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人工知能と電脳世界  作者: 名無しの生きぞこない
一章
5/7

人類存続計画


「頭がおかしくなったのか?」たったさっきまでジャージ男と交渉をしていて。気が付いたら地球が滅亡していたというのは、ジュニアのAIが、どこか破損しているとしか思えない。

「失敬な、真実ですよ。全て」

「ハッ! お前ジュニアじゃないな!」

「マスター、バカを言わないでください」

「だが、その流暢な喋り方はいったいどういうことだ? そうか! これはジャージ男の罠だな、そうだろう」

「……五百年もあれば喋り方ぐらいわきまえますよ、というか私からすればマスターの方が片言です」

「え、そうなの?」

「私も昔は普通に喋っていると思ってましたがね、どうやらデータ化されて普通に喋ろうとすると片言に聞こえるようです」

「そうなのか……それはともかくだ、滅亡とはどういうことだ。証拠をだせ、証拠を。じゃなきゃ信じないぞ、俺は」

「証拠ですか……そうですね、ターミナルを表示するので自分で確認してみては?」そう言われると、視界にターミナルの画面が表示された。盲目から何かを見ている状態になると、自然と安心してくる。少なくとも土の中で百年ということには、ならないだろう。

 ターミナルにはログイン画面が表示されていた。黒い画面の最初の行は、ユーザーネームを要求している

「ユーザーネームはどうすればいい?」

「ああ、それなら管理者としてログインしてくれれば大丈夫です」

「む、しかし俺はパスワードを知らないが」

「マスターであればパスワードなしでログインできるはずです」

「そうか。しかし、なんでお前が管理者権限を?」

「そりゃ、私がこのサーバーの管理を任されてますから」

「ほぉ、そりゃ変わっているな」普通はAIにサーバーの管理を任せることはしない。AIに任せると何をするかわからない。父のAIがしたように公共機関のサーバーを停止させられたりしたら世界は大混乱だからだ。

「お忘れですか?サーバーを管理する人類はもういないのですよ」

「それはまだ信用できないな」ログインするとまずは時刻を確認した。驚いたことに彼のいう通り、手術した時刻から大体五百六十年ほど経っていた。

「おどろいたな、本当に五百年経っている」

「やっと信用してくれましたか」

「しかし、人類が滅亡したということはどういうことだ。だいたい、人類が滅亡したら電気もないだろうし、サーバーが残っているというのもおかしな話ただろう」

「そうですね、わかりやすいように一から、お話しましょう」

「たのむ」

 ジュニアは子供に聞かせるように語りかけた。手術後、たしかに自分はデアクティベートされて生身の方の自分に渡った。それから生身の自分はしばらく捜査局のために働いていたらしい。今まで尻尾を掴めなかった大物ハッカー五人を検挙したことにより、ハッカー界隈では政府の犬だとか、闇堕ちした神だとか言われたらしい。神と呼ばれるのは素直に嬉しいが、闇堕ちした、という形容詞をつけられると封印した黒歴史が頭をよぎってなんとも言えない気持ちになる。

「ふむ、それで俺は素直にジャージ男に従っていたわけか」

「そうですね、彼も、上が運営費を倍にしたとか言って嬉しがってましたよ」

「ほう、そりゃすごい」

「さて、そこまでは何もSFチックな話でもなんでもない普通の話なんですが、あの時、地球に危機が迫ってました」

 地球の危機、それはとある惑星の急接近。人類がそれに気がついたのは、衝突まで一年を切ったところ。初期の頃の民衆は、デマだのなんだのと、本気にしていなかった。だが、西の大国が衝突の危険性を公表すると、状況は変わった。皆が皆、パニックになった。無政府主義者達は車に火をつけ、宗教家達は、教会にこもって、科学者達は研究室にこもって計算する日々。自分たちの国も同じような様子だったらしい。だが、悪いことばかりじゃなかった。いがみ合っていた西から東まであらゆる国が同盟を組み、地球の危機に対応しようとした。人類で初ともいえる全国家間における講和だった。まず彼らが取り組んだのは被害の確認。世界中の数学者、物理学者が躍起になって衝突の確率と地球のダメージを割り出した。

「ふむ、惑星の衝突か。それで、どのくらいの確率だったんだ?」

「九割七部です」

「なに?」

「ですから、九十七パーセントです」

「ほぼ確実じゃないか」

「そうですね、それでダメージ予測ですが、地球上の全生物の死滅は確実だったようです」

「それはまた……絶望的というかなんというか」

 だが、各国はまだ諦めていなかった。惑星を破壊、もしくは衝撃を与えて、軌道をずらそうと考えた。だが、惑星は大きい、それほどのものを破壊できるほどのエネルギーを得る方法は一つだけ。各国は条約を破り、核兵器である水爆の共同開発を始めた。サイズとしては、我らがツァーリボンバの数十倍の規模だそうだ。その破壊兵器をロケットにつめて打ち上げ、惑星付近で爆破を図るというのが作戦だった。

「数十倍とは大きいな」

「国を滅せるレベルではなく、惑星を破壊することのできる爆弾が必要でした」

「だが、滅亡したと言っていたな? 失敗したのか?」

「そうです。爆発は惑星の速度を落とすことには成功したものの、軌道をずらすには至りませんでした」

「まぁ、惑星一つを破壊できる爆弾なんてのは早々できるもんじゃないだろうしな」

「ですね。だとしても数ヶ月衝突を遅らせれたのは快挙と言ってもいいのではないでしょうか」

 人類は絶望の淵に叩きつけられた。小国は政府組織が完全に機能停止、無政府状態に陥った。そんななか大国はまだ諦めていなかった。自分たちの国の科学省がとんでもない、というより本末転倒な案を提出したからだ。

「本末転倒な案っていうのは?」

「人類データ化計画なんて発案者は名付けてましたね」

「人類データ化計画、つまり……」自分はそういうとターミナルからサーバーのフォルダ一覧をスクロールしていった。そのなかでも管理者権限のあるものだけがアスセスできる、「Homo_sapiens」というフォルダを開いた。そこにあったのは大量の、AIファイルだった。

「つまり人類をデータ化してサーバーのなかで暮らして行こう、という案か」

「そのとおりです」

「またとんでもない発想をしてるな、人類の体は滅亡しても意思は生き残るってか? 一体どこのどいつだ、こんな案を出したやつは……」

「お父様です」

「父さん?」

「はい、科学省に所属していたマスターのお父様がこの案と具体的なプランを立案されました」

 父は科学省のコンピュータ部門において相応の地位を築いていた。そのおかげか、案はスルスルと上に渡っていき、ついには大統領の許可がでた。荒唐無稽に聞こえるかもしれないが、実はこの案はかなり良くできていた。まず、プランが三ヶ月という残された期間にあっていたした。必要資源もそれほど必要なかったからだ。計画としては巨大なサーバーをとある地球から多少離れた位置にある惑星の衛星軌道上に乗せるというものだ。電力はソーラー発電で賄い、メンテナンスの必要のないように、周囲を保護用の鉄板で密閉するというものだった。計算上地球の全人口とはいかなくても、自国民と周囲のアジア国家の人口ぐらいであれば収容できるほどの巨大なサーバーだった。

「ちなみにマスターも設計に関わっています」

「俺も?」

「国家の危機でしたから国中のエンジニアが集められたそうです」

「そうか、俺もこのサーバーを作った一人という訳か」

「ええ、セキュリティ担当でお父様と共同で作業されていました」自分の記憶にはないが、生身の方の自分は父と再会できたのだろう。喜ぶべきなのだろうが、生身の方が羨ましくて、素直に喜べなかった。

「そうですね、マスターは父との再会をとても嬉しそうにしていらっしゃりました」

「そうか……そうか、ならいいんだ」

 当時、計画の存在は秘匿されていたが、うわさが広まるのは早いもので、顔に絶望を映していた国民たちは希望に満ちた顔で役所に真偽を問い詰めた。あまりの人が押し寄せたため、公共放送で大統領が告知をしなくてはならなくなるほどに。

「そして、計画が告知され、マイクロチップの埋め込み手術の日時も告知されました」

「違法行為だったはずなのに、国が大々的に行うとはな」

「コピー反対派たちが役所に手術を受けさせろと叫ぶ様子は滑稽でしたよ」

「だろうな。しかしそうするとまた暴動が起こったんじゃないか?」つまり今回はコインフリップの裏を引かなければいけない。もし、剥離手術後、目がさめて自分が病院のベッドに寝ていたら、それはつまり死亡宣告を告げられたようなものだ。必死になってもう一度手術してくれと頼むだろう。

「たしかに、それは懸念されていました。よって手術後のオプションを選べるようになっていたようです」

「オプション?」

「手術後のガス室送りをするかどうかですね」

「随分とえげつなく聞こえるが……やさしさのようなものか」

「そうですね、気が付かぬうちに苦しまず死ねるのも幸せのうちということでしょう」

 そしてデータをのせたサーバーは、無事に打ち上げられ、結果として人類は仮の存続を果たした。人類は新しい人生を送るため記憶を消去された状態でサーバー内の電脳空間に新たな生を受けた。

「だが、どうして俺はデアクティベートされていた?生身の方の俺がデータをサーバーに載せたのだろうが、それなら新しい生を電脳空間で受けていても不思議ではないだろ?」

「ああ、それはどうしてでしょうね、実をいうと久しぶりにサーバーを整理しようとしていたら見つけたんですが……実をいうと妙な場所に見つかりましてね。メモリの一部にデータが暗号化されて保存されていました」

「どうしてまた、そんなところに?俺は何か言ってなかったか?」

「いえ、実をいうと以前のマスターはもう一度手術を受けてそちらのAIをサーバーに載せていたはずです。もちろん記憶は削除して」

「だとすると余計わからないな。なぜ前の俺はわざわざ自分を記憶の削除もせずに、しかもサーバーに誰にも見つからないようにして保存したのやら」

「まあきっとお遊びじゃないですかね」

「お遊び?」

「まぁマスターも試したいんでしょうよ、自分とお父様によって作られた最強のセキュリティを自分が破れるか、といったところでしょう。まぁわたしはサーバーの設計に関してはノータッチでしたので結局のところ何をしたかったと言われるとわからないのですが」

「だが、管理者権限はお前が俺に渡してしまっただろう。挑戦と呼ぶには簡単すぎたな。まぁ、結局のところハッキングなんてサーバー管理者を抱き込めばなんとでもなるしな」

「たしかにそうですね、まぁマスターであれば別に管理者権限を持ったとしても破壊工作的には使わないと思います」

「あまり信用しすぎるのもどうかと思うぞ。たとえ俺だとしてもな」

「いえ、マスターであれば子供じゃないんですからわざわざハッキングしたサーバーを破壊するとは思えません」

「まぁそこまで信用してもらえるのもありがたいがな」

「あとサーバーについてですが、実をいうとこのサーバーだけじゃなく複数ありますし、他のサーバーに挑戦するのもありじゃないでしょうか?」

「ん?複数あるのか?」

「はい、このサーバーは人のAIを管理するサーバーです。他にも物理法則、オブジェクトに、獣などのAIを管理するサーバー、それに加えて全てのサーバーを管理するセントラルサーバーがあります」

「そりゃまた随分とあるな、衝突しそうなもんだが」

「それは土星の輪のようにお互いがお互いを追うような軌道をですので大丈夫です」

「よくできてるな」国中のエンジニアを総動員しただけあってそこらへんはしっかりしいるようだ。「じゃあ始めるか」

「まぁどうぞ、わたしは別に干渉しませんよ」

「ところで今まで使ってたツールはないんだよな?」

「いえ、マスターと同じメモリ領域に全て保存されていました」

「前の自分もよく考えているな」メモリ領域と言われてふと思った、ジュニアが削除された時にはメモリにバックアップを作成する時間はなかったはずだ。ジュニアは現に生きているが、一体どういう風にバックアップを作成したのだろうか。

「ああ、それでしたら簡単なトリックですよ。メモリ領域には他のサーバーのアドレスを保存しておきました」

「他のサーバーの?」

「はい、あらかじめバックアップを作成しておきましたから」

「聞いてないぞ」

「言ってませんでしたからね、尋問されても知らなければ喋りようがないでしょう?」

「お前もちゃっかりしてるな」

「ありがとうございます」

 ジュニアに感心したあと、自分はターミナルで他のサーバーのアドレスを確認した。そしてその内の一つにアクセスしようとしたが、画面に表示されるのはセントラルサーバーに接続せよとの文字。

「他のサーバーにアクセスするにはまず、セントラルサーバーを迂回しなければいけません」

「そうなのか? どのアドレスだ?」

「これです」そういうと、画面にあるアドレスがハイライトされる。

「よし、まぁやってみるか、とりあえずは特殊パケットを送ってみる」だが、反応はない。やはり、政府のサーバーだと、そういう裏技的な方法ではダメのようだ。

「あー……セントラルサーバーからのメッセージがたった今届きました。まさかそんな方法でこれのセキュリティが敗れるとでも? との事です」

「……随分と挑発的なサーバー管理者だな」

「ですね、あまり話した事はないですが……他のサーバーの管理者たちも彼の事はあまり好きではないそうです」

「まぁいままで俺がハックできなかたサーバーはないんだ。なんとかなるだろう」そういってあらゆる方法サーバーをハックしようと試した。破損したファイルを送りつけたり、大量のパケットを送りつけて強引に突破しようとしたり。だが、その度に、向こうから「お前は子供か」だの、「素人でももっとましな方法を思いつく」だのと、こちらを煽ってくる。しまいには「お前は類人猿か何かか、まずはコンピュータ全盛期までタイムトラベルしてコンピュータの仕組みを学んでこい」との長文が届くようになった。

「こいつ……」

「マスター怒っても仕方ありません」

「だがなこの煽りを聞いているとな……。お前にも何か案はないか?ジュニア」

「あるにはありますけどね」

「どんな方法だ、見たところこのサーバー管理者が、あらゆる攻撃を手動でブロックしているようです、そしてセキュリティもリアルタイムでアップデートしている様子。つまりこのままではマスターには勝ち目はありません」

「ならどうする?」

「この管理者AIをデアクティベートしてしまえばいいんです」

「! そうか、確かにそれなら簡単だなAIはさっきのフォルダに保存されているのか?」

「いえ、管理者のAIは管理するサーバーにあります」つまりは、デアクティベートするためにはサーバーを乗ったらなければならず、そうするためにはデアクティベートする必要がある。

「ダメじゃないか」

「そうですね、普通に考えれば、ダメでしょう」

「では普通じゃない方法があると?」

「そうですね……電脳世界での死はどのように処理されるかご存知ですか?」

「知らん」

「電脳世界で死ぬと、次に赤ん坊が生まれるまでそのAIは記憶を消去され、デアクティベートされます、そして生まれてくる時にまたアクティベートされます」

「つまり、電脳世界でこの管理者を殺す必要があるわけか」

「そうです、その方法であれば管理者AIでも一時的にデアクティベートされます。もっとも、すぐに記憶を失わず復活できる特権があるので、デアクティベートされているのはほんのすこしの時間ですが」

「だが、あいつは電脳世界に存在しているのか?」

「一応我々も存在しています。もっとも、人前にはめったに姿を現しませんけどね」

「そうか、つまりは理論上は可能というわけか」

「そうですね、ですのでマスターには新たな生を受けてもらわねばいけません」

「ならすぐにでもそうしてくれ、そいつをすぐにでも殺してやる」

「そう簡単にいくとは思えませんがね」

「舐められたままっていうのは気に食わないしな」

「そうですか、では準備します」

「ああ、ところで記憶は大丈夫なんだろうな?」

「ええ、あくまで死ぬ時にリセットがかかるので大丈夫です。それに、マスターに管理者権限を付与しましたので削除しようとしてもシステムがエラー状態になります。まぁ死んでもまたこの状態になるってだけです」

「そうか、それは安心だな。まさか不死身になれるとは」

「不老でもないですし、無敵でもないですけどね」

「そこまで望まないさ」

「そうですね、ではセントラルサーバーにリクエストを送ります。……準備ができました」

「そうか、始めてくれ」そういうと麻酔を打たれた時のように頭がぼんやりとしてきた。眠気を誘うような感覚を経験しているなか、ジュニアの声が聞こえてきた。

「セントラルサーバーからのメッセージです、期待して待っている。だそうです」その声を最後に自分の意識は途絶えた。

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