魔法使いじゃないから!『レベル4―僕らは桜舞う中で杖を振るう―』
これは、七生の災難のお話第四弾!
基、『魔法使いじゃないから!』の四作目です。
このお話だけでも、わかるようにはなっています。
―1―
北海道のゴールデンウィークは、実は花見の見ごろ時期だったりする。
僕は部活動で花見見学に来ていた。
なのに何故こうなった?
それはやっぱりミーラさんのせいだよね?
どうすんだよこれ!!
僕達の目の前には、毛並みが立派なオオカミがこちら睨み付け立っていた……。
僕は、審七生。今年高校生になったばかりだ。登校初日の帰り道に、銀色に光る水色の髪に瞳の少女ミーラさんと出会った。
彼女に僕は、彼女の世界から召喚したモンスター倒しを押し付けられた! ミーラさんが持参した『杖』は、よりによってレア物だったらしく、僕にしか使えないものだった!
向こうの世界では、その杖を造れば名が轟く程の逸品らしい。でも地球じゃ使わないものだし、杖なんて持って歩けない! と言ったらミーラさんの師匠のパスカルさんは、ペン型にしてくれた――大きなお世話だ!!
お蔭で僕は、この世界で杖のレベルを上げるために、モンスター狩りをするはめになった!!
そしてミーラさんは、とんでもない事をしてくれた!
彼らの好奇心を刺激するからこんな事になったんだ――!
―2―
話は少し遡る――ミーラさんは突然、髪を黒くし転校生杖野ミラとして僕の前に現れた! そして、言う無も言わせずにペン型にした杖を僕の胸ポケットに入れた。先日、杖を小さくすると持ち帰ったモノだ。
受け取る気はない。そうなかったのに!
このままだと、杖のレベル上げを引き受けた事になる……。
いや勝手にポッケに入れられただけだし!
帰りに文句を言おうと思ったが部活があった。
『かそう部』――この部は、趣味全開! 魔女っ子大好きの大場幸映と同じクラスの二色愛音さんがエンジョイする為に作った部だ!
僕はその部の部長だ。やりたくないがやらされた! そしてミーラさんは、部員になった。
そういう訳で早速、部室で自己紹介や部の説明を……って、何をどう説明すればいいのやら。僕自身、何をする部なのかわからないでいた。
取りあえず三人は、魔法使いの話で盛り上がっている。
そして大場と二色さんは、今日は用事があるからと二人仲良く帰って行った。――二人ってもしかして付き合っているのだろうか?
いやそんな事は今は気にしている場合じゃない!
ミーラさんに声を掛けようとすると、逆に彼女から声を掛けて来た。
「話があるの」
僕にも用事があった。杖を返品しなくてはならない。
僕は頷いた。
「その杖だけど元の大きさに戻すのには、キーワードを設定する必要があって、それは七生くんが手に持って一番最初に言った言葉なんだって! で、小さい状態にするのには、その言葉を逆から言うと今のサイズに戻るらしいよ……」
ミーラさんは、僕が頷くと同時に話し出す。
僕は、あんぐりと口を開いて驚いた。
せっかちに話し出したのもそうだが、内容にも驚いた!
「ちょっと待って! これ受け取ったんじゃなくて、押し付けたよね? いやその前にその条件だったら、知らずに杖を手にして何か呟いていたらどうするところだったんだよ!」
「あ、そう言えばそうだね。でも師匠に言われた通りしたんだけどなぁ」
ミーラさんは、僕に言われて気が付いたようだ。相変わらず何も考えずに行動している。
せめて、杖に触れないでとか一言いってくれよ……。
知らんぷりを決めて触らなくてよかった!
僕は、安堵のため息をつく。
「決まった?」
「何が?」
「だから、杖を大きくする言葉!」
そんなすぐに思いつくかよ! 小さくする時には反対から言わなくちゃいけないんだろう? 忘れない言葉であまり使わない言葉だよな。
僕は、うーんと考えて、ハッとする。
いや、違うだろう! 杖を返すんだ!
「ちょっと待って! 僕、受け取るとは言ってない! 報酬も聞いていないし!」
「杖がレベルアップして、形態が変わったらお金を差し上げますだって」
形態ってどれくらい上がったら変わるんだよ……。じゃなくて、どんな報酬も断るんだった!
「いやお金いらないし!」
「あ、ダメ!」
僕はそう言って、杖に触れようとすると、ミーラさんは慌てて叫んだ。
「なんだよ」
「杖を掴んだまま何か発してしまったらそれが登録されちゃうから、決まってから触らせるように言われているの!」
「あのな。僕は断ったんだけど!」
「でも私、それがレベルアップして形態が変わらないと、元の世界に帰れないの! お願い引き受けて!」
なんですとー!
どっちも嫌なんですが!
ミーラさんなら帰れと言っても帰らないだろうなぁ。そして、強引にモンスター召喚するんだろうなぁ……。
う、受けるしかないのか?
くそ! あの師匠め!
「一つ聞くけど、どれくらいのレベルで形態って変わるんだ?」
「さあ? 何も言ってなかった」
可愛く首を傾げるミーラさん。――可愛く傾げたって駄目だろう! 恐ろしくレベル上げなくちゃいけなかったらどうするんだよ!
「あぁ、もう! わかったよ! だけど一つだけ約束してほしい。勝手に召喚はしない事!」
「はーい」
僕の条件にニッコリと嬉しそうに、ミーラさんは返事をした。本当にわかっているんだろうか? 悔しいが僕が折れるしかない。
さて、杖を大きくする言葉はどうしようかな。
「決まった?」
「まだ。短すぎても何かの拍子に触っていて大きくなったら困るし、長すぎると小さくする時に、訳がわからなくなる。もし万が一、周りに人がいて聞かれても大丈夫な言葉がいいんだよ」
「わがままだね!」
「ミーラさんだけには言われたくないよ!」
つい怒鳴ってしまった。ここは部室だ。あまり大きな声を出すと外に聞こえ、先生が来るかもしれない。なにせ、職員室の横にあった道具置き場を部室にしたのだから。
これ絶対、監視下に置かれていると思うんだけど、部が認定されれば何でもOKな二人は大喜びだっだけどね。
「ねえ、自分の氏名は?」
珍しくミーラさんが提案してきた。なるほど。そう言うのもありかな?
「あきらなお。お……な……ら……! 却下だ!!」
ミーラさんは、お腹を抱えて笑っている!
なんて奴だ!!
さっさと杖のレベルを上げて、向こうの世界に帰してやる!
僕は深呼吸する。
お、落ち着こう。
さて、どうしようか。……そうだ。回文とかどうだろうか? 『しんぶんし』みたいに反対から読んでも同じ言葉になるやつ!
これなら大きくする時も小さくする時も同じ言葉になる!
問題は、何にするかだよな。変な言葉だと注目されるかもしれないし……いや、杖を使う時点で注目をされるのか? ――深くそこは考えないようにしよう!
僕は考えた抜いて決まった言葉を杖を握りしめ発する。
「るすになにする!」
「何それ?」
ミーラさんは台詞に驚くも、杖は大きくなった。
「すご。本当に大きくなった!」
僕は、本当に杖が戻った事に驚く。じゃ、もう一度。
「るすになにする!」
杖は、シュッと小さくなり、僕の手のひらに収まる。ペン型の杖に戻った。
「え? 同じ言葉?」
「回文って言うんだ。前からでも後ろからでも同じ言葉になるんだ」
「へえ、なるほど! でもチョイスはいまいちだね」
「うるさい!」
知っている言葉はそんなになかったんだ! 後知っているのは、『しんぶんし』に『わたし負けましたわ』だけだった。――負けた何て呪文にしたくない!
そして家に帰ってから気づいたが、別にあの場で決めなくてもよかった。色々調べてからでも問題がなかった。急かされてその場で決めた事が悔やむまれる。
どうしてもミーラさんのペースに乗せられてしまうんだよなぁ。
はぁ……。
僕は、ミーラさんと出会ってから多くなったため息の数をまた更新するのであった。
―3―
今日の部活は、凄く三人で盛り上がっている。内容は珍しく魔女っ子じゃない! なんと花見の話だ。
ミーラさんが見たことがないと言った事から始まった。そして、部活動としてお花見をする事が、部長である僕を差し置いて決定した……。
「別に構わないけどさ、部活動としてじゃなくてもよくない?」
僕としては、極力ミーラさんと一緒に行動をしたくない。それは勿論トラブルに巻き込まれるからだ。そう思って発言すると、二色さんが反論してきた。
「何を言っているの! 魔女っ子の基本は制服でしょう! ツインテールが目の前にいるのに!」
「………」
あぁ、結局魔女っ子の話なのか。しかも見た目の話。まあ、あのワンピースみたいな服よりは、魔法使いには見えるけどさ。
「わかったよ」
僕の承諾を得て二色さんは満足したようだ。いや僕に決定権ってあってないようなものだ。ただハンを押すだけみたいな?
まあ、花見と言っても桜を見て回るだけだし、ミーラさんが何も事を起こさなければ問題ないか。
僕達は五月三日に近くの桜を見に行くことになった。
校外活動は一応、活動報告をしなくてはいけないので、教頭先生に許可をもらいに僕達は向かった。
本当は僕だけでいいのだが、何故か全員ついてきた。
職員室にぞろぞろと四人で入り、教頭先生に提出する。
「親睦と魔女っ子の仮想の為……?」
書かれた理由を読み上げ教頭先生は、顔を上げる。
「桜舞う中に魔女っ子ですわ! かそう部ですもの!」
教頭先生は意味がわからないという表情を浮かべる。そして、僕に目配せをしてきた。――僕に説明を求めてると思われる。
だが、僕にも意味がわからない。でも一応何か言っておかないと、二色さん達に後で文句を言われそうだ。
「えーとですね……。ツインテールと制服はセットみたいです」
……それしか思いつかなかった。
休日に制服で行動するのには、部活動としての行動として許可を得なければならない。僕の言いたい事がわかったのか、教頭先生っは許可をくれた。
どちらにしても二色さんが食い下がらないのは、部を作る時に知っているので許可を出したんだと思うけど。
こうしてスムーズに許可がおり、制服で花見に行くことになった。
校外部活動の日になった。直接花見をする場所で待ち合わせする事にした。
ミーラさんに場所がわかるかと聞いたら、杖があればわかると言われた。そう言えばそうだったと思い出す。よくわからないが、杖の場所を把握できるらしい。
ほどなくして全員が揃い、四人でゴールデンウィーク真っ只中、制服で桜の下を歩く。
「きれいですね~。師匠にも見せてあげたいなぁ」
ミーラさんは、そう言いながら桜を見上げ歩く。
確かに綺麗だ。何故桜ってこんなにきれいなんだろう?
僕達も桜を見上げた。
「師匠って、杖の匠だったよな。俺にも作ってほしいよ」
大場が見上げたまましみじみと言ったが、全く持って桜とは関係ない内容だ。
「そうね。私もほしいわ。でも、杖を持つならミラさんの方が絶対似合うわ!」
二色さんとミーラさんは、仲良くなり名前で呼び合うようになっていた。――いやそんな事より、話がどんどん桜から違う方向に言ってますが……。
「そうかな?」
ミーラさんは嬉しそうにそう言うと、二色さんと大場は大きく頷いた。そう言えば、かそう部の活動だからこの会話はおかしくないのか? ――なんか僕、毒されてきてないか?
「じゃあ、ちょっと構えてみるかな?」
「え! じゃ、写メ撮っていい?」
「シャメ?」
ミーラさんが僕をジッと見つめて来た。
「いいんじゃないか? 写メぐらい」
「よくわからないけどいいって!」
ミーラさんにそう言うと、彼女は二色さんに返事を返した。もしかして写メの意味を聞いていたのか?
まあ、いっか。――って、杖はどうする気だ?
「じゃあっちに行こうよ!」
ミーラさんは、あまり人がこなさそうな場所を指さした。
今も人はまばらだ。何せ時間が早い。朝の九時前。人が少ない方がいいと二色さんが言ってそうなった。
ミーラさんが移動を始めると二人もついて行く。
「ちょっと待てって!」
そこは、立入禁止だ!
ミーラさんが読めなくても二人は読めるだろう!
そう思いつつも僕も三人を追いかけて立ち入り区域に入った。――ごめんなさい!
三人に追いつくと、二人の目の前でミーラさんは魔法陣を描き、止める間もなく手を突っ込んだ!
一瞬、モンスターを呼び出すのかと思ったが違った。ミーラさんの手には杖が握られていた!
パチパチパチっと、二色さんと大場が彼女に拍手を送る。
「すげぇ」
「上手ね。どうやったの?」
手品だと思った二人は、ミーラさんを褒めた。
いや手品じゃないから……って! そんな事も出来るのか!
「それどうしたんだよ! また勝手に……」
僕はハッとして叫んだ! また師匠のパスカルさんの所から持ち出したものなんじゃないかと思ったからだ。今僕が所持している杖も持ち出した事により手にしているモノだ!
「ちゃんと自分のよ! 自分で作った物! 見た目は褒められたんだから!」
「え、それミラさんが作ったの! すごーい。今度私にも作ってよ!」
「俺も俺も!」
二人は勢いよく食いついた! いや待ってくれ。ミーラさんなら本当に作って渡しそうだから。
って、杖も見栄えが大切なのか? 確かに僕が持っているのと同じように見えるが。
「いいよう。今度戻ったら作ってくるね!」
「ちょっと待て! そんな事して大丈夫なのか? って、ミーラさんが作った物ってちゃんとしたものなのかよ!」
失敗作でも全く使えない物なら問題ない。だが、変な効果がついた失敗作なら大変だ! そう思って言ったのだが……
「ちょっと! そんな言い方ないでしょう!」
二色さんが切れた……。睨んで無言の圧力を掛けて来る。きっと謝れと言っているんだろう。
「いや、だから……。えーと、ごめん」
二色さんの睨みに負け、僕はミーラさんに謝った。――僕は悪くない……。
「ふ~んだ。これだってちゃんとした杖なんだから! ただ師匠には使えないって言われたけどさ」
「え? そうなの? 杖の性能ってやっぱりあるものなんだ」
ミーラさんの言葉に何故か関心して二色さんが述べた。
少し不安になってくる。二色さんは、ミーラさんの話は作り話として聞いているはずなんだけど、現実として捕らえて話しているように感じる。
「うん。逆だから」
「逆ってなんだ?」
「魔物を消滅させるんじゃなくて、発生させるの! 私の世界では必要ないものだから使えないって言われちゃった!」
大場の質問に平然とミーラさんは答えた!
なんちゅーもんを作ってるんだぁ! パスカルさんも破棄させておいてよ!
「すげぇ! ちょっと使わせて!」
「いやいやいや。大場待てって!」
俺は慌てて止めた。杖は普通誰にでも使える物らしい。ミーラさんの言う通りに本当にその効果があるならやばい!
「あのな。独り占めするなよ! 自分は好き勝手に楽しんでるくせに!」
「………」
大場達はどうやら、ごっこ遊びをしているつもりらしい。――やっとわかったよ。『かそう部』の活動内容が!
大場はミーラさんから杖を受け取ってしまった。
「で、どうすればいいんだ?」
「うんとね。杖を魔物を出したい場所に向けて、魔物をイメージして出てこいって言うだけだよ」
大場はミーラさんの説明に、ふ~んっと言うと、ビシッと杖を振り言われた通り叫んだ。
「出てこい!」
そして驚く事にそこには、本当に大きなオオカミが現れた! ――マジかよ!
―4―
何故かシーンと静まり返る。
マジに出た! ミーラさんもパスカルさんの弟子だけあってちゃんと? 杖を造れるようだ。だけどなんて物を造ったんだ!!
「すげぇ。どうなってるんだ? 俺が想像したモノが出た!」
そりゃ一応本物の杖ですから……。
「透けてない! 映像じゃないの? 本当のオオカミみたい!」
オオカミに見えますが、あれはモンスターです! ――って、突っ込みを入れてる場合じゃない! 何とかしないと!
うん? あれ?
「二人とも見えてるの!!」
僕が叫ぶと、二人は不思議そうな顔を僕に向けた。今までのモンスターは僕以外の人達には見えていなかった。
ガルルル……。オオカミは僕達に威嚇を始めた。
やばい。二人に見えてる事だしいいか。
「るすになにする!」
僕は杖を手にして叫んだ!
突然言った言葉に驚き、杖が出現した事にも二人は驚いたのか、何も言わずに茫然としている。
「もうミーラさん! 約束しただろう!」
「約束?」
なんだっけという顔で聞き返して来た。
「モンスターを勝手に出さないって約束だよ!」
「え~。出したの私じゃないし!」
「同じ事だろう!!」
「ふ~んだ。召喚してないもん」
屁理屈ばかりいいやがって!
「結局、お前もノリノリじゃん」
大場が僕に向かって言った。
ノリノリって……僕にとっては、強制的なんだけど!
「あぁ、もう! 消滅しろ!」
僕は怒りを込めて、オオカミに杖を振るった!
オオカミはよろけるも目を吊り上げる。その目は赤に変わっている!
一発で倒せないのか!
もう自分の強さも相手の強さもわからないと戦いづらい! 出来ればこの状態にしたくないのに!
ゲームでいうなら、ある程度HPが削れると、敵が狂暴化になる状況と一緒だ!
「もう二人共ずるい! 私もやりたい! 貸して!」
二色さんが自分も杖を使いたいと言い出した。しかも僕に……。
彼女は出すより攻撃したいらしい。しかし、これ僕専用だし。
「これは、僕専用なんだ。だから……」
「何それ! 少しぐらい貸してくれてもいいでしょう!」
「いや、そうじゃなくて……」
突然、オオカミが僕に向かって飛びかかって来た! 言い争い? をしていた僕は咄嗟によけるも、杖を持ってる右手に攻撃をくらい杖を落としてしまった!
そしてそれを二色さんが拾ってニンマリとする。
「ちょ……。危ないから!」
「いいから。いいから。消滅して!」
二色さんは嬉しそうに、オオカミに向かって杖を振るった。勿論何も起こらない。いや、僕が振るった時と同じだ。見た目は……。
「消滅!」
「俺も消滅!」
二色さんがオオカミに向かって杖を振ると、大場もミーラさんの杖を振った。
「ちょっと待てて!」
僕は慌てた。大場が持っているのはモンスターを出す杖だ! 万が一また出たら厄介だ。しかし何も出てこなかった。僕は胸を撫で下ろす。
「も、もういいよね? 返してくれない?」
僕は二色さんにそういうも嫌そうな顔をされた。――あぁもう、返してよ!
オオカミは二人に威嚇していたが、大場目掛けてジャンプした!
僕は慌てて、二色さんから杖を奪い取った!
「うわ~!」
「消滅しろ!」
襲い掛かって来たオオカミに驚いた大場は、頭を庇う様にして両手を顔の前で構えた! そして僕は、そのオオカミに向けて杖を振るった!
オオカミは、大場に攻撃を入れる直前で消滅した!
ビビった! 冗談じゃない! 二人まで巻き込むなんて!
「やったー!」
後ろから喜ぶミーラさんの声が僕の耳に届いた。――振り向いて彼女を睨み付ける。
「何、考えてるのさ!」
「何って。杖のレベルアップでしょう? この世界で出した魔物でもその杖がレベルアップする事が証明された! あぁこれで、師匠に私の杖が認めらる!」
僕はハッとして杖を見るも形態は変わっていない。ガックシと肩を落とす。
使っている本人が、杖のレベルアップを確認出来ないってどうなんだ?
うん? いや待てよ?
「もしかして、その杖を使えって言ったのパスカルさん?」
「そうだよ! 杖のレベル上げに使えるなら、私達の魔物をこっちで消滅させなくていいからさ! それが出来たら私の杖の価値を認めてくれるって!」
僕の質問に嬉々としてミーラさんは答えた。
モンスターは、魔力で出来ているらしく、消滅させる事で魔力に戻している。
パスカルさんは、向こうの世界のモンスターをこっちで消滅させれば、魔力還元が向こうの世界で行われない。そこでミーラさんが造った杖でこっちの魔力を使ってモンスターを作り、それを消滅させ僕の杖のレベルアップに使えないかと考えた?
はあ? だったら最初から言ってほしい! いやミーラさんの口ぶりからすると、本人も気づいてないな。僕もミーラさんも上手く丸め込まれた?
自分の杖のレベルアップの為に!!
僕の考えが甘かった! 流石ミーラさんの師匠だ! ミーラさんの上を行く……。
「ちょっと二人だけで盛り上がらないでよ! よく設定がわからないんだけど?」
「そうだよ! って、なんでおいしいとこを審が持ってくんだよ!」
文句タラタラの二人。あぁ、こっちも厄介だ! 代われるなら代わってほしいよ!
二人に説明して協力でもしてもらうか? ……いやダメだ! 協力という名の下で、好き放題しそうだ! ――ミーラさんが三人になったら困る!
「あぁ、ごめん。つい、夢中になって……。それより写メ撮るんじゃなかったのか?」
「あ、そうだったわ! 幸映、杖をミラさんに」
「おう!」
大場はミーラさんに杖を返した。
「るすになにする」
僕はこっそり戻す言葉を口にし杖をペン型に戻す。そして胸ポケットに突っ込む。
かくして、ミーラさんの写真撮影が始まった。彼女は笑顔で杖持ちポーズを取っていた。――ここだけ切り取ると平和な一枚だ。
―エピローグ―
帰り道に僕はこっそりと、ミーラさんに耳打ちする。
「ミーラさんが造った杖は、ミーラさん自身で使ってほしい。二人には使わせないで欲しいんだ」
「それ、多分無理だと思う」
「なんで?」
ミーラさんは、ちょっとムッとした顔つきになる。
「私、魔法使いじゃないから。七生くんと違うの!」
使った所で出来ないと思っているらしい。大場に出来たのだから自分にも出来るとは思はないのか……。
それよりも、今回もちゃんと訂正しておこう!
「僕は魔法使いじゃないから!」
「何言ってるのさ! 杖をレベルアップさせといて!」
「したくてしてる訳じゃないだろう! それ!」
僕達が言い合いを始めると、大場と二色さんが呆れ顔だ。また始まったと……。
「だから、僕は魔法使いじゃないってば!」
僕の叫び声が大きく響いた――。
如何だったでしょうか?
シリーズをまだお読みでない方で、興味を持たれた方は是非、レベル1からどうぞ☆
今回もお読みいただき、ありがとうございました!