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所謂(いわゆる)一つの妖怪です。  作者: みゅう
1.所謂(いわゆる)一つの妖怪です。
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余韻

(みやび)〟を後にした俺達は、時間がまだ早いという事で、辺りを適当にぶらつく事にした。

 まずは雑貨屋を(のぞ)き、次に百均(ひゃっきん)に行き、そして今は本屋に来ていた。

 と言っても、俺は別に読書家というわけではないので、本当にただ店内を物色するだけ、今のところ購入の予定はなかった。

阿坂(あさか)君」

 少年漫画(まんが)のコーナーにいた俺の前に、別行動をしていた日高(ひだか)が現れる。

「私、レジ行ってくるね」

「あぁ。じゃあ、俺、出入り口付近にいるから」

「うん。すぐ行ってきちゃうね」

 日高と別れ、宣言通り、出入り口の方に向かう。

 待つ事数分、少し急ぎ気味に日高が、袋を胸元に抱えて俺の元にやってきた。

「お待たせ」

「行こうか」

 日高を(うなが)し、一緒に本屋を後にする。

 店の前にある小階段を(くだ)り、駐車場を経由して敷地の外に。

「日高はどんなの読むんだ?」

 歩道を歩きながら、そう日高に尋ねる。

「うーん。少女漫画が多いかな? それも恋愛物ばっか」

 そう言って日高が、何個か漫画のタイトルを()げる。中には、何となく聞き覚えのある物も(いく)つかあったが――

「その中だと、読んだ事あるのは、〝アイシオ〟くらいかな?」

 他のは失礼ながらよく知らない。

「へー。阿坂君、少女漫画とか読むんだ?」

「ユイ(ねぇ)――さっき会った従姉(いとこ)の影響でね」

 ――いつか女の子とそういう話をするかもしれないでしょ?

 そんな台詞(せりふ)と共に漫画を貸された時には、まさか本当にこういう状況が来るとは思ってもみなかった。なるほど。ユイ姉の言う事は間違っていなかったというわけだ。

「あの漫画、人気あるよね。ドラマにもなったし」

「あー……」

 そう、あの漫画は去年の秋に確かにドラマ化し、当時、それなりに話題にもなった。良くも悪くも、色々な意味で……。

「その反応だと、阿坂君はドラマの方はあまり好きじゃない感じ?」

「いや、何というか、微妙だったかなって。……悪い」

 話している途中で、日高は違う感想を抱いている可能性に思い当たり、慌てて謝る。

「ううん。私も、ドラマはあんまだったから。特に、配役がね……」

「あ、日高もそこ気になった?」

 原作のある物を実写化した場合、ある程度の齟齬(そご)が生まれるのは仕方がないし、キャラと演じる人間との間に違和感が生じる事も決して珍しい事ではないのだが――

「身長とか髪型が、完全に設定無視だったからな」

「そうそう。原作だと小柄でショートの子が、ドラマでは背の高いセミロングヘアな子になってたり、そもそもキャラ設定が全然違う子がいたり……」

 とそこで、なぜか日高の言葉が止まる。

「どうした?」

「いや、なんか、急にテンション上げ過ぎたかなって思って……」

「あー……」

 確かに、先程までの日高は、日頃の彼女からは考えらえないくらい饒舌(じょうぜつ)だった。それが今になって、恥ずかしくなってきたみたいだ。

「あ、阿坂君は、いつもどんな漫画読んでるの? やっぱり、少年漫画?」

 それまでの()り取りを誤魔化(ごまか)すように、日高が慌てた様子で、話題の対象を少し強引に自身から俺へと移す。

「まぁ、そうだな。後は青年漫画とか?」

 そんな日高の意図には当然ながら気付かない振りで、俺は話を続ける。

「え? 成年って、そういうのはもう少し大人になってからの方が……」

 だというのに、日高の反応は俺の予想とは違い、あまり(かんば)しいものではなかった。

 ……あ。

「もしかして、青年漫画って、年齢制限のあるやつだと思ってる?」

「違うの?」

「うん。例えば――」

 日高に青年漫画がどういったものかを教えるため、俺はここ最近、世間で話題になった青年漫画のタイトルをピックアップして挙げる。ドラマ化したもの、映画したもの、アニメ化したもの、賞を取ったもの、等々(などなど)……。

「あぁ。なんだ、そういう……」

「誤解が解けたようで何よりだよ」

 危ない危ない。あのまま訂正せずに話が終了した(あかつき)には、俺は日高の中で、同級生の女の子相手に年齢制限のある漫画を読んでいる事を堂々と公表する、頭のおかしい奴認定をされてしまうところだった。

「ねぇ、阿坂君」

「ん?」

 名前を呼ばれ、立ち止まる。

「あそこ、寄ってみない?」

 そう言って、日高が指差した先にあったのは、アイス屋さんだった。

「……アイスは別腹だから」

「俺はまだ何も言ってないよ」

「でも、思ったでしょ?」

「……行こうか」

「うん……」

 日高の予想の正誤(せいご)はうやむやなまま、俺達は二人でアイス屋へと向かうのだった。

 そして、そこで俺は、開店からちょうど一万目の客として厚い出迎えを受けるのだが、それはまた別の機会にという事で……。



 町外れにあるお屋敷は、周りの住人から〝妖怪屋敷〟と呼ばれている。

 幽霊でもお化けでもない辺りが、他とは一線を(かく)している感じがして、幼い頃はそれをまるで何か誇らしい事のように思っていた事を覚えている。

 ……今思うと、なぜそんな事を思っていたのか、不思議でならないのだが。

「にしても、デカいな……」

 外から全体を見て、思わず(ひと)(ごと)(こぼ)れる。

 久しぶりに見た妖怪屋敷は大きく、また不気味だった。

 いや、冷静に考えれば、大きいとはいえ建物は西洋風の(いた)って普通な物だし、別段おかしな所はないのだが、おそらく周辺の住宅との差異(さい)が違和感を見る者に覚えさせ、それが不気味さへと繋がっているのだろう。

「ここに何かあるんですか?」

 日高が隣にいる間、ずっと姿を消し続けていた座敷(ざしき)が、およそ三時間ぶりにその姿を現す。

「日高と別れてから、結構間が()いたな」

「デートの余韻(よいん)()み締める時間が必要かなと、思いまして」

「余計なお世話だ」

 前から思っていた事だが、こいつの気の(つか)い方はどこか少しズレている。

「というか、なぜデートの直後にこんな所に寄ったんです? 余韻を楽しむにしても、もっと他に適した場所があると思うのですが」

「近くまで来たからな」

 日高の家はここから近く、彼女を家まで送った後、その事に気付いた俺の足は、(なか)ば自然とこちらの方に向かっていた。

「だからといって、普通立ち寄ります?」

但馬(たじま)の話が少し気になってな」

「あー」

 姿こそ見えなかったが、あの時、こいつも俺の近くで但馬の話を聞いていたようなので、それだけで俺の言わんとする事が通じたらしい。

「野次馬根性ってやつですか? あまり感心はしませんね」

「……そうだな」

 というわけで俺は、帰路(きろ)に着くべく(きびす)を返す。

「本当に、今の行動には何の意味があったんです?」

「ただの散歩だ。気にするな」

「……」

 反論こそ返ってこなかったもの、座敷の視線は雄弁(ゆうべん)に彼女の心情を語っており、俺はそれを()えて無視する事にした。

「あぁ、あのまま帰っていたら、悶々(もんもん)として仕方なかったと、そういうわけですね」

「違うわ」

 まったく。こいつはどういう感性をしているんだか。後、悶々言うな。仮にも女の子の姿をしているというのに。

「あれ? 阿坂じゃん」

 聞き慣れた声に立ち止まり、そちらを向くと、前方に但馬の姿があった。

 同時に、座敷の姿が消える。

「こんな所で何してるの?」

 そう口に出しながら、但馬が俺の方に歩み寄ってくる。

「散歩」

 先程、座敷に答えたように、但馬にも同じ答えを返す。

「散歩って……。デートの後で?」

 どうやら世間一般では、デートの後に散歩をしてはいけないという常識が、俺の知らない内に確立されてしまったらしい。というか――

「なんでお前は俺が、デート後だって思ったんだ?」

「え? だって、サクラが昨日そう言ってたから」

 なるほど。日高が但馬に――

「日高がそう言ったのか? デートって」

「ん? いや、直接そういう単語を口にしたかというとそうじゃないけど、浮かれてたから、私が勝手にそう判断した」

 浮かれていた? あの日高が? いや、但馬が勝手にそう判断したというだけで、それが真実かどうかは分からないよな。

「でも、散歩するにしても、どうしてこんな所にいるの? サクラを家に送ってたにしても、この辺は阿坂のアパートとは反対方向だし」

「……」

 意外に鋭いな、こいつ。この感じだと、このまま適当に誤魔化すのは無理そうだ。

「ちょっと気になってな」

 なので、俺は正直にそう答えた。

「気になった? あぁ……。やっぱ興味ない振りして、気にしてたんだ、私の話」

「まぁな」

 気になったのは、座敷という存在が俺の側にいたからなのだが、その事を但馬に説明するわけにもいかないので、そのまま話を流す。

「といっても、外から見る限りじゃ、何の変哲(へんてつ)もないけどね」

 そう言いながら、但馬が視線を屋敷の方に向ける。

「元々、外に出るようなタイプじゃなかったしね、この家の住人」

「だとしたら、誰が発見したんだ? その、住人の死体は」

「なんか噂では、宅配便の人が発見したって話。買い物はもっぱら、通販で済ましてたみたい」

「ふーん。ちなみに、亡くなったのはいつ頃なんだ?」

「三日前の昼頃って言ってたかな、確か」

 座敷がウチに来たのも、三日前の午後。……だからどうしたという話だが。

「悪いな、変な事聞いて」

「もう行くの?」

「あぁ、三人目に散歩を(とが)められない内にな」

「三人目?」

 何の事だが分からないといった様子で、首を(かし)げる但馬を残し、俺はアパートのある方へと歩き出す。

 考え過ぎか、それとも……。

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