可能性
何もないただの道に立っていた。
ここはどんな世界なのだろう。
周りを見回すと、何かが積まれているのが見えた。
近づいてみるとさまざまなゴミがたまっていた。
そこに汚い人形もいた。
私か。
こんな惨めな姿だったのか、それともこれからそうなるのか。
もう少し見てみよう。
この世界の女の子と男の子がどうなったかを見なくてはいけない。
「助けて」
声が聞こえた気がした。
気のせいだったか。他に声など聞こえてこなかった。
この世界の自分がどんな姿をしているかは分かった。
あとはあの二人を探すことをしなくては。
そんなことを考えている間に、あの女の子が近くまで来ていた。
女の子は人形を数秒見つめて、拾い上げた。
「君が私を呼んだの?」
そう女の子が呟き、そして人形に向かって微笑んだ。
「いいよ、私のところへおいで」
そのまま人形を抱えて歩き出した。
どうしよう。
この世界に女の子が存在しているのは分かった。
この世界を諦めようかと思ったが、男の子が存在していないならそれでもいいかと打算をする。
代償は有限だ。
もしかしたら女の子について行けば男の子の存在を確認することができるかもしれない。
そうしよう。
女の子は人形の髪を整え、服を縫い直し、綺麗にした。
それを見ているのもなかなか複雑な気持ちになった。
いつも側に置いてもらい、いつも話掛けられている人形。
心なしか人形の表情も明るい。
「私ね、大切な友達がいるの。でもその子病気でほとんど一人ぼっちなの。私もずっとは一緒にいてあげられない。だからね、あなたが一緒にいてあげてほしいの。いつも、ずっと一緒に。お願いね!」
女の子にそう言われ、人形は男の子に渡された。
人形はいつも男の子の側にいた。
いつも見つめていた。
そして男の子もいつも人形を見ていた。
「君も拾われたんだってね。彼女に救われたんだろう?僕もだよ。僕もいつも彼女に救われている。いつも僕を見舞いに来て、いつも遊ぶ約束をしてくれるんだ。僕は約束を守るために生きようと一生懸命になれる。彼女は優しいよね」
男の子は優しい声で人形と会話をしている。
毎日、男の子は自分の願いを人形に語っていた。
「僕もね、自分を治して君と彼女と一緒に遊びたいな」
そこまで確認して、目覚めようと決心する。
私はこの世界を望まない。
二人が存在する世界を望まない。
目を閉じた瞬間、また声が聞こえた。
今度はハッキリとした声だった。
「私は、幸せ」
ハッとして振り返る。
もしかして、人形の声なのだろうか。
「私を幸せにしてくれた二人を、私は幸せにしたい」
人形は、男の子ではなく、私を見ているようだった。
「あなたは覚えていない?思い出して。"私"が願ったことを。その代償を」
世界が白くにじむ。
あの屋敷に戻ってしまう。
あの人形は私が見えていたのか?
その疑問には誰も答えてくれなかった。