出会い
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意味を持って絶望することこそが希望ではないか。
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気が付くとそこは電車の中だった。
どうしてここにいるのかと、空っぽの脳みそで考えてみた。
空っぽの脳みその側面に刻まれている記憶が奇声をあげる。
それは鈍痛となり、さらに私を苦しめる。
そうだ、私は行かなくてはいけないのだ。
この先の、夢の館へ。
そいつに会ったのは今日の午後。
悪魔のような真っ黒な姿のそいつ。
そいつは駅で銅像のように佇む私に声をかけた。
目をギラギラと光らせ、私を舐めるように見つめてきた。
獲物、そう私は感じ取った。
こいつは私を餌だと思っている、そう直感した。
私はそいつに何も答えないでいた。
だが、そいつは私の無言にもひるむことはなかった。
そして、そいつが放った言葉が私に突き刺さり、懐かしい感覚を取り戻した。
「君の願いをかなえてやる」
ギラギラした目が、私の脳に刻まれる。
鈍器で私の頭を容赦なく叩くそいつに何一つ抵抗することなどできなかった。めまいと吐き気を催した時、またそいつは私に鈍器を振り上げる。
「君の願いは叶えられる。もう一度信じてみないか?」
心臓が跳ねる。
血が巡る。吐き気がする、熱い、廻る血が、鼓動が、眩暈が、痛い。
「行くところがないのなら、行ってみるといい」
そうして、霞む視界の中、そいつは切り落とされた右手に長方形の磁力を帯びる紙を握らせた。
その際の切り裂くような瞳は私の先を見ていた。
ああ、確かに私は餌だった。
そいつは楽しんでいる。私を陥れることを、心の底から楽しんでいる。
悪魔だ。
悪魔の悪戯から逃れることはできない。
私はなす術もなく、渡された紙で電車に乗った。
糸で踊らされている。
そんな人生しか歩んでこなかった私に、これは最後の最後で神様が寄越した舞台なんだろう。
つまらない舞台に最高の茶番を、最高の痛みを。
そんなことを考えながら電車に揺られていたのだ。
そして、寝てしまったのだ。
今、ここはどこなのだろう?
磁力の紙は無言だ。
電車にはもう誰も乗ってはいない。
外はベタ塗りされた空間が広がるだけだった。
どうしようもない気持ちが込みあげては飲み込む。
夢物語だ。誰かが謳う創作物語だ。
願いを叶える人形、会ったら首を引きちぎる死神、死者を連れてくる電車。
どれも日常を賑わす胡椒だ。
刺激を与えるだけの、脇役。無くても困らない、好みのトッピング。
そんな物語の一つなのだろう。
あの悪魔の目のそいつが語る夢の館の存在は。
舌打ちと、痛みと、頭痛と、塩水と血を混ぜ合わせた現実を味わってるところで、無機質な声が聞こえた。
それは短く、終点と二回繰り返し、私を追い出そうと勢いよく口を開けた。
外へ出てみるとやはり、ベタ塗の黒が私を迎えた。
ちんけな電灯は揺らぎ、足元を照すのが精いっぱいのようだ。
電車は口を閉じ、私からそそくさと逃げ去った。
駅の改札は不思議となかった。
私はその職務怠慢な磁力の紙を胸ポケットに収めて、駅から出る。
一本の道しかない。辺りの森は黒く、まるで道から外れるとその暗闇に落ちていきそうな気がする。
特に気になることもないので、真っ直ぐ道を歩くことを決めた。
それしか私にはできないと思ったのだ。
ひたすら闇に飲み込まれている森を横目に道を歩いてきた。
足は痺れ、体に疲労が満ちたころ、風景に異物が現れた。
大きな屋敷だった。
その体を緑の蔦で覆い、暗く沈む大きな屋敷。
休みたいと思ったところだった。このまま歩き続けるのは辛いほど体力に限界が来ていた。
誰かいる気配はない。
でもよく見てみると、右下の一室に揺らめく炎が見えた。
誰かいたら泊めてほしいと頼もう、いなかったら勝手に借りればいいことだ。
門はあっさりと開き私を中へ通す。
ドアには呼び鈴はなく、鍵もかかってはいなかった。
ドアノブを捻り、扉をゆっくりと開き、その先に影が揺らめいていることに多少の驚きを感じる。
声が出ない私に、影は蝋燭が数本立ち並ぶ燭台を手に、そのぽっかりと開いただけの口で
「いらっしゃいませ、ずいぶんと遅い到着でしたね」
と音を発した。




