――15―― 暴れるドラゴンを退治したのは
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リュカが残したドラゴンを退治したのは王都から来た魔法使い達だった 。
残したといっても殆どが瀕死のドラゴンで、たいした手間も無い。それを王都からの魔法使いは全てを自分達の手柄のように振る舞う姿に、カレンデュラの騎兵団は苦々しい思いで見ているしかなかった。
そんな事よりも意識を失ったリュカを抱えて帰ってきたマリユス達の方が彼らの気を惹いた。
最強だと思っていたリュカが倒れたのだ。青ざめた顔のオーロルに、必至な顔をしたマリユスだ。気にならないはずがない。
リュカの報を聞いたダミアンは血相を変えて駆けつける。
彼にとってリュカは特別だ。リュカに対して父親にも似た想いがあることは自覚しており、それを不敬だと押さえ込むにはリュカへの想いが強すぎる。
誰の問い掛けにも応えず、意識のないリュカは苦しそうに熱い息を吐き、冷えていく体温にオーロルは何も出来ない事が悔しかった。
ベッドにリュカを寝かせたジルは街へ引き返し、マリユスはそのままリュカの対処に追われる。
何も出来ないオーロルは部屋の外で待っているしか出来ないのだ。マリユスはオーロルが部屋に入ることを許さなかった。それは騎兵団の世話を任されている宿舎母のクレールも同じだ。同じでも、看病に必要な物をクレールは部屋まで運ぶ。
オーロルは忙しなく部屋の前に通うクレールの邪魔にならないように、廊下の隅で丸くなっていた。
魔法使いは無敵だと思っていた。身内が、友人が魔法使いで無ければ知り合う機会なんてないことが一般的だ。寧ろ、自ら魔法使いとお近づきになろうとする人物のほうが稀だ。
オーロルだって兵士にならなければ魔法使いと話しをすることすら無かっただろう。
魔法使いについて無知な事を、リュカの力になれないと溢れる涙に苛立つ。
一人で肩を震わせているオーロルを見ていられないと、クレールは暖かい飲み物を差し出す。
クレールもリュカを深く知っているわけではないが、オーロルはリュカにとって特別な存在なのだとハッキリわかる。
言葉が少なく、表情の乏しかったリュカがオーロルの前ではわかりやすい顔をするのだ。
オーロルが騎兵団に来た日の様子をしばらくは忘れないだろう。
リュカが他人に興味を寄せる姿を初めて見たのだ。意外としか言い様のない様子に目を見張るものがあり、すぐマリユスに連れて行かれる姿にいつもの事と、場を濁したがアレには驚いた。他人に興味などなく、他人を寄せ付けないと思っていたのだ。
「オーロルはどうして泣いているんですか?」
オーロルの隣に寄り添うように腰を下ろす。
「わたし、リュカになにも出来なくて……申し訳なくて……」
はにかむように無理に作った笑顔が痛々しい。オーロルのせいでは無いのに、彼女はなにを気にしているのだろう。
「言葉にすると、よく分からない……」
膝に顔を埋め、肩を震わせる。
騎士を目指すには細い肩、真っ赤な燃えるような色をした赤くて長い髪、適度に日焼けした 健康的な肌。どこにだっている普通の子だ。
騎兵団はその性質上、女性はどうしても少ない。危険が伴う仕事だと、娘を持つ親は反対することが多い。
それでも今までだってオーロルのような普通の子はいた。ドラゴンに丸腰で向かっていくような無茶はオーロルくらいしか聞いた事は無いが。
……私だってと、クレールの胸の奥がちりりとする。
リュカはこのアンテリナム王国の王子だから、その妻の座を手に入れろと、父であるルンベック市長に言われていたと思い出す。
政略結婚は嫌だと駄々をこね、地位だけを見て結婚なんてしないと我儘を通したが、自分が彼にかすりもしないことに少しだけもやもやする。
自身は全くもってリュカに興味など無いくせにだ。
真っ赤な花蕾のように丸くなっているオーロルの頭を撫でる。
子猫のように見上げ泣き腫らした顔をリュカに見せなくてはと思い立つ。入室を禁じられる意味がわからなかった。マリユスは危険と一言しか言わなかったのだ。
誰も部屋に入るなと命じていた事など関係無いと、オーロルの手を引き扉を開ける。
側にある椅子に項垂れるように座り込むダミアンと、リュカの顔に浮かぶ汗を拭くマリユスが、突然開いた扉に注目する。
「クレールさん。入らないで下さいと申したはずですが?」
厳しい口調はリュカが護符を壊すほどの無茶をやらかした時と一緒だが、今は余裕がないと窺える。
クレールはマリユスを意に介する事もなく、黙ったまま俯くオーロルの背を押し、リュカの側にやる。
苦しげに顔を歪ませ意識のないリュカの頬に、オーロルはそっと手を乗せる。
「オーロルさん! 素手で触ってはいけません!」
魔法が暴走したときのリュカはその体自身が危険物となる。魔法使い以外の者は触れただけでかぶれ、かぶれるだけで済めば良い方だ。触れた場所から溶けてしまうことだってあるのだ。
マリユスの慌てぶりを余所にオーロルはリュカの顔をのぞき込む。
「リュカ……」
オーロルが触れてからリュカの顔は幾らか穏やかになったように見えた。希望的に見ているだけかもしれない。それでもリュカの苦しむ姿を見たくないと、この部屋にいる誰もが思っていることだ。
「オーロルさん! ダメです」
マリユスはオーロルの手を無理に引きはがす。
オーロルになにかあれば、リュカは今まで以上に荒れるだろう。ここ最近見せていた穏やかな表情を見ることは叶わなくなりそうだと危惧する。
驚きの表情で顔を強張らせているオーロルの手は綺麗なままだった。
「マリユスさん……?」
「あ、いや……」
そのまま手を離す。なにがあって綺麗なままか分からないが、無事ならそれでいいのだ。
ずっと黙って見ていたダミアンが重い口を開くかのようにオーロルを呼ぶ。




