティアリーゼから借りていた短剣を正式にもらい受け、手に馴染むまで必死に振るう。

 そんなセランを見てキッカは、そこまでする必要があるのかと呆れていたが。


(相手は魔王だっていうのに、呑気なこと言ってられない)


 できれば戦わない平和的な方法で目的を果たしたい。

 だが、相手は魔王と呼ばれる存在なのだから、そう簡単にいくはずがない。

 そう思うのと同時に、セランは少しだけ慢心し始めてもいた。


(短期間でこれだけやれるようになったんだから、きっと才能があるんだと思う……!)


 ティアリーゼも身のこなしを褒めてくれた。

 筋がいいという言葉は、お世辞ばかりではないだろう。

 実際、足の速さはセランの方が上だった。ただ、技量が追い付いていないせいで、いつもあと一歩追い付かずにいる。

 あと少し――実際は途方もない差があるのだが――を埋めるために、セランは今日も一人張り切っていた。

 ――それをよく思わない者がいることなど、思いもせず。


 午後、食事を終えたセランは再び庭へと向かった。

 もちろん、午前の続きをするためである。


「……はっ」


 踏み込みが浅い、と言われていたのを思い出して深く足を前に出す。

 得物が短剣では攻撃の範囲も当然狭い。斬り込んで一撃を与えた後はすぐに距離を取って体勢を整えろと言われていた。

 ティアリーゼから学んだことを頭に、少しでも速く、そして鋭く、を心掛けて鍛錬に励んでいたときだった。


「人間め……。お前の好きなようにはさせないからな!」

「……っ!」


 きん、と金属の音が響いた。

 なにが起きたのか理解できなかったが、手に鈍い痺れが残っている。

 ティアリーゼとの特訓が生きた瞬間だった。

 ほとんど反射的に顔の前にかざした短剣と、見知らぬ男の短剣が交差している。


「あ、なた……誰……?」


 男はキッカと同じように仮面をかぶっていた。

 つまりは鳥の亜人ということなのだろう。

 見慣れたはずのその風貌が、今はとても恐ろしく感じられる。

 キッカの表情が見えないことに恐れを感じたことはなかった。だが、この男は違う。


(この人は、私を敵だと思ってる)


 あからさまな敵意を向けられたことは一度としてなかった。

 セランの知らないところで裏切っていたラシードとサリサでさえ、殺そうとまではしていなかったのだから。


「やめて! 私……あなたに攻撃されるようなこと、してない……!」

「そうやって仲間たちを騙そうとしてるんだろ! 他の奴らは騙せても、俺は違う……! お前たちが卑怯で汚い生き物だって知ってるんだ……!」

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