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神官と密談。

過去話。

“ヤンデレ”というものは、よくわからない。

そういったジャンルがあるのは、もちろん知ってはいるが。


相手が好き過ぎてずっと傍にいたくて行動の全てを知りたくて周囲の人間を遠ざけて自分だけを見て欲しくて指ひとつ動かさなくていいほど奉仕したくて監禁してでも結局は放っといてくれない世界に絶望して相手殺して自分も死ぬ。


そんな勝手かつ漠然(ばくぜん)としたイメージを、神官は持っていた。

もっとも、恋愛はエゴだらけだと斜に構えた考えで締めくくる神官は、恋愛レベルの低い()引きこもりの元引きこもり、現英雄のひとりである。


「呪いを見逃した、私のせいです。私にその呪いを転移させて、反転させます」


勇者と呼ばれるようになった、仲間の剣士に掛けられた呪いは“不老不死”。

それを神々の力を借りて、自分に転移させる際に反転させて“直死”の呪いに変えると神官はいう。


「大丈夫です、絶対に他の誰にも被害が出ないようにします」


神殿の上層部や、貴族連中なら喉から手が出るほど欲しがるだろう“不老不死”の祝福は、神官だけでなく剣士にとってもたぶん“呪い”でしかない。


しかし、精霊族の血が強い姫にとっては、“祝福”ではないかとも思う。

神官にとって、今の状況で不老不死になれば、永久に神殿で飼い殺しにされるただの悪夢だが、愛する人の傍にいられるのであればそんな幸せなことはないだろうか。


“神官”としては呪いを解かなければならないが、姫の返答次第では“仲間”として口を(つぐ)んでしまおうと決意する。


そんな決意をする神官だったが、姫はきっぱりと解呪を望んだ。


「解呪の際、呪いを移す先は私にしていただけませんか?もしくは、貴方と私の両方でも構いません」


現時点では魔王の力が強過ぎて、剣士から引き離して反転させるだけで、本来なら“解呪”とも呼べない作業。

どの道、引き離すときに呪いが移ることはわかっていたがわざわざ姫を経由して転移させる必要はない。


「なぜ…何故ですか?あんなに、思い合っていたのに!」


魔王討伐の旅の途中にも関わらず、イチャイチャとウザ…ごほん、仲が良かったのに、あっさりと答える姫に混乱する気持ちが隠せない神官。


「『思い合っていた』?いいえ、今も彼のことを思っていますよ」


「でしたら、わざわざ…わっ、私なら大丈夫ですよ!いっては何ですが、聖職者だから独り身ですし、死んで困るのは神殿の上層部だけですし」


自分でいって、神官は凹んだ。

上層部に至っては、利用する駒としか認識されていない。


「ですから、大丈夫です」


力強く頷いてみせるが、姫は引き下がらない。


「ふたりで呪いを分ければ、その分威力が半減しませんか?」


「はぁ…しかし呪い自体が“直死”ですから、下手をしたら移した直後に死に至るかもしれませんよ」


「貴方ほどの力があってもですか?…私の力をそこに上乗せしても、変わりません?」


チートな魔法使いが、旅の道中彼女を見ている内に自信喪失してしまった法力の強い神官に問い掛ける。


神官は考えてみた。

姫の魔力は強く、作用する方向性は違えど、彼女がいうように底上げには使えるのではないか?


「正直、どうなるかわからないです。努力はしますが、出来ても時間稼ぎくらいでしょう」


いっそ、神殿のトップである法王に押し付けようと思ったが、彼では時間稼ぎどころか被害が拡大しそうだ。

まあまず、あのタヌキ親父ならのらりくらりとかわして、役目を他人に押し付けそうだが。


「でしたら、時間を稼いでいずれは解呪出来るかもしれないのでは?」


「それは…。姫さま、何故そんなにしてまで呪いの肩代わりをなさりたいのですか?」


最初、姫は自分だけに呪いを移すようにいってきた。

任せっ切りにしてもいいのに、わざわざ自分から呪いに関わらず姿が神官には不思議だったのだ。


「そうですね…私はきっと、彼に傷を残したいのです。あの人の心に、私が彼の呪いを肩代わりした結果、死んで逝くのを見せ付けることによって。彼は優しいわ。だから必ず、私が抉った傷を大事にして、決して忘れない。例えどんな素晴らしい女性が現れても、心動かすことなどないわ」


どんな美しいことを語るかのように、キレイな笑顔でそう告げる姫に、神官はゾッとした。

彼女は呪いも自身の死ですら、あの剣士の心を縛るために利用するというのだ。


表情と言葉の内容のギャップに、神官は雨に打たれた仔犬のようにぷるぷると恐怖に震えた。


「ですが、この子はやっぱり産みたいのです。彼に似て、強くて優しい子だと嬉しいのですが」


ゆったりとしたドレスの、心なしか膨らんでいる腹部を撫でながら微笑む姫に、聖母を見た気がした。


「だって、この子と共に死んでしまえば、傷は私とこの子で半分ずつですもの」


「うっわ、歪みねぇ」


…気がした、だけだったようだ。


歪みまくりな姫の台詞だが、ある意味まったく歪んでない。

神官の本音が零れたが、小声だったからか単に興味がなかったからか、姫は何の反応も示さなかった。


姫にとって興味があるのも大切なものも、自分の命ではない。

それは旅をしていた頃から、明らかだったが、まさかここまでとは思わなかった。


「わっ、わかりました」


…もし、姫が子を産む前に呪いに蝕まれることになれば。

それは姫が死に至った後の話になるにも関わらず、何か恐ろしい目に遭いそうだと、自分の想像に涙目になる。


神官はヤンデレというものは、よくわからない。

しかし何となく、姫の笑顔を見ていると、知りたくない気がした。



読んでいただき、ありがとうございました。

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