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――25―― 騎兵団に流れていた二人の噂は

 騎兵団に流れていた二人の噂はリュカの分りやすい態度から、彼の氷のように動かない表情が軟化したことら流れたものだった。

 新参者のオーロルへの気遣いなどない噂だ。

 だけど今のオーロルを見ていれば、彼女の抱いているリュカへの想いは明らかだ。ダダ漏れになっている感情の指摘に驚かれる方がビックリだろう。


「何を驚いて……」

「そんな事思ったことなかった。だって、わたしは……」


 クレールの言葉がグルグルと頭の中を廻り、肯定も否定も一緒に巡る。


「リュカが心配で……」


 今も意識のない彼を想う。


「……彼は本当に愉しそうに笑って」


「青い目は冷たいこともあるけど」


「心は優しくて温かくて」


「誰よりも強くて」


「わたしばかり無茶をするって怒るけど、リュカだって」


「みんなに慕われている事に気が付かないで」


「本当は知っているくせに」


「大事な人たちを守るために無茶して」


「無茶を無茶と思わないで」


「もっと自分を大事にして欲しいのに」


「側に居たいと思っただけで……」


 たどたどしく話すオーロルの頬に流れる涙はリュカを想ってのものだろう。


「わたし、彼の力になりたいのに……なれなくて」


 クレールはオーロルを母のように優しく抱きしめ


「それを全部纏めて『好き』っていうの」


 クレールの優しさにオーロルは嗚咽を溢す。声を上げて泣けばいいと思うクレールの前で、全てをさらけ出してしまうことにどこか恥ずかしさが残っていた。

 自分の気持ちに気が付かず、人に指摘されるまでそれをただの情だと思っていたのだ。情けないと顔を上げられずクレールに甘えるように、感情を全て流し出すように涙は落ちる。


 扉の前で泣いているのだ。部屋の中にもその様子が感じられるものがあったのだろうか。中から出て来たジルがオーロルの頭に手を乗せる。


「なんでオーロルは泣いているのぉ?」


 その言葉とは裏腹にジルの手は全てを察しているように優しい。だからといって涙が止まるわけでもなく、泣いている姿が恥ずかしいと俯き、顔を上げられない。


「乙女の涙の理由なんて一つしかないですよ」


 わかって聞いているくせにとクレールは息を吐く。ジルは苦笑いで返し、オーロルを部屋へ招く。

 リュカが目を覚ましたのだ。リュカが求めるのはオーロルだ。

 献身的に看病するマリユスでも、父のように見守るダミアンでも、友のように寄り添うジルでもない。

 彼が想いを寄せるのはオーロルだ。近くに居れば求めて当たり前だろう。


 リュカの顔を見たいと部屋の前に居たはずなのに、いざとなると足が動かなかった。泣いたせいもあるだろう。泣き腫らした顔で、自覚した感情に火照る顔で、彼の前に立つには恥ずかしい。

 なんと声を掛ければいいのかもわからず、ためらい進めないオーロルの背をクレールは優しく押す。

 そのままでいいと言葉なく伝えてくれる彼女から勇気を貰うようにオーロルは部屋に入る。


 枕を背もたれに体を起しているリュカの顔は青白いものの、穏やかだ。

 目が合い微笑んでくれるが、すぐに視線を外すように俯く姿にまだ具合が悪いのかと心配になる。


「また泣かせるようなことを俺は……」


 照れを隠すように顔を逸らしたはずが、泣き腫らしたオーロルの顔に自分を責める言葉を探してしまう。なにかをやらかした覚えなどないが、彼女が泣いていたのは自分のせいだと思ってしまうほどに、オーロルに気持ちを占められていた。


「リュカ、大丈夫……なの?」


 心配そうに見つめるオーロルの顔にリュカはそっぽを向き、気持ちを隠そうとする。全てを見透かされていると思ってしまうほどに彼女の目は澄み切っている。

 泣いたせいで潤んでいるから余計にそう感じるのだろうが、リュカにしてみれば、照れて恥ずかしいのだ。

 会いたいと求めたのはリュカ自身であるのに、いざ目の前にすればどうしたものかと悩む。

 気を失う前にオーロルになにを話したか曖昧な記憶としてあり、それを確かめるにはあまりにも恥ずかしかった。

 二人の初々しい姿に、何を今更と焦れったい。


「あのさぁ」


 口火を切ったジルの声に二人は助かったと胸を撫で下ろす。


「邪魔ならオレたちぃ、出ていくよぉ?」


 ジルの思いがけない言葉に二人は慌てふためき、引き止める。今二人にされては気まずい空気で窒息してしまいそうだ。

 二人でよろしくやっていればいいものをと、ジルは舌打ちで返し、笑い出した。いつもの悪ふざけだとジルの笑顔に気が抜ける。


「オーロル。今回の事は……本当に心配掛けてごめん」


 長くリュカを見守ってきたマリユスは彼が素直に謝る姿に、今までの『氷笑の公子』と呼ばれていたのはなんだったのかと、目を見張る。

 オーロルと出会ってからのリュカは表情が豊かになったと感じていたが、謝る姿を想像出来ただろうかと記憶を辿るも見つからない。

 当然だ。リュカが笑っているだけで噂が広がるのだ。それだけで、どれほど彼の表情が凍り付いていたかわかる。

 オーロルがどれだけリュカにとって大きな存在であるか、彼女が拒絶をしない限り失うわけにはいかないと肝に銘じた。

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