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「まだ本調子じゃねぇだろうし、飲んどけ」
「これ……なに? 変な匂いがするけど……」
「熱冷まし」
「……おいしくなさそう」
「別に飲みたくねぇなら好きにすりゃいいけど、俺だったら飲んどくな。だって、早く元気にならねぇと空が曇っちまう」
「おもしろい言い方するね。でも、言いたいことはわかるよ」
(早く元気にならないと空が曇る。……曇る前に私だって外へ行きたい)
意を決してコップの縁に口を付ける。
絶妙な青臭さと、喉に張り付く甘ったるい香り。肉が腐ったときの臭いによく似ている。
(すごく飲みたくない)
その気持ちが増す前に、一気にコップを傾けた。
どろりとした液体が一気に流れ込んでくる。味は――あまり深く考えたいものではなかった。
「……うえー」
「よしよし、偉いなー」
「口直しとか……ないの……?」
「忘れたからねぇ」
「忘れっぽいの、なんとかした方がいいよ……」
必死に口をもごもご動かし、臭気と味を喉の奥へ追いやる。
それが落ち着いた頃になって、黙って見守っていたキッカが口を開いた。
「お前、なんであんなとこふらふらしてたわけ」
「……言ってなかったっけ」
「うん」
「話すとちょっと長くなるんだけどね」
セランは自分の身に起きたことを語りだした。
婚約者がいたこと、親友がいたこと。婚礼のその日、二人がセランを嘲りながら愛を囁いていたこと。
まだそのときの記憶は鮮明に焼き付いている。
キッカに会った衝撃で忘れていた熱が、再びよみがえってきた。
「……私、誓ったの。もし生まれ変わったら絶対復讐しようって」
「おー……。過激だなー……」
「だって悔しいじゃない? ずっとずっと、私の知らないところでそんなことをされてきたんだよ」
「まぁ……そうだな。気持ちはわからなくも……うーん」
「見返したい。自分たちがいったい誰を嘲笑っていたのか、思い知らせてやりたい」
「向上心の塊みたいな女だな、お前。普通こういうのって、悲しくて泣くとかそういうのじゃねぇの?」
「泣いてたってなにも解決しないでしょ?」
「すげー。ちょっとかっこいいと思った」
「ふふん、見直す?」
「見直すもなにも、俺は別にお前のこと嘲笑ってねぇもん。変な奴だとは思ってるけど」
ふ、とまたキッカが笑ったのがわかった。
変な奴だというよりは、おもしろい奴だと思われているのだろう。キッカの態度がそれを隠そうとしていない。
「どうしたらいいのかな。ぎゃふんと言わせるようなこと、なにか思いつかない?」
「馬鹿にした奴ら全員皆殺しにする」
当たり前のように返ってきた言葉は、あまりにも物騒だった。




