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第4話 送り主の元へ

《登場人物》


 アラン・ダイイング    探偵

 マリア・シェリー     探偵助手

 モーリス・レノール    シュゼット警察刑事部捜査1課警部


 ウィル・サンセット・サマーズ 囚人 通称:W

 モリー・アールヘイター    ウィルの母親




― シュゼット国 地方都市スプリンターベイル クリア病院―

 


 レノールの情報の下、モリー・アールヘイターの居場所を聞き、探偵と助手のふたりは、病院へと向かった。

 どうやら彼女は、末期の癌に侵され、寝たきりの状態らしい。

 アランは覚悟を持ち、いつもとは違う雰囲気を出して病院へと向かった。彼女の最後になる前に報告する勇気を。

 彼女の反応が重く苦々しいものである事を。

 どの世界でも病院というのは、静粛で厳正な場所。いかにも職業的には、不釣合いな探偵と助手の2人は同じタイミングで深呼吸をして、モリーの病室へと入った。

 幸い彼女は、意識を持っているようだが、力がなく話せそうにはない。鼻と口には呼吸器が覆っている。

 点滴の近くで立っている看護師が一礼した。

「どうも。モリー・アールヘイターさんに御用でしょうか?」

 アランは寝たきりのモリーと看護師に向けて挨拶をしていく。

「お忙しいところ恐れ入ります。私、探偵業をやっているアラン・ダイイングです。こちらは助手のマリア」

 アランの隣でマリアが、薄い微笑みをこぼしてモリーに挨拶した。

「はじめまして」

 アランは続ける。

「実を言いますと、モリー・アールヘイターさんにお話を伺いたいのですが、宜しいでしょうか?」

 看護師は探偵の言葉を聞いて、ちょっと疑いの表情を見せつつも言葉を返す。

「……少々、お待ちくださいね」

 モリーは、手と声を出すことができない状態である為、看護師が見せるアルファベット表を目で追い、彼女に通訳させた。

『どうぞ。何でしょうか?』

 アランは、寝たきりの女性に問う。

「あなたは子供さんの居場所をご存知でしたね?」

 モリーは、探偵が訊いた質問の意図が理解できない表情を見せている。

『何の話ですか?』

 看護師の翻訳を耳にして、次の言葉を口から出していく。

「あなたの息子さんが見つかったのですよ。ご存知でしたね?」

 モリーの目は素早く動いて、アルファベット表の文字を1文字ずつ看護師に指示していく。

『どうして、それが分かるんです? 私は息子の居場所を知らない』

「決めてはこれです。マリアあれを」

「はい。先生」

 マリアは自分のカバンから一枚の紙を取り出してモリーに見える様に広げる。それは、囚人ウィルに対して送られた手紙の宛名《moon ― 0n+2n》を大きく記した紙。

 これを見てからモリーの反応が一変した。アルファベット表から目が外れて、ずっと送り主の文字を見つめている。

 アランは、落ち着いた表情を示しながら、モリーに視線を向けた。

「この送り主の名と過去の依頼書と孤児院のリスト、この3つであなたを見つけたんですよ」

 ゆっくりとした口調で、看護師はモリーに声をかける。

「アールヘイターさん? 大丈夫ですか……」

 看護師の言葉に気づいて、モリーはアルファベット表を出す様に指示し、再び、アルファベット表に向けて視線を動かしていく。

『私は、やっと見つける事ができたの。あの子を。しかし、あの子は5人も殺した殺人鬼になっていた……』

 《あの子》という単語の意味は、おそらくウィルの事だろうとアランは考えていた。

 モリーはずっと続けて、アルファベット表に視線を当てる。

『必死だったんです。私は長年、あの子を探し、あの子の行方を追っていた。探偵のあなたも見つける事のできなかったあの子をとうとう見つけた。しかし、あの子は塀の中に……』

 ウィルを塀に入れた要因となった男が目の前にいる事を寝たきりの彼女は知らない。

 モリーの話を、アランとマリアは静かに、聞いていた。

「なるほど」

『ニュースで知ったんです。この事件の事も、あの子の居場所も……』

「それで手紙を書いたわけですね」

 モリーはアルファベット表の文字を一文字一文字ずつゆっくりと視線を当てて、単語を作り上げていく。

 その単語が示すのは、暗号を解かれた後で大抵、作った人間が思う事。

『どうして私が送り主だと、分かったんです?』

 そう。理由である。

「簡単な事です。1つは孤児院のリストと過去の私が担当した依頼の書物を探し、あなたを見つけた事。2つめはこの手紙の《moon ― 0n+2n》が誰かという事です。あなたの場合ほとんど動かない状態です。この場合この手紙を書くとしたら、アールヘイターさんではない」

『?』

「代筆です。しかも身近にいる人。そう。あなたは看護師さんに頼んで書いて送ってもらったんですよ。塀にいる彼に向けてね」

 モリーは目を瞑って、流れ出る数滴の涙を我慢しようとしているが、涙というものは自然と出てしまうので、抑える事はできない。

ましてや寝たきりの女性なら、なおさら力で抑える事ができなかった。

 看護師がアランを見つめて言う。

「ダイイングさんのおっしゃるとおりです。アールヘイターさんの言葉を聞いて書いて送ったんです。送り主の名を暗号にしたのは、モリーさん自身が決めたんです」

『もし、仮に名を知った所で、あの子は知らない。覚えていないでしょう。せめて、これを作ってあの子に私はいるよという証拠として作ったんです。あなたが来たという事は、あの子が依頼したのでしょう?』

 モリーの言葉には、何処か悲しげであり、アランはそれに対して、返す言葉がなく、表情で反応するしかなかった。

 しかし1つ言えることがある。それは、バラバラだった答えが1つにつながった事。

「そうだったのですね。ただ、1つ、モリーさんにお伺いしたいのです」

 アルファベット表の単語に目を触れたあとで、アランを見つめる。

『何でしょうか?』

 探偵は彼女に告げた。

「あなたはどうして彼に向けて別れの言葉を? それに、何故、今更?」

 彼女の呼吸器の音が少しアランは、荒く感じており、最初会った時よりも、呼吸の音が少々大きくなったもの理解できる。

 モリーは続けて言った。

『私はもう長くない。医師の先生に余命を宣言されました。せめてもの私は彼にメッセージを送りたかった。どんな形でもいい。せめてものの挨拶をしたかったのです』

「それであの形で別れの挨拶を?」

 モリーはそれまでの鋭い視線とは違い、ゆっくりと看護師のアルファベット表の単語を見ていく。

 看護師は、ゆっくりとアルファベット表を持ち、言葉の通訳をアランとマリアに伝える。

『ええ、彼がどう思っているかわかりませんが、あの子の為にできなかった私が悪いのです。彼に宜しく伝えておいてください』

 アランは、ゆっくりと寝たきりのモリーに告げた。

「わかりました。伝えておきます」

 呼吸器をつけたままだった状態なので、あまり表情は見えないが、笑顔であった事は間違いない。



第4話です。話は続きます!

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