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ハイスクール・カンパニー   作者: 西 亜麻音
ハイスクール・カンパニー
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ファイル名 NO1 内藤理貴  鷹揚高校2年  スクールカンパニー代表  国際的な商社、内藤商事を筆頭に 世界中に数十万人の従業員を抱える 内藤グループオーナー 一族の出身

横浜みなとみらい地区、30階のタワーマンションから港を見下ろす風景。一目見て、この景色が気に入った。それにここは、カルフォルニアのロングビーチ、の港の景色によく似ている。理貴が日本に戻ってくるにあたって、横浜の地を選んだのは偶然ではない。


今から150年ほど前、福井藩士だった理貴の祖先が、藩命によりこの地で、外国人相手に貿易を始めた。横浜の開港記念館辺りに始めた、小さな店が、その後の内藤グループの出発点である。

理貴の祖先の一人の若者が、海外貿易が盛んになった、この横浜の港にやってきて、武士という身分を捨て、生糸を扱う貿易商になった。

自分とそれほど年齢の変らない、商売の才覚に恵まれた祖先の一人が、何もないところから事業を始め、あれだけの組織の元を作った。

そう考えると、理貴も感慨深くなる。自分もそんな風になりたい。


そろそろ日の出かな。

理貴は、大きく伸びをした。

これから、メンバーがやって来るまでの数時間が自分だけの時間だ。



リビングの窓辺から見える、

海の上に広がる空が、

だんだん明るくなっていく。

こんな風に、空の色が段々変わって行くのを見るのが、一日の活力になる。


パソコンの電源を入れ、モーター音がして画面にロゴマークが出てくる。

時刻は、朝の5時を少し回ったところ。セットしておいた、コーヒーを飲む。

深夜にベットに入った事を考えると、睡眠は足りていると思う。


今は、少しでも時間が欲しい。

眠くならなければ、与えられた時間を、もっと有効に使えるに。


理貴は、寝ていた間に来たメールに素早く目を通し、スケジュールをチェックする。


すぐにも、返事が必要な案件にメールを送り、今日一日のスケジュールを軽くシュミレーションする。

午後、面接か……場所は、ここ。

ただ一人を除いて

全員断ったといったら、葵、怒るかな。


schoolカンパニー社。2年前、同じ高校のメンバーと始めた会社だ。

メンバーのほとんどが、同じ学校の帰国子女。

日本のアニメ、漫画、ファッション等の日本の文化が世界中で注目されている。


理貴は、海外で、学生生活を経験しているから、それを肌で感じている。最初は、滞在先から戻る時、日本に戻ったら、漫画の本やアニメのグッズを送って欲しい。


日本のお菓子を発送して欲しい。友人からそう頼まれて、リクエストに答えてきたのがきっかけだった。外国の友人達に頼まれて、リクエストに答えているうちに規模が大きくなり、個人の取引では、

追い付かなくなった。

それなら、ちょうど日本に帰るメンバーを集めて、会社組織を作ろうということになった。

そういう同じ境遇のメンバーと、会社の設立に賛同した、外国の友人のメンバーが始めた会社だ。


事業で取り扱うのは、世界中の中高生をターゲットにした、商品開発。及び商品の販売。同年代と言うのがミソで、同じ年代なら、SNSや留学先の友人を頼って多くの情報を入手できる。

今、どこで、何が必要なのか。

会社のネットワークを使えば、どんなリサーチ会社より、早くて正確な、しかも同年代の意見の本音を聞きだせる。


こうして、大手の企業が、入り込まない隙間を守備範囲に商いをしている。

今のところ、順調すぎるほど順調だ。

扱いたい商品、取引したい相手はいくらでもいる。


日本にずっといる人は、国内の製品のレベルの高さに無頓着で、世界中に販路さえ広がれば、どれ程の、ビジネスチャンスに恵まれているのか、気がつかない。

まあ、そういう事情が自分達の強みとなるのだけど…


静かな部屋に電話の呼び出し音が響く。

「Bonjour Allen」フランスからだ。

「J'ai lu un e-mail」

メールの通りでいいと思うと回答する。アレンがまだ寝てたかと聞く。

「Je me suis levé juste.」もう、眠くはないよ。理貴が付け加える。



一方、

AM7:00横浜市の住宅地。


「伊都!!透君来たぞ」父が玄関先で叫んでいる。

牧瀬伊都は、15歳 今年から高校生。

2年前に母が亡くなってから、牧瀬家の朝は、とにかく、あわただしい。

ただでさえ、忙しいのに、この春から、伊都も高校生になり、通学時間が伸びた。

だから、その分だけ早く家を出なければならない。


「ええっ!もう?いいよ、透ならそこで待っててもらえば。嘘…もう、時間?」

父に叫んだ言葉が、透にも聞こえていた。

「あと十分あるよ。俺のことはいいから、ゆっくり準備しろ。ここで待ってるから!」と、透も大声で返す。


伊都はフライパン片手に透に聞こえるように大声でいう。

「ありがとう、透!!」と声だけで、お礼をいうと、目の前にいる弟達にいった。


「陸!海!、今日帰ってからやることちゃんと頭に入った?」と、今度は、弟たちに向かって、

声を張り上げる。ん?

「ん…」陸の小さな、消え入りそうな声だけがした。一人足りない。

「海は?おきてんの?」

「さっきは、布団の中で目開けてたぞ」と父。

そのまま寝てても、知るもんかと伊都は、弟を起こすのをあきらめた。

でも、念のため…

「陸?海起こしといて…」


欠伸をこらえながら、陸が言う。

「ええ!?やだよ…起こしたって、全然起きないし…」

「やだ、じゃなくて、君ら二人は、連帯責任ね」

「ひでぇ…冗談じゃない」中学生の陸は、なまいきにも、弟の海にかかわることを嫌う。でも、朝は、そんなこと言ってられない。

「それじゃ、もう行くから!ご飯は、テーブルの上、ごみ捨て忘れないで!!」


父が、玄関から振り返って、キッチンの方を見て言う。こういう時、家が狭いのは、便利だ。

父が待たせている透に申し訳ないと、謝った。

「いいから、伊都、早く行きなさい!透君待ってる」

「はあい!いってきまーす」伊都は、靴磨きをしてる父と、すれ違って言う。


父さん、その靴いくら磨いても、きれいにならないよ。新しいの買わなきゃね。

「よう!おいっ…」勢いよく、外に飛び出したので、透にぶつかりそうになる。

「ごめん、お待たせ。っていうか、毎日、家まで迎えに来てくれなくていいよ。透。高校まで一緒じゃなくたって」

制服を整えながら、伊都が言う。

透の手が自然に伸びて、伊都の鞄を持つ。伊都は、笑ってありがとうと返す。

透の家は、すぐ近所で、確かに駅に向かうと伊都の家の前を通る。

でも、不思議だった。ほとんどの男友達が離れて行くなか、透だけは、前と変わらず話しかけてくる。

「いいじゃん、せっかく同じ高校に入ったんだし、学校まで誰かと一緒の方が楽しいし」

「うん」

「それに、朝じゃないと、時間合わないだろ?」

透は、この春から同じ高校へ通う同級生。今年、同じ高校に合格したら、付き合おうと透に言われて

付き合うことになった。


付き合うといっても、中学のときとなんら変らない。おしゃべりをしながら、学校へ行くだけだよ。と透が言う。普段と何も変わらないって…

でも、毎日、家の前で待ってもらうのは、どうなんだろう。

大変だから、先に学校に行ってと、言った方がいいのかな?と伊都は思ったりする。

透は、どう思ってるのかわからないけど、伊都は透と一緒にいるのは楽しいし、不満はない。


学校までは、電車で30分。駅から10分ほど歩くと、校門に着く。確かに、一人で通学するより、透もいた方が楽しい。

「今日は?伊都、まっすぐ帰るの?」透が、伊都の顔を近づけて言う。

そんなふうにしなくても、ちゃんと聞こえるよ、と言うと、透は少し不機嫌になる。

だから、伊都もその事は口にしない。

「帰るけど、バイトの面接がある」

「もしかして、掲示板に貼ってあったやつ?」透が、難しそうなこと、考えてる時の顔しながら言う。こういう時は、止めないけど、俺は反対と言う意味だ。

透とは、付き合いが長いからわかる。

「うん」

「うそ、あれ書類審査通ったの?」透、本当に驚いてる。落ちると思ってたでしょ?

「まあね」伊都は、得意気に答える。

「ホントに?すげーじゃん。うちの学校で審査通ったって、聞いたの伊都が初めてだぞ」

「そうなの?」意外な感じ。これまで、自分だけ上手く行くなんてことなかったのに。

透、すげーっていいながら、本当は、すげーっなんて思ってないよね?まあ、それは分かる。余りにも時給が高くて、掲示板見た人が、結構応募したって聞いたから。


学校に着くと、後ろから、沙希がおはようと挨拶をしてきた。沙希とは、同じクラス。席が隣で、仲良くなった。

沙希が単刀直入にいう。

「伊都、今日面接だって?」

「うん」

学校でも、時給がすごく高いと話題になっていた。この、バイトの掲示を見つけてくれたのも、沙希だ。だから、昨日、面接先の会社から、メールが届いて、すぐに沙希にメールをした。

「場所は?」沙希が聞く。

「横浜… 桜木町 ちょっと待って、これ」会社からメールを、プリントアウトした紙を紗希に見せた。

「ふうーん。海の近くだね」といいながら、沙希は、納得できないって顔をする。

「どうかした?」

「そこさあ、知り合いの鷹揚の子達も話題にしてたんだけど、面接まで言った子っていないらしいよ」沙希が、少し不安げに言う。

鷹揚高校というのは、県で一番の伝統校で良家の子女が通うところだ。

「どういうこと?」透が、珍しく二人の間に割ってきて、口を挟む。

「さあ、結構な数の応募があったのに、書類審査で通ったのが、私の知る限りでは、伊都一人だってこと」沙希は、透に向かって説明した。


さっきから、伊都が、お金につられてなぞのバイトを始めるのではないかと、透が心配しているのを、沙希は、気が付いていた。

「何だそれ、一人で大丈夫なのか?俺、付いていこうか?」

「だめ」


昼休み。

いつも、女子二人のところに入るのは嫌だといって、別々にお昼を食べてる透が、今日は、三人で食べるといって割り込んできた。

「やっぱ、俺、伊都についていくわ」色々考えた上で、と透は付け加えた。

「駄目だよ。そんなの」ただでさえ、顔のせいで年より幼く見えるのに。と伊都は、すぐに断った。

「変な会社だったらどうする」透が真面目な顔して言う。

「変なって?」

「例えば、いかがわしい格好してビデオ撮らされたり」透が、思い付くまま言う。

「大丈夫だよ。学校に求人が来たんだもん」と、伊都も言い返す。

「いや。だめだ。バイトなんか他にいくらでもあるだろう」

「でも…そこ、時給2000円だって」伊都は、思った。やっぱり、父さんの靴より、陸の塾代だ。陸は、塾にも行ってないのに、すごい成績を取ってくる。なのに、陸は、お姉ちゃんと、同じ学校でいいってふざけたこと言う。

まあ、陸にとっては、超難関校以外どこも同じなんだろうけど。

「何だよ、それ!絶対怪しい!!何されるかわかんない。だいたい、伊都は、普通の高校生が、時給いくらもらってるかわかってんのか?」

「もう、透は考えすぎ」伊都は、まるで取り合わない。


「High Schoolカンパニー社だよね?一応ホームページあるよ」沙希ちゃんが助け舟を出してくれた。沙希ちゃんの携帯から見た画面は

「何だこれ、ほとんど英語」ホームページが立ち上がり、横浜のみなとみらい地区の写真が見えてきた。

「今回の従業員募集の件は、応募者多数により、締め切らせていただきました多くのご応募ありがとうございました。だって」

ホームページをスクロールしながら、

「一応、ちゃんとしてるよ」と、沙希ちゃん。

「うん」ほ~らという顔の伊都。

「だって、透、今日はクラブの顔合わせでしょ?休めないじゃん」沙希も伊都に味方する。

「クラブ何かどうでもいい」透も向きになって答える。





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