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――27―― 古代竜が現われたのは

 古代竜が現われたのは前回ドラゴンの襲撃があった場所に近かった。オーロルが今居る場所から離れているにも関わらず、その姿を確認出来るほど大きい。

 古代竜とはよく言ったものだと思う。今までのドラゴンはなんだったのかと思わせるほど恐怖を呼び起こす。黒い鱗は鏡面ように艶やかで黒く反射し、その輝きが禍々しいかと思えば、ごつごつとした岩肌を思わせるように荒々しい。

 背中の翼を羽ばたかせただけで突風となり、建物を軋ませ、酷い物は崩れたりもする。

 紫電の眼は悠然と構え、攻撃を仕掛けている魔法使いをただの羽虫と思うっているかのように動じる様子もない。そこにいるだけで恐怖を湧き起こさせるドラゴンだ。


「オーロル!」


 空から声を掛けるのはリュカだ。彼女を見つけたことに安堵するように笑みを溢し、オーロルの前に降り立つ。

 どうしてリュカがここに居るのだと疑問に思うが、この騒動にじっとしていられるわけがないかと、独りごちる。


「ここは危ないから早く離れろ」


 オーロルを思って口にする言葉は兵士に向かって言うものではない。彼女は守られる立場ではなく、守る立場にいるのだ。

 離れろと言われて離れられるわけがない。


「まだ避難が済んでない!」


 周囲にはまだ大勢の人があっちに、こっちにと、どこに逃げればいいのかと彷徨っているのだ。オーロルが、ドラゴンと戦う術のない兵士が避難誘導に回らずにどうしようというのか。

 彼女がドラゴンの攻撃に晒されるかもしれないこの場所に留まるということに舌打ちする。

 無理矢理にでもこの場からさらい、離脱させようかと思うがそれをオーロルはよしとしないだろう。下手をすれば軽蔑されるかもしれないと思えば説得するしかない。

 リュカの話をまともに聞いてくれるのは過保護な近侍たちだけだったせいもあって、どう言葉を紡げばいいのかわからない。


「リュカ、もしかして……」


 オーロルは訝かしげにリュカに詰め寄るように近づき


「まさか、ドラゴンに向かおうっていうんじゃ……」

「俺が行かないでどうするっていうんだ?」


 聞く人が聞けば傲慢とも取れる言葉だ。リュカの強さを考えれば彼じゃなくてはいけないと納得してしまう。だが、リュカほどの力が無くても魔法使いなら他にもいる。彼でなくてはいけないという理由はない。


「どうして? リュカは倒れてばかりじゃない! 魔法使いは他の人もいる」


 オーロルの心配は彼に届かないのか、リュカは彼女から目を逸らしドラゴンに視線を移した。


 パリィィィン


 トーチリリー山でも聞いたなにかが割れるような乾いた音をリュカは耳にする。

 それは不安をかき立てる音だ。もう護符を壊したかと気になるが、些細な事と放っておく。

 遠目からでもドラゴンの様子はよくわかる。

 長い尾を払うだけで建物を壊し、吐く息は辺りを黒い炎に包む。身の毛のよだつその巨躰はそこに居るだけで恐怖を振りまいた。


「あんなものを放っておけというのか?」


 転び泣き出す子供の手を引き、走り逃げる人がいる。


「放って……? 違う! わたしたちも居るって言っているの。頼りないかもしれないけど」


 落とした荷物に目もくれないで逃げる人がいる。


「俺はオーロルが…………頼りないなんて思ってない」


 飲み込んだ言葉を吐き出したいと、胸につっかえる。今彼女にそれを言えば気持ちが楽になるかもしれないが、それは一時の事と口を噤んだ。


「だったら」

「俺はあのドラゴンを放っておけない」


 不安げにリュカを見るオーロルに申し訳ないと、仕方がないと、体を空に浮かす。

 彼女を守る為にはまず、あのドラゴンを倒さなくてはいけない。

 平行線のまま話を続けるよりも倒してしまった方が早いと、逃げるようにリュカは古代竜に向かって飛んで行く。

 引き止めようと伸ばすオーロルの手はリュカの服の端を掠めただけで、そのまま空を掴んだ。

 心配していると、それだけの気持ちも受け止めても貰えないと切ない。胸が痛いといじけてはいられないと、リュカを一人で向かわせてなるものかと走り出す。

 オーロル自身にドラゴンに対抗出来る力がないと痛感していた。だけど、彼を一人で行かせたくなかった。

 リュカの向かう先には絶望にも似た巨大なドラゴンがいる。

 逃げてしまいたいと思うのに、リュカが向かったと思えば怖くない。


 リュカを止めなくてはと。

 彼に魔法を使わせてはいけないと。

 彼と離れたくないと。

 リュカを失いたくないと。


 ――リュカの死だけは考えたくなかった。


 自分が兵士だとかは関係なく、好いた人が危険な状態であれば体が動くものだ。職務放棄とも、敵前逃亡とも取れるオーロルの行動に誰も咎める者はいない。

 ドラゴンが相手なのだ。今も逃げ出してしまう兵士は後を絶たないし、自分の命を一番に考えるのは誰だって同じだ。


 大砲がドラゴンに向かって火を噴き、その鱗に僅かばかりの傷をつけるが、ものともせず息が吐かれる。

 魔法使いから放たれた炎を翼をはためかせるだけでかき消し、近くに居た者を踏みつぶす。

 騎士がドラゴンの鱗に傷を付けようと槍を突くが、それを気にする様子もない。

 子供が積み重ねた積み木を崩すかのようにドラゴンは建物を壊していく。子供が虫けらを踏みつぶして遊ぶかのように逃げる人々を蹴散らす。

 カレンデュラの街はドラゴンの体の良い玩具にされていた。

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