人形
目を開けると目の前には薄暗いあの部屋と影がいると思い込んでいた。
しかし違った。
真っ白な空間。
私だけが立っていた。
「思い出して」
さっきまで聞いた声が聞こえる。
人形の、人形だった私の声。
空間に響く。
「私は思い出さないといけない」
頭がガンガンする。
直接頭に響くような、そうでないような。
「顔を上げて。きちんと自分を見て」
どこから声が聞こえるのか?
言われなくても私は顔を上げている。
「嘘。私は見ていない。私は目をつむったままだよ」
響く声。
反響してどこから声が聞こえてきているのか分からない。
いい加減にしろ。
私に姿を見せてみろ。
「なんでそんなに怖がっているの?」
私は思わず叫んだ。
「勝手なことばかりさっきから!私はちゃんと目を開いている!怖がってなんていない!」
背中に気配を感じた。
振り返ろうとした時、白い手が私の目を覆った。
驚き、振り払おうと手を伸ばそうとして、木でできている手は上手く動かなかった。
「それも嘘。私は恐れている」
背中から声が聞こえる。
視界は黒く染められ、逃げることもできない。
「これは現実だよ。まぎれもない真実」
言葉が私を絡めて離さない。
「怖がらないで。受け止めて。信じて。自分自身を思い出して」
とても優しい声だった。
そして、気づいた。
私の目を覆う手はなぜか震えていた。
どうして?
「私を見て?」
私の目の前で声がした。
右手首に何かが触れた。
ハッとして目を開いた。
私の目をふさいでいた手は、自らの手になっていた。
ゆっくりと自分の手を下す。
目の前には、いつも見てきた人形が浮いていた。
「やっと見てくれた」
人形は微笑んでいるようだった。
私は驚き、目を見開いていてただ呆然とするしかできなかった。
「私のこと、覚えてる?いいや、思い出した?」
人形は私の手首からその手を離し、私から少し離れた。
「もう思い出せるはず。私は私を見つけられたのだから」
そして、もう一度、人形は私にその手を伸ばした。
私は、その手に妙に軽く感じる自分の右手を伸ばして握った。
その瞬間、人形は光り、消えた。
人形が教えてくれた。
いや、私は思い出した。
帰らなくては。
私にはやらなければいけないことがある。
目を閉じて願った。