意識のはざま
声が、数学の公式を解説する先生の声が、カツカツと黒板にチョークの触れる音がぼんやりと近づいてくる。
やがてそれははっきりとしていき、はっとした。
そう、はっとした。
息をゆっくり吸い込み、黒板に目を向ける。
さっき見た時より文字数が増えていた。眠くて、そう確か眠くて意識が少し飛んだ…気がする。
教室の前、黒板の少し上にかかっている時計を確認すると、さっきから5分ほど過ぎていた。
さっき…さっき?
頭がまだ少しぼんやりして、すぐには授業の内容が入って来なかったがノートをとらなくては後々困る。
少し雑な字でさらさらとノートを埋め、今先生がしている説明の箇所まで追い付こうと、とりあえず奮闘してみた。
この授業が終われば放課後だ、頭にある疑問符は後で考えよう。
「そっちだ!」「待って、左の罠に誘導できない?」「やってみよう」
森に複数の声が響く。あれ、なんで森にいるんだろう。まあいいや、とにかく獲物が先だ。
今全力で追いかけている巨大な猪のような生き物に目を向ける。
ふごふご鼻を鳴らしながら、俺達を一瞥している。
俺達、そう、俺達だ。3人いる。
コウキが剣を構え、突っ込んできた猪みたいなのを浅く切った。
ヴォアアアアアアアアアアアアア…
猪みたいなのが呻きを上げ、鼻息をいっそう荒くする。
「もう、あんまり傷はつけないでや!!」
アヤはバックステップで距離を取りながら叫ぶ。
その手には130センチ程の棍棒が握られている。ただし、幾何学的な模様が入っていてただの棍棒ではなさそうだ。
「悪ぃな」コウキはそう言いながらも猪みたいなのから目を離さない。
アヤが仕掛けた罠まではあと十数メートルというところか。
コウキがこちらをチラッとみて、口端をつりあげる。
嫌な予感しかしない。「ソウ!!頼んだ!!」
やっぱりか、つまり、囮になれと。
猪みたいなのを引き付けて、罠まで走れということだ。
けど確かに、一番軽装で走りやすいのは俺だ。たかが十数メートル、やるしかない。
俺は息を大きく吸い込み「いぃぃぃぃぃぃ………!!!!」キンと張った、頭声をだした。
短剣を握りながら、猪みたいなやつの動きを見る。
ヴォアアアアアア…
猪みたいなのは俺の方を睨み付け、突進する準備をしている。
タイミングが大事だ。身体を前傾させながら、猪みたいやつの動きを観察する。
そいつの前脚が上がり、来る、と思った瞬間走った。
全力で走った。すぐにどどどどっという音が近づいてくる。当たり前だ。猪みたいなやつの方が足は速い。
だが、俺が気の根っこを飛び越えた所でどどどどっという音が消えた。
上手くいったのか、縄が猪みたいなのを絡みつけて、身動きを取れなくしている。
そこへコウキとアヤがかけよってきた。
「堪忍してなぁ」
アヤが縄の隙間から猪みたいなのに触れると、暴れていたのが急に動かなくなった。けど、死んではいないらしい。なんでも、神経の何かを遮断したらしい。
俺は専門じゃないから、詳しくは分からないけど。




