詩神
麗しき詩神
胸元覗かせ 太腿も露わに 我が閨を訪う
流るる髪は 蕩けたる黄金の如く
真白き肌は 触れらば溶ける 初雪が如し
その艶なる肢体に 睡魔も 己が生業を忘れ 括目す
美しき女神
月明かりの窓辺に寄りて 緑瞳 虚空を見やり
桜花の雫にて濡れたる唇 朧げなる詩想を紡ぐ
我 紡がれては消えゆく詩情を留めんと欲し
慌て臥所を飛び降りて 白紙の上に筆を繰る
女神の詩想 薫香華やかにして 水面に揺れる月影の如し
我が拙き筆では 捉えること 甚だ難し
己が未熟に煩悶し 書きては捨てたる惨めな我を
詩神 笑みて眺め またひとつ 妙なる詩想を強いる
夜明けに鳥の歌う頃
憔悴せし我 怯えながらに詩を上奏す
詩神 乱れし筆の跡を 白指に辿りて 微かに笑む
苦心惨憺の甲斐ありと 安堵する我に
女神の麗しき尊顔 寄り来たり
さては 褒美の口づけか
下卑たる思いに駆られども
美神の唇 我に触れず 耳元に留まりて かく囁きたり
「また今夜
新たな詩想を お持ちします
書き留めずにはいられない
素敵な詩想を お持ちします
断らないでくださいましね
あなたたち詩人は
ただ 私たち詩神に仕える為にだけ
存在しているのですから」
詩神 露なる白肌に曙光を浴びて その眩きに消ゆ
無体な苦役に 残滓と化した我
ただ自失として 立ち尽くさん