No name #1
15年以上前の作品です。
僕の指先から
滑り落ちる
光
色
時間
僕の指先が
潜り抜ける
空間
音
感情
僕の指先は
飛ぶ
空でもなく
大地でもなく
海でもなく
僕の目の前を飛ぶ
僕の心の前を飛ぶ
僕は叫ぶ
力いっぱい叫ぶ
いつかそれが
歌になることを願う
僕の指先を見つめて
僕は叫ぶ
心の声
眼の奥から
絞り出すような声
それは僕の指先が
僕の古い世界を
引き裂いていく音
僕には指先が見える
僕の肩甲骨から伸びる腕
その先の掌にくっついた五本の指
その指は僕の目の前に横たわる薄い膜のような世界を取り除こうと
僕の意思の支配から抜け出して
飛ぶ
そして目的地を指し示す
僕の指先が指す先には
知覚できない光が広がる
青い空の先の真っ黒な海を埋め尽くす
人の感情の混じらない光が
べたべたとまとわりつく
この地上の光
それは僕の心の前に横たわる薄い膜のような世界を作る
僕の指先は華麗にその膜を切り裂く
グロテスクに崩れていく世界の向こう側に
たくさんの快感があることを僕の指は知っている
僕の指先はわがままに
貪欲に世界をむさぼっていく
僕の指先はやがて僕になる
僕の指先が僕の意思になる
触れたい
黒い海の先にある光の渦
その内側に無限に広がる生命のスープ
ぐちゃぐちゃに掻き回して
僕の指先にまとわりつく
きらきら光るしずくを
黒い海が真っ白に染まるように振りまく
快楽に酔いしれる僕
さらに貪欲になる僕の指先
僕は叫ぶ
絶叫する
指先から伝わる
激しい情欲
激しい快感
絶頂に達したとき
僕は
僕の指先は
歌を歌う
音楽を奏でる
僕の指先は
人の感情の混じらない光を使って
その音楽をどこまでも遠くに響かせる
共鳴する光たち
形のない魂たち
みんな恍惚とした表情で
僕の指先を見つめる
僕の指先は飛ぶ
僕の目の前に横たわる薄い膜のような
粘着質の光を持つこの世界を
引き裂いて
僕の指先はわがままに
ただ純粋に貪欲に
誰にも聞こえない音を奏でる
お目汚し失礼しました。