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小さい子供のように、大の大人のように

作者: 奥宮 奏

感情のお話。

泣かないと泣けないはちがう。


もちろん時と場合によるのだが、私の解釈として、泣かないというのは泣きたい気持ちがあるけど我慢している状態で、泣けないというのは泣くという感情を引き出せないという状態だ。



私は後者だ。おそらく、泣くべき時なのだろう、土砂崩れで即死だった妻を思って。



だけど涙が出ない、30年間も一緒にいたというのに。葬式だというのに。私以外の赤の他人は、妻の死を泣けるというのに...。


決して仲が悪いわけでも、超絶いいわけでもない。それは私たちの出会いはお見合いだったというのに少しは関係あるだろう。


当時、お互い好きな人がいて親に無理矢理彼女に会わされての結婚だった。それでも、結婚してからはちゃんと彼女を愛していたし、彼女も同様に私を愛してくれていた。


だからこそ、私はそこまで淡白な人間だったかと人であることを恥じてしまい、葬式に来てくれた人に顔合わせできなかった。


しかし、来てくれた人とは話す事になるのだ。何度もいわれる不運でしたね、という言葉に、彼女が不運なのか私が不運なのかということだけを考えていた。はは、心が無いみたいだ。



葬式が終わり、親戚との事も済ませた。私は、妻のいない日常に戻る。



一人になったこの家で今まで妻がやっていてくれたことも自分でするようになった。思うのは大変だったんだろうな、とかそんな程度で仕事をしながら私はしばらく慌ただしい日々を送った。




ある日の事だ。妻がなくなってから半年たったとき、私は妻の墓の前で思わず男泣きしてしまった。


理由はわからない。本当に突然胸がくるしくなったのだ。もしかしたら一人になってからの妻のありがたみやなんやらを感じたのかもしれないし、私の涙腺がたまたまゆるまってたのかもわからない。よくわからない感情がめぐって外に出される、そんな感覚を覚えた。


おんおんと泣いている横で墓をお参りしてた知らないおじいさんに大丈夫かい?と心配された。普段の私なら話すことはないだろうが、妙に私は知らないおじいさんの優しさに甘え、妻が不慮の事故で死んだこと。今まで泣けなかった事をつらつらと話した。




「...不思議と、泣けるものですね。私は妻に対して泣けない非情な男だと思ったのですがね。葬式なんて微塵も涙なんてこぼれなかったのになぁ」



「突然で驚いていたとかそんな滑稽なことはいいませんがね、生が自然なように死も自然なんですよ。だから逆に納得したような不思議な感覚になるんです。


でも本当はどこかぽっかりあいてて後になってその穴ぬ気づく人もいるんですね。ああ、私は今を共有し共感できる人を失ったのだってね。まぁ、一生気づかない事もありますがね」


「気づけたからいいとかそんな事もないですね。はは、複雑だなぁ」



すいません、なんか。とおじさんに一礼。

逆光で見えなかったかもしれない、私はにこりと笑った。










読んでいただき嬉しいです。ありがとうございました。

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