元妻のターン!
魔王を討伐した英雄と、人間の国の半精霊の王女は、旅の途中から恋仲だったといわれている。
世界の存亡を掛けた戦いの最中であったが、戦いに勝利した後は不謹慎だという者はごく少数だけだ。
『めでたし、めでたし』のその後で、半精霊の王女が命を掛けて子どもを産み落としたとき、彼女を知る者だけでなく、当時の国民もまた涙した。
半精霊の王女は夫である英雄が受けた呪いを肩代わりしたため、長命な精霊族でありながら、短い生涯を閉じたという真実を知る者はごく一部であり、外部に漏れることはなかったようだ。
愛らしい妖精姫と英雄の恋物語。
子どもを守った母性愛の象徴。
夫を命と引き換えに呪いから救った良妻。
彼女の行いは、後世に永く語り継がれることとなった。
しかし、疑問がひとつ。
魔王が英雄に掛け、王女を死に至らしめた呪いについてだ。
呪いを掛けた本人である魔王はすでに亡く、それを身に受けた英雄もどんな呪いだったか知るすべはなかった。
だから、呪いがどんなものだったか、誰も知る由もない。
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元魔王は困惑した。
ある者には“祝福”と呼ばれる呪いか掛かり、生き続けているはずの英雄がいないことに。
元親友は焦った。
妻を亡くし、嘆く親友を慰めるために傍にいたことがバレて。
元息子は溜め息を吐いた。
美化され過ぎて『ダレこれ?』状態の元母親に出会ってしまい。
元妻は進む。
最期にした、宣言をその通りにするために。
その前にまず…。
「死にます?」
「怖ぇよっ!」
夫の元親友の絶叫が響いたとか、響かなかったとか。