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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

筒井筒の君に捧ぐ愛。

私の騎士は、隣のお兄ちゃん。

作者: ひざ小僧

短編小説「僕の、僕だけのお姫様。」を先に読んでいただけると幸いです。

「莉緒ちゃん……、僕の、僕だけのお姫様。莉緒ちゃんのこと一生大事にする。莉緒ちゃんを守り支える騎士ナイトになる。だから、僕のお嫁さんになってくれる?」

 お引越して両親とご近所に挨拶回りに行った日に出会ったのは、7歳上のカッコいいお兄ちゃんだった。その翌日、親友同士だったお父さんたちの後押しもあって、お兄ちゃんからプロポーズされた。

 私、3歳。お兄ちゃん、10歳。

 幼すぎる私は「お嫁さんになる」ことの意味をよく理解できていなかったけど、優しくて、安心できて、私を可愛がってくれるカッコいいお兄ちゃんを好きになるには時間とか関係なくて、ずーっと一緒にいられたら嬉しいなぁ〜と思ったの。だから、迷わず答えることができたの。

「うん! お兄ちゃんのおよめさんになる!」

 お兄ちゃんは、顔を真赤にしながら私をギュッとして喜んでくれたのに、お父さんが割り込んで引き剥がそうとしてたっけ。それをお母さんがズルズルと引き摺っていくのを見て、皆で大笑いしてたよね。

 以来、お兄ちゃんは私のことをすごく大事にしてくれて、可愛がってくれて、優しくしてくれた。

 もちろん、私もお兄ちゃんのことが大好きだからとても嬉しかったけど、たまにクラスの男の子の話をすると機嫌が少し悪くなったのは何だったのかなぁ?




 あれから7年。

 私は小学4年生のお転婆娘に成長し、お兄ちゃんは誰もが振り返るイケメン高校2年生になっていた。

「内藤くん。あの……、私……、内藤くんのことが好きなの。真面目で一途に頑張る姿も優しい姿も。だから、私とお付き合いしてくれませんか?」

 内藤家の前には、今日も頬を赤く染めたお姉さんがお兄ちゃんに告白をしている。

 お兄ちゃんが都内の有名進学校に入学した頃からイケメンぶりに益々磨きがかかり、近頃では(一部お姉さん方の評では)男の色気を纏うようになったため、独身の女性教師まで色目を使ってくるとかなんとか。

「連日自宅前で待ち伏せられるの、本当にウザい」

 学校では完全に猫を被っているお兄ちゃんも、私の前では口も悪く不機嫌さを隠そうとしない。それを承知で「お兄ちゃん、モテモテだね」とからかってみると、「俺は、莉緒にだけモテればそれでいい。莉緒以外の女は興味ないし、大事にしたいのは莉緒だけなんだけど」と拗ねてムギュッとくっついてくる。7歳も上の男の人に対し使うべき言葉ではないけど、拗ねるお兄ちゃんは何だか可愛い。ただ、この姿は絶対お姉さん方に見られたくないけど(絶対私殺される……!)。


 お姉さん方の追っかけがエスカレートしお兄ちゃんのストレスも溜まってきた頃、ついに事件が起きてしまった。いつかブチ切れるだろうとは危惧してたけど、あれほどまでに怒りをあらわにした姿は見たことがない。

 その日、運動会で休日登校する私に付き添うと言い張ったお兄ちゃんは、約束の時間より少し早く表で待っていた。早朝にもかかわらず内藤家の前にはお兄ちゃん目当てのお姉さん方が押しかけていて、お兄ちゃんが姿を現すとお姉さん方が色めきたち、閑静な住宅街は一時騒然となった。

「内藤くん、おはよ。あの、今日は私と……」

「内藤くん、鎌倉に別荘があるの。一緒に行こう!」

「ねぇ、内藤くん……」(以下略)

 お兄ちゃんは群がるお姉さん方をガン無視し、ひたすら私が出てくるのを待ってくれている。この状況下で「お兄ちゃん、お待たせ〜」とお姉さん方を掻き分けていく勇気はない。門扉を開けて外に出たものの、どうしようと思いながら遠慮がちに手を振ると、お兄ちゃんは蕩けるような甘い顔で「莉緒、おはよう。荷物を持ってやるよ」と私の方に向かってきた。お兄ちゃん、空気読んでよ!! と心の中でツッコんだけど、案の定、お姉さん方から「あの子、誰?」とヒソヒソ言われ、結果(私が)手痛い洗礼を受けるハメになる。

「内藤くん、ちょっと!」

「内藤くん、あの子一体何なのよ!」

 詰め寄るお姉さん方に行手を阻まれても女子高生相手に殴り飛ばす訳にもいかず、身動きがとれないお兄ちゃんの苛立ちは最高潮に達していた。とはいえ、長年イケメン優等生として磨かれたポーカーフェイスは完璧で、纏うオーラも表情も魔王様が泣いて逃げ出したくなるほど禍々しいものに変貌しているのに、お姉さん方は誰も気づかない。

 静かなる怒りは反動が大きい。逆鱗に触れる前に退散した方がいいぞ〜と思っていたら、いつの間にか集団ヒステリーと化したお姉さん方の怒りが私に向けられていた。

「ちょっと何よ、アンタ!」

「ガキのくせに、なに色気づいてんのよ!」

「あんたなんか、内藤くんのお呼びでないのよ」

「ガキはガキ同士で遊んでればいいのよ」

「小学生のくせに、生意気ね」

 小学生の中でも身長が低い方の私が大きいお姉さん方に囲まれる構図は、まるで地球人と宇宙人グレイだ。身動きが取れず、肩を小突かれ、背中を押され、もみくちゃにされ、一方的にいたぶられる「小学生」には恐怖でしかない。お兄ちゃんが「お前ら、莉緒から離れろ!」と制止したけど、頭に血が上っているお姉さん方は全くやめる気配がない。

 この状況に本音を言わせてもらうなら、今から義務教育の一環として行われる運動会に参加しなければならないのに、くだらない事でお姉さん方と揉めて遊んでる時間などない。普段より相当早く支度をしたが、このままでは登校もギリギリになってしまう。今まで無遅刻無欠席で頑張ってきたのに、遅刻したらどうしてくれるのだ……!

 そう思ったら、この理不尽で非常識な仕打ちに対し猛烈に腹がたってきた。

「……るさいなぁ……」

「? 何言ってるの、この子?」

 小声でブツブツ言ったのが一部のお姉さんに聞こえたのか、急に静かになった。

「週末の早朝、閑静な住宅街で、黄色い歓声上げて馬鹿じゃないの? そうね、私はお姉さん方から見れば確かにガキだけど、ガキと見下すお姉さん方がやってることは非常識よ。お兄ちゃん家はもちろん、ご近所さんにどれだけ迷惑かけているのかわからないの? ついでに言わせてもらうと、私は義務教育の一環として、今から運動会のために登校しなくちゃならないの。遅刻しちゃうからお姉さん方と遊んでいる時間はないの。天下の公道で私の行く手を遮らないでくれるかな」

 急に口撃を始めた小学生の剣幕に押され、お姉さん方は一瞬押し黙った。でも、すぐに気を取り直して怒り全開で詰め寄ってきた。

「ちょっと、このクソガキ! 先程から聞いていれば、私たちが非常識だっていうの? 失礼じゃない」

 遠巻きで眺めていた清楚で上品なお嬢様然としたお姉さんがツカツカと私の方に歩み寄ると、汚い言葉で罵りながら鬼の形相で右手を上げた。

「おい、やめろ!」

 お兄ちゃんの制止も間に合わず、強烈な痛みが左頬を襲った。目から火花が散る感じがして、口の中が切れたのか鉄臭い味がした。「あぁ、打たれたんだ……」と自覚した瞬間、アスファルトの上に叩きつけられていた。そう、お姉さんの強烈な平手打ちで体重の軽い私の体が吹っ飛んだのだ。

 右半身は打撲と擦傷、口の中は切傷、頭も強打し何だかクラクラしているので多分軽い脳震盪起こしてるかも。衝撃が強すぎて自力で起き上がろうにもできない。

「莉緒! おい、莉緒!」

「お…兄…ちゃん……」

 ごめん。勝ち気な性格が災いして、お姉さん方を煽っちまったよ……。

 あとで聞いた話だが、このとき「心配しないで……(ニコッ)」としたつもりだったのに、口から血が垂れて流血の惨事に見えたそうな。てへ♪

 私に手を出したことで完全にブチ切れたお兄ちゃんは、閻魔大王様も土下座して泣きわめくレベルの怒りをぶちかました。

「お前ら……、よくも俺の莉緒に手を上げたな……」

 普段温厚で優等生の仮面を被っていただけに、その豹変ぶりに(今更ながら)お姉さん方は驚きざわめいた。

「特に、篠宮っ!」

 私に手を上げたお嬢様が、ビクッとした。

「お前がしたことは、万死に値する。莉緒に手を上げておいて、無事で済むとは思うなよ」

 篠宮と呼ばれたお嬢様はカタカタ震えているが、気丈にも(無謀ともいう)お兄ちゃんに口答えをした。

「何よ、内藤くん。そんなこと言って私をどうしようというのよ! 私は篠宮コーポレーションの惣領娘よ! いくら内藤くんが優等生だからって、私に手出しできるわけないじゃない! そもそも、内藤くんが私に振り向かずにそんなガキに甘い顔するからこうなったんでしょうが!」

 ヒステリックに生家の威光を振りかざす。

 どうやら、これが篠宮お嬢様の本性らしい。先程「清楚で上品」と評したけど、アレ、撤回な。

 で、虎の威を借る狐さん(お嬢様)と取り巻きの腰巾着(お姉さん方)がさんざん御託を並べると、お兄ちゃんは凍てつく眼差しで睨みつけた。

「……言いたいことはそれだけか? 篠宮、生徒会でちょっと一緒に仕事したくらいで何を勘違いしてるんだ。お前なんか、端からお呼びじゃねぇーんだよ。そして、お前ら! 絶対ぇ許さねぇからなっ。覚悟はいいだろうな」

 お兄ちゃんは、大きな声で「お願いします」と叫ぶと複数人のバタバタと駆け寄る足音が聞こえ、いつの間にか私たちを警官が取り囲んでいた。

「動くなっ! 今から君たちを傷害と脅迫の現行犯で署に来てもらう! その他にも迷惑防止条例違反、ストーカー行為についても署でしっかり話を聞かせてもらうぞ!」

 篠宮お嬢様は、ワナワナ震えながらも警官の拘束を逃れようと暴れまくる。結果、脛を蹴飛ばし腕を噛みつき顔を平手打ちし、自ら積極的に余罪を作ることに貢献した。

「それと、公務執行妨害の現行犯も追加な」

 私服警官の無情な言葉に、篠宮お嬢様は膝から崩れ落ちた。それでもプライドが許さないのか、お兄ちゃんをキッと睨むと最後の悪あがきをする。

「こんなこと、許されないわ! お父様が絶対許さないわよ! 篠宮コンツェルンのトップであり、有力国会議員なのよ!」

「だから、何だ。こんなバカ娘をもって篠宮も気の毒な奴だな。安心しろ、今日の愚行も連日のつきまとい行為も全て映像に記録してある。これらは全て、警察に証拠として提出するつもりだ。篠宮コンツェルンについては、粉飾決算に不正カルテルや違法献金、従業員に対する過労死ラインを超える残業の強制などなど、ちょっと調べただけで色々埃が出てきたから、これもまとめて告発させてもらう。最後に篠宮議員だが、不適切かつ不明瞭な政治資金の運用があり、これも厳しく追求されることになる。どうだ、これで何も心配することはなくなっただろう?」

 篠宮お嬢様は、お兄ちゃんが吐く言葉の意味が理解できず固まっている。いや、理解したくなくて呆然としているという方が正しいかもしれない。

「篠宮だけじゃないぞ! 仮に刑事告訴されなくても、民事訴訟で徹底的にやりあってやる。お前ら全員覚悟しろ」

 篠宮お嬢様は言い足らなさそうな顔をしていたが、これ以上言葉が紡がれることなく連行されていった。他のお姉さん方も、ガックリと肩を落としてパトカーに乗せられて行った。

 やや遅れて救急車が到着すると、お兄ちゃんは表の騒ぎを聞きつけて出てきたお父さんと救急隊員に私の怪我の状況を説明し、そのまま搬送されていく私を見送った。

 遠ざかる喧騒、救急車のサイレン。お父さんは心配そうに私の手をギュッと握ってくれた。

「お父さん、私大丈夫だよ。負けなかったよ……」

 そう伝えると、プツリと意識が途絶えた。




『莉緒ちゃん……、僕の、僕だけのお姫様。莉緒ちゃんのこと一生大事にする。莉緒ちゃんを守り支える騎士ナイトになる。だから、僕のお嫁さんになってくれる?』

『うん! お兄ちゃんのおよめさんになる!』

 そう、私はお兄ちゃんのお嫁さんになるの……。


 お兄ちゃんからプロポーズされて幸せな気分に浸っていると、意識がゆるゆると浮上していった。ぼんやりと目を開けると、そこには見慣れない白い天井が。自分の部屋じゃないし、お兄ちゃん家でもない。あれぇ~? と思っていたら、人が動く気配がした。

「莉緒……?」

 声が聞こえる方に頭を動かそうとすると、首が痛くて回らない。

「莉緒、無理するな」

 慌てて私の顔を覗き込んだのは、憔悴しきったお兄ちゃんだった。

「お兄ちゃん。私、どうしちゃったの……?」

「莉緒は、あれから丸一日眠っていたんだ。だから、無理に考え事をしたり体を動かそうとするな」

 そう言って、布団をかけなおし、私の手を握った。

 お兄ちゃんがナースコールで私が目覚めたことを知らせると、看護師さんが様子を見に来てくれた。簡単に怪我の概要を教えてくれて、軽い脳震盪に加え口腔内切傷・右上腕部及び右大腿部の擦傷、そして頸椎と右足首の捻挫に打撲もあったそうで、先程痛みで首が回らなかったのはそういうことらしい。

「莉緒ちゃん、小さいのによく頑張ったわね。でも、もう少し眠って体を休ませてあげようね」

 看護師さんは、鎮痛剤と水を用意して飲ませてくれた。その間お兄ちゃんに色々と注意事項を伝えていたようだけど、はっきり覚えていない。

 そして、徐々に意識が薄らいでくると、再び眠りに落ちた。




 結局1週間程入院し、退院後は内藤家お祖父様の大豪邸で1ヶ月間療養することになった。

 今回の件は、お兄ちゃんに対するつきまとい行為から起きた事件だったので、「木下家周辺の安全面が確認されるまでは、孫息子の将来の嫁を内藤家総力をあげて守るべし!」と、内藤家当主のお祖父様から大号令がかかったそうな。手厚い看護と快適な生活で順調に回復できたけど、お祖父様がデレまくって「やっぱ、孫息子より孫娘のほうが可愛いよなぁ〜。そうだ、莉緒ちゃんのお着物と浴衣を仕立てようか。うん、そうしよう! おい、呉服屋を呼んでおくれ」と暴走するなど、メンタルが休まるときは一時もなかった気がする………。


 そして、私の誕生日の日。

 ようやく自宅に戻れることになった。

 お祖父様が「莉緒ちゃんは、隼人の嫁さんなんだからワシの孫同然じゃ。だから、ちょくちょく遊びに来てくれると嬉しいなぁ。あ、隼人と一緒でなくてもいいぞ」と言ってくれたけど、お兄ちゃんの顔が引き攣っていたので早々にお暇してきた。

 そして、その夜。私の誕生祝と快気祝と事件終息を兼ねて、木下家・内藤家で食事会をした。

 私は、この夜のことは一生忘れない。

 両家が見守る中、お兄ちゃん、あんな嬉しいサプライズをしてくれるなんて!

 生まれて10年しか経ってない子供の私が言うのもおかしいけど、「『幸せの絶頂』て、こういうことを言うのかな」と肌で感じた瞬間だった。



追申:お姉さん方、その後どうなったのかしら? お兄ちゃんに聞いても「莉緒は知らなくてもいいんだよ」とはぐらかすし。気になるなぁ〜。

事件の真相は、また後日。

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[一言] 半月後に別れ、十五年後に再会することになる…という辺りが気になります。どうなるのでしょうか? 莉緒ちゃんと隼人さんに何が起きるのか…続編が楽しみです!
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