復讐
目を覚ませば、目の前に影がいた。
「大丈夫ですか?」
私は沈むソファに座っていた。
影が運んでくれたのだろうか?
「…彼と彼女に会ったのですね?」
答える気力なんてなかった。
なんだっていいのだ。
私はもう疲れた。
「……知りたいですか?」
目だけを影に向けた。
この理解出来ない世界の真実を影は知っているのか?
影は息を一つ吐いて、私を真っ直ぐ見つめる。
「彼は、あなたが探している男の子ですよ。そして、あなたが見てきたあなたそっくりな女の子が、あの人形です」
もうなにも考えられない。
希望なんてなかった。
では一体、私はなんなのだろうか。
「あなたが後半見てきた世界は過去の世界での話」
全て一つの線でまとめた世界。
病弱な男の子と、男の子をとても大切に思っている女の子。
女の子は、病気で死んでしまった男の子の元に行きたいと願い、偶然にもこの館にたどり着いた。
女の子は、さまざまな世界を見て払える代償が目だけになってしまったとき、望んでいた世界を見つけた。
女の子が見つけた世界は、女の子の存在はなく男の子だけが生きている世界だった。
新たな世界で生きていた男の子。
何か忘れているような気がしていた。
いつもどこかに誰かの影を探していた。
そして、その言い知れぬ影を追いかけているうちに、館にたどり着いた。
そこで、一度世界を見て全てを思い出した。
女の子の犠牲を。
そして願った。
女の子を生き返らせたいと。
石に願ったが、世界は変わることはなかった。
女の子は生き返ることはなかった。
理由は分からなかった。
それでも男の子は諦められなかった。
そして、女の子が最後の代償を払う過去を見つけ、強く願った。
払わせたくないと。強く強く願い、そして一度の奇跡が起こった。
男の子の伸ばした手が、女の子の右目を奪った。
そこで、世界は過去の結末も、元の世界の結末をも滅茶苦茶にして、新しい世界へとなってしまった。
新しい世界では、男の子の存在はなかった。
代償は男の子の存在。
命はかろうじてあったが、世界に認識されなくなってしまった。
そして女の子の意識は、男の子が奪った右目に宿ってしまった。
世界は、いつも女の子か男の子に所持されていた人形に女の子の体を与えた。
そして、女の子には、人形の体を与えた。
今は、その新しい世界だという。
私は、今まで見てきた人形が本当の姿。
この体はあの女の子のもの。奪われた右目だけ人形の時のもの。
そして、今の彼らの目的は、私から肉体を返してもらうこと。
そのために今願いを叶える石を活用しているという。
話を聞いているうちに私は感情を高ぶらせていた。
勝手に世界を変えて、勝手に私の体を変えて、勝手に私の運命を捻じ曲げて、そして私に肉体を返してもらいたいなど。
勝手すぎる。
ふざけるな。私は、いいように利用されるだけの人形か?
「いいわ。全て理解した。そして私が今したいことも見つけた」
ゆっくりと思いを込めて言葉を放った。
そうだ。
私にはまだできることがある。
手も足もなくなっても、私の存在がここにある限り願うことができる。
「私はあいつらがいない世界を見つける。私が消し去ってやる。例え私の存在が消えても、道づれにできるならそれでいい」
恨みが浮かぶ。持て余し、流されるままに身を任せる。
「いいと思いますよ。あなたにはそれをする権利がある」
影が石を差し出す。
私は恨みを力に変えて、うまく動かない右腕を乱暴に動かし石をひったくる。
さあ、見せて。
私に復讐を見せて。
私の願いを叶えて。