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――30―― 飛んでくる魔法使い

 リュカに向かって飛んでくる魔法使いの姿はずっと視界の端にいた。その声を聞くまでそれがジルだとは気が付いていなかったが。

 邪魔だとか、巻き込まれても自業自得だとかその程度の認識だったが、風になびく赤い髪に息がつまる。


 彼女をこの危険な場所へ連れてくるジルの神経を疑う。オーロルは魔法使いでなければ、騎士でもない。

 兵士がドラゴンに対して出来る事なんてただ一つ、逃げる事だ。

 人々をドラゴンの恐怖から守るのが騎士だ。その逃げる人々を統率するのが兵士だ。そしてドラゴンの脅威に立ち向かうのが魔法使いだ。

 彼女の役目はここにない。

 苦虫を噛み潰したような顔になってしまうのは仕方がないだろう。リュカが守りたいものが危険に近づいて来るのだ。

 目の前のドラゴンの標的がいつリュカから二人に変わるかわからない。

 ドラゴンから飛んでくる火炎弾をかわし、二人に向けて魔法を放つ。

 二人を戦闘に、オーロルを巻き込みたくない。


 まさかリュカから二人に向かって魔法が放たれると誰が思うだろうか。そこに敵意がなくても魔法を向けられた。それだけでも二人には衝撃が大きい。

 慌てて避けようにも、そう簡単にはいかない。魔法で返そうにも構築が間に合わない。

 薄く淡く光る魔法陣に捕われた二人は透明な氷の壁に囲まれていた。

 シャボン玉のように優しく、硝子のように固い空間だ。


「リュカ……?」


 リュカと目が合ったオーロルは彼の優しい微笑みに、彼の役に立てないのかと歯がゆい思いを氷の壁に打つ。

 そんなもので壁に傷がつくわけもなく、外を見ているしか出来ないのだ。


 好いた人の傷つく姿を誰が見たいと思うのだろうか。

 好いた人の力になりたいと願うことも叶わないのだろうか。

 好いた人の側に居たいだけなのだ。


「アレのどこが、『氷笑の公子』だよぉ……」


 氷の中でジルは力無く座り込む。リュカがドラゴンと対峙したときはいつだって余裕綽々と口元に笑みを浮かべていたのだ。

 今のような困ったような笑顔ではない。


「護符だって外してぇ、『氷笑の公子』のくせに余裕なんてないじゃんかよぉ」


 囲まれる氷に苛立ちのまま魔法を放つ。

 稲妻は壁を壊すような事なく、そのまま外へと放出される。出て行った稲妻は空をそのまま走り抜け、ジルのやるせなさを表していた。


 静かに沈むように氷は地へと下りていく。


 ふらつく頭を振り多少の憂いは去ったと、リュカは再び目の前のドラゴンに相対する。

 どうやって倒したらいいのか全く浮かばないのだ。

 渾身の一撃は効いたように見えたが、その後すぐの攻撃は一切の加減も感じられなかった。

 いくら魔法を放ってもドラゴンに効いているようには見えない。


 それでも何かしら手はあると、魔法を放つ。


 得意の氷系に偏っているせいだろうかと、違うものを放っても同じだ。

 ドラゴンからの攻撃一つ一つが、確実にリュカの力を削いでいた。

 避けられればいい方で、受け止め、弾き、街が壊れて行くことが心苦しい。

 なにをしてくれるんだと、口元に浮かぶ笑みが次の魔法を紡ぐ。


 構築されていく魔法は氷系だ。


 倒せないのならばせめてこの街から出ていって貰いたいと、放たれた魔法はドラゴンの翼を僅かに凍らせ、その箇所に亀裂を入れた。

 冷たい! と叫ぶかのような咆吼で吐き出された黒い炎が辺りに散る。

 幾らか攻撃が効いていると、喜んでなどいられない。

 ドラゴンの吹き出した黒い炎は逃げる人々に向かったのだ。


「防壁です! 敵わぬのならせめて守りを!」


 馬上からマリユスの怒号が響き渡った。

 今にも逃げ出しそうな王都からの魔法使いに活を入れ、防壁の炎を広げる。

 リュカがドラゴンに立ち向かっているのだ。

 マリユスも彼の身を案じているだけではいられない。

 ドラゴンの恐怖に身を竦めていた魔法使いはマリユスの声に従うように、降り注いでくる黒い炎に対抗する。

 氷で、炎で、全てを打ち払えなくとも街への被害を押えなくてはいけない。

 多かれ少なかれドラゴンに対抗出来るならと、勇ましい者は暴れる巨躰に魔法でその動きを留めようと奮闘する。


「弓兵は目を狙え!」


「大砲は翼だ!」


 ダミアンの指示に項垂れていた騎兵団は活気を取り戻す。王都からの騎兵団もその指示に反発す事無く従っていた。

 リュカに全てを任せて逃げられるような相手ではないのだと、あの禍々しい姿に目が覚める思いだ。

 矢をいくら放っても、ドラゴンの鱗に弾かれる。

 狙いを目に定めることすら難しい。

 吐き出される黒い炎がいとも簡単に矢を焼いてしまう。

 それでも幾らか目くらましの効果はあったのだろう。

 リュカの攻撃がドラゴンの懐深くに入り込むようになっていた。


 ドラゴンの翼はいつの間にか動く事が無くなっていた。

 凍り付き、亀裂の入った箇所は今にも引き千切れそうにドラゴンの巨躰にぶら下がり、大砲が飛膜に穴を開けていく。

 飛膜の穴はすぐに閉じてしまうものが殆どだが、リュカが凍り付かせた箇所に上手く当たれば閉じることがない。

 ドラゴンを倒せると、希望を抱きはじめる者がいる。

 あの『氷笑の公子』と共にドラゴンに一矢報い、今にも倒すのだと、顔に朱が差す。

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