変化 気の迷い
さて、屋上に来たものの普段はちらほらと駄弁っているグループやカポーなんかがいるんだが今日は珍しく人がいない。だからゆっくりと弁当を食べることができた。
しかしそれがいけなかった。あまりにも静かだったから食べ終わった後、ぼーとしていたらいつのまにか目をつむっていたらしい。
目を覚まし携帯を見るとただいま午後二時二十二分四十秒くらい。
まあ、この時間だと六時間目がもう始まっているころだろう。確かこの時間のうちのクラスの授業は国語だったはずで、あの国語教師は今のご時世へたしたら懲戒免職くらいそうなくらい授業に遅れてくるから今から行けば間に合うかもしれない。
それほど勉強大好きな人間ではないので、しっかりこの時間は休養を取ることにしよう。
みんながあの箱みたいな教室でもくもくと黒板の文字をする中、一人悠然とコンクリートの床に寝そべり雲を眺めているとこの世にもう自分しかいないような気がしてくる。
なんてことはなく、耳をすませば教室から先生たちの黒板に文字を書き込む音とそれを必死に生徒に理解させようと声を張っている先生の出す音が聞こえ、耳をすまさずとも否応なしに聞こえてくるエンジン音が俺に世界が俺なしでも動いていることを伝えてくる。
たぶん本当にこの世界は今の俺を必要としていないのだろう。このまま俺が屋上で死んでいたところで、ニュースで十秒ほど報道されるくらいだろう。どこぞの元首相の自殺とはわけがちがう。
人生つまんねー。
どうせ俺はいらない子ですよ。一番大事な人も守れないような人は用済みですか。
……と、このままつまんないこと考えるのも疲れたので他のことでもやるか。ふと携帯の時計に目をやると目覚めてからまだ五分と経っていない。
嫌なことを考えると時間の進みが遅いのは本当らしい。十分に寝たし、やることもなくただ漫然とまた雲の流れを眺めていた。
「あー、なんかあの雲犬に似てんなあ」
「そう?私は猫に見えるけどね」
突然後ろの方から声が聞こえたため思わず飛び起きて驚いた表情のまま振り向いてしまった。
それがいけなかったのかもしれない。まだ脳が活動を再開してから五分をようやく経過してまだまだ寝ぼけたままだった。飛び出したと本気で思えてしまうほどの女の子に目が固定されてしまった。
「ね?猫に見えない?」
「……あ、いや……」
「うーん、見えないかな。私には見えるんだけどな」
俺には今現在目の前の女の子言っていることが異国の言葉に聞こえている。誰か解読を頼む。
「――ねえ、ちょっとあなた。そうそこのあなたよ。ずっと人の方見ておいて会話をしようとしないのは不自然じゃないかしら。言葉は人の作り出した偉大な物の一つよ」
俺はようやく首だけを縦に振ることで相手の会話に相づちを打つことに成功した。
でも、何故だろうこのままではいけない気がする。このまま何も言わずにいたら俺の人生はさらにつまらないものになるという確信が心の中にうずまいている。とにかく何か言わないと。
「それにしてもこんな時間に屋上にいるなんてあなたもサボり?ここに来るなんてなかな―――」
「……す、好きです!」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………え?」←俺
「……………………………………………え?」←女の子
「エエェぇえええっ?!」←俺
遠くから何かを伝える音が聞えるが、俺には世界の崩壊を知らせる鐘の音に聞えた。