No name #8
芸術は劣化し
時の移ろいの中で
削られて奪われていく
それは人の生き死にに似る
なぜなら
芸術は人の懐より生まれ出でる
死せる人より生まれ出でる
ならば芸術の指し示すものとは
死である
昔魔術の生み出した
泥の人形は
真理という言葉によって動き
真理を欠き死という言葉によって
崩れ去ったという
なぜなら
死は真理の中に存在したからである
ならば真理の指し示すものとは
死である
芸術は人より生まれ出でる
よって人の性に似る
それは虚偽である
それは懐疑である
それは偏見である
それは謀略である
それは忘却である
それは絶望である
それは悲しみである
それら総てが指し示すのは
人の生である
生ける人より生まれ出でる芸術
芸術は時に流され
芸術は消え
崩れ
死に絶える
それは生ける人そのものだからである
ならば生ける人の本質の意味は
死に向かうことである
芸術の輝きは
死に向かう美しさである
人が死に逝くことを止められない
悲しみである
絶望である
そしてそれこそが
芸術の本質である
生きるとは死ぬことである
また死ぬとは
生きるということである
そして芸術とは
生きて死ぬという事実の
端的な具現である
芸術は絶望によって
美しく彩られる
なぜなら神は人を愛されたからである
神は人を真に愛し
神は人を真に憎み
神は人を真に想い
神は人を真に嘲り
その窮極として芸術をお与えになった
よって芸術は神の愛である死を表し
神の憎しみである生を表す
生において深く人間は悲しみ
絶望し
死において神の愛を知る
完全たる神の愛を知る
人を愛するゆえに神は人を憎み
神は総てを与えたもう
人はそのとき
芸術を知る
死に向かうことを止められない
絶望こそが
芸術である
芸術によってのみ人は神を知り
芸術によってのみ人は生を知り
芸術によってのみ人は死を知り
優しさを知り
厳しさを知り
失うことを知り
得ることを知る
なぜなら人は
完全たる神の不完全だからである
完全たる神は総てを持つ
ゆえに総てを持たない
総てを行使でき
総てを行使できない
ゆえに芸術を存在させる
そして芸術を死滅させる
芸術は神の御業の行使であり
神の苦悩の一端であり
神の悟りの総てであり
何よりも神の不完全たる人間の
存在自身である
人の生き死ににその拠り所を求める
芸術の本質の意味は
神であり
人である
なぜなら
神も人も芸術も
総て人間だからである
ならば
人間の指し示すものは
絶望である
そしてその絶望の本質の意味とは
永遠である
そしてその永遠の指し示すものとは
人間である
ならば
永遠の指し示すものは
芸術である
ならば
芸術の指し示すものとは
絶望である
ならば
絶望の指し示す…