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――21―― 強く握りしめてられていた

12/19加筆修正しました

 強く握りしめてられていたオーロルの手は凍り付き真っ白だった。

 申し訳なさそうにリュカはマリユスに目配せをする。オーロルの手は壊死寸前だ。

 リュカの魔法の暴発はいつだって彼の周囲を傷つけてしまう。喰らった竜の肉の種類が多かったせいだといっても過言はなく、彼の力が強すぎるのだ。

 幾ら対処しても感情が高ぶれば魔法はその獰猛さを示す。

 壊すことに特化していく魔法にリュカは、いつの間に治癒系統に苦手意識を持つようになってしまった。


「リュカが、トーチリリー山に今から行くと言うならば、わたしも着いて行くよ」


 オーロルの言葉に全員がギョッとする。


「なに言っているんだ!」

「足手纏いでも、リュカを一人では行かせられないよ」


 連れて行くしかないのだろうかと、リュカは天を仰ぎ、丸腰でドラゴンに立ち向かっていくオーロルの姿を思い出す。前線に志願したように彼女ならどんな無茶も、無茶と思わずに突っ走ってしまうのだろう。

 彼女を守るための無茶が、彼女を危険にさらすことになっては本末転倒だ。

 

「……わかった。今日は行かない。だから、オーロルも前線に出るなんて無茶やめてくれ」


 言ったところで聞いてくれるのだろうかと、自身の事を棚に上げ、ばつが悪そうに治癒の炎に包まれる手に目線を移す。真っ白だった手は血の巡りを取り戻していくように仄かに色づく。


「……ごめん。手、痛かっただろう?」


 オーロルの額には薄らと脂汗が浮いていた。どんなに強がったって、手が凍り付いてしまえば痛いに決まっている。

 そんな気が無くてもオーロルを傷つけてしまったことに、リュカは申し訳なさと、自己嫌悪で一杯だ。マリユスの治癒の炎は彼女の痛みを和らげ怪我など無かったことにしてくれるはずと、リュカは絶対の信頼を置いている。それでも自身の不甲斐なさはどうしようもない。


「手は大丈夫。でも、……本当に行かない?」


 言葉では信じて貰えないのかと、胸が痛い。

 せめてオーロルには信じて欲しいと思うが、ダミアンとマリユスの顔を見れば彼女が疑うのも無理はないかと肩を落とす。


「行かない。俺が無茶をすれば、オーロルも無茶をするんだろう? それはやめて欲しいから」


 オーロルの髪に手を伸ばす。

 彼女の赤く長い髪は柔らかくしっとりとしている。触り心地のいい髪にずっと触れていたいと、手を離したくない。オーロルを独占したいと沸き起こる感情に慌てて手を離した。

 にやけているダミアンとマリユスに気が付き、怪訝な視線を向け咳を払う。照れ隠しにもならないと思うが仕方が無い。


「そうだ。オーロルは作戦から外してもらった。だから……」


 リュカの言葉にオーロルは耳を疑う。なんの為に前線に志願したのか、気持ちが無駄になってしまったようで悲しい。

 自分勝手な行動に勝手な想いだ。自分の力が足りないからだと自分を責め、どうしてこの気持ちをわかって貰えないのかと、リュカを責めたくもなる。

 言葉を返そうにも、無茶と承知で志願した前線だ。たった今までダミアンに怒られていたこともあって、口を噤む。何を言っても分が悪い。


「オーロルさんだけに無茶をするなと言うには、殿下の方が無茶が過ぎます」


 無茶ばかりと責め立てられていた中で、意外なところで庇われたとほっとする。

 リュカの無茶は今に始まった事でないと、マリユスの小言は長い。どれだけ言いたいことがあるのかと呆れるほどに長く、しまいにはリュカが欠伸を噛み殺す次第だ。欠伸が出るほど退屈かとも思えるが、まだ体調が万全ではないのかと心配が先に立つ。

 そして、その小言はオーロルにまで飛び火していく。気が付けばダミアンは業務に戻り、暇を持て余しているのかと思うほどマリユスの小言は続いた。


 今日は怒られてばかりだとオーロルは首は回す。

 長すぎる小言になにを言われていたのか記憶の片隅に追いやってしまいたいくらいだ。小言を聞くだけでこんなにも疲れてしまうものかと、オーロルは机に頭を乗せる。

 本来あった今日の仕事はなにもしていないと、思い出すも、込み上げる欠伸に追いやられてしまう。

 眠気を覚まそうと窓を開け、黄昏時の風に乗る夕餉の香りに一つでも仕事を終わらせようと気持ちを切り替えた。


 どのくらいの時間を机に向かっていたのか、蝋燭の灯を窓から吹き込む風が消してしまった。

 開けっ放しの窓を閉めようと手を伸ばせば、視界に動く人影を見つけた。時間も時間で兵士等が活動するには夜遅く、見回りの兵士だというならば、一人であるはずがない。

 気にはなるが、誰もが寝静まるような時間でもなく、オーロルのように残した仕事をこなす者もいる時間帯だ。

 深く気に留めることもなく、オーロルは蝋燭の灯が消えたことをキリに仕事を引き上げようと片付ける。

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