No name #7
ひんやりとした夜の光
昏い
なんの輝きもない夜の光
黒い焔のように
ゆらゆらと煌いて
まるで宇宙のそよ風に
吹かれているように
ぼんやりと辺りを霞ませて
こんな夜にこそ
こんな夜の光の中にこそ
愛や優しさや
そういうものがあるのだろう
耳をそばだてれば
微かに聞こえる
雲の流れる音
星の光の軋む音
地上の寝息
こんな夜にこそ
昏い昏い
夜の光の中にこそ
愛や優しさや
そういうものがあるのだろう
瞼をそっと閉じれば
微かに見える
雲海をわたる空気の流れ
月光のかげり
深海の瞳
こんな夜にこそ
ゆらゆらと霞む
夜の光の中にこそ
愛や優しさや
そういうものがあるのだろう
両手を高く掲げて
大きく息を吸って
この夜の光を
しっかり見て
しっかり聞いて
しっかり味わえば
そのときにこそ
まどろみに似た
蕩ける意識の中で
自分が崩れ去るのを
その意識の端で感じながら
自分もまた
夜の光になるのだろう
そしてその永遠にまで引き伸ばされた
僅かな時間の中で
全てのものは
初めて等しくなるのだろう
夜の光に照らされて
その光の中で
自分の総てをさらけ出して
初めて他のものと
公平になるのだろう
体
自意識
過去
未来
そういう
小さなしがらみは
ぜんぶ
ゆらゆらと煌く
黒い焔に似た
この夜の光が溶かしてくれる
この夜の光の
只中にあって
全てのものは
きっと初めて愛や優しさや
そういうものを知るのだろう
夜の光の中で
世界が脈打つのを見て
ゆっくりと回転するのを見て
あの無粋な昼間の光よりも
真実の自分に近いことに
きっと気づくに違いない
こんな夜にこそ
こんな夜の光の中にこそ
真実の魂や心に降る雪や
螺旋を描く風や海に浮かぶ月や
そういうものがあるのだろう