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「ええと……」
「最後まで言わなくても大丈夫……」
ティアリーゼはセランに剣を教えてくれようとした。
持ち方からなにからなにまで懇切丁寧に教えてくれたまではよかったが、残念ながらセランはまともに持つことさえできなかったのだ。
「こんなに剣が重いなんて知らなかったの……」
「そうね……。私も……その、そんなに力がないと……思わなくて……」
「普通はもう少しなんとかなるもの?」
「どうなのかしら……。私にとっては普通のことだったから……」
「でも、よく考えたらあんまり周りで剣を振る人はいなかったかも。こんなことならもっと鍛えておけばよかったよ」
「いいえ、私の選び方が悪かったんだわ。短剣ならどうにかなるかしら……?」
ティアリーゼが生きてきたのは、城の中だった。国を守る兵士たちが一般的に扱うのは剣である。よって、ティアリーゼも師からは剣の扱いを教わった。
セランが生きてきたのは、砂漠の真ん中だった。集落は部族が拠点とするオアシスを中心に、風の向きや季節によって微妙に位置を変える。そのため、あまり重いものを持ち歩く習慣がない。獣や外敵と戦う際にも、いかに素早い動きができるかというところに重点を置く。そうでなければ砂に足を取られてしまうからだった。
つまるところ、二人は生活環境に差がありすぎた。鉄の鎧で身を固め、馬の背で剣や槍を振るう騎士たちを見て過ごしてきたティアリーゼと、皮の胸当てに短剣を持ち、基本は弓矢で狩りをする世界で育ってきたセランでは、生きるために伸ばしてきた力が違う。
困った様子を見せたティアリーゼだったが、護身用――セランからすれば、腰に帯びた長剣も充分護身用である――の短剣をセランに貸してくれた。
「それの扱いはわかる……?」
「肉を捌くくらいなら。人は捌けないかな」
「……切って刺したら同じ。って、シュクルなら言うと思うわ」
「さっきの背の高い人?」
「そう」
「あの人はティアリーゼのなんなの? 兄弟には見えないけど……」
「ええと……夫ね」
「夫!」
セランは驚いて短剣を取り落としそうになってしまった。
ティアリーゼの大切なものだとわかっていたから、なんとか落とさずに持ちこたえる。
「けけけ結婚してたの!?」
「キッカさんから聞いていたんだと思っていたわ」
「ううん、全然……!」
(わああ、いいなあ、いいなあ!)
結婚に夢を持たなくなったセランでも、身近にそういう話があればやはり食いついてしまう。そういう部分は立派に女らしい、とこっそり自分で嬉しく思った。
「休憩のときにその話、聞かせてくれる?」
「えっ……。えっと……おもしろい話なんてあるかしら……?」
困惑した様子ではあったが、ティアリーゼは了承してくれる。
俄然、セランのやる気が増した。




