少女と夕食を。
セクハラ注意。
「…もう、お婿に行けない」
「お嫁さんではなく?」
少女はグッタリしたまま、夕食を有り合わせのもので作り、ふたりで食す。
よくよく考えてみれば、前世でふたりっきりで食事をしたことがないと気付く。
旅の中では仲間たちが、結婚したら侍女たちが周囲にいた。
転生した後に、こんな時間を取れたことに驚く。
「ここには、ひとりで住んでいるのですか?」
旅でもよく食べていた、干し肉と根菜のスープをキレイな所作で口に運んでいた王子は、前世で幾度となく食べてた手抜き料理にも関わらず『とても美味しいです』と最高の笑顔で感想を述べた後、少女に問い掛けた。
「基本はな。元々、人に借りてるんだが、俺もずっと旅ばっかだからあんまりここにはいない」
実家はあるが、前世の記憶があるため素直に家族に頼れず居着けない。
親の紹介で同じ村に一軒家を借りているが、そもそも持ち主の代わりに部屋に風を入れることを条件にしているのだ。
比較的、何度も帰って来て風を通してはいるが、1年のほとんどを旅に費やしているため、最近少女は家を借りているのが心苦しく感じていた。
旅の目的も果たした…目的の方からやって来たため、そろそろ潮時かと考える。
「いい機会だからこの家、持ち主に返すかな」
行儀悪く、口にスプーンをくわえながら少女は今後のことを考える。
この村は辺境のド田舎なため、自然が多くかなり気に入っていた。
しかし、実家に戻るつもりは毛頭ない。
あっちも、今更戻られても困るだろう。
「住むなら、多少不便なことがあっても、自然が多いとこがいいな」
あと、獣人や魔王候補が来て騒いでも、森にでも放り出せば大丈夫だろうと考える。
「いいですね。それに源泉でも出れば、ここのように湯を浴びれますよ」
少女はスプーンを口から落とす。
普段なら誰かしらいるのに静まり返り、何故か男湯と女湯を隔てていた柵が腐ってて使い物にならなかった。
タイミングが悪過ぎだ。
「…もう、お婿に行けない」
「もとより、行けませんよ」
『行けても、行かすつもりはない』とはいわない。
「あなたは、可愛い女の子なんですから」
にっこり。
「…うぅ、元妻が男だった」
共同浴場で、何か見たらしい。
少女は両手で顔を覆った。
もしかしたら、ちょっと泣いていたかもしれない。
…気を取り直して、話を続ける。
「あんま、人がいない田舎なら更にいいな」
「おや、何故です?」
外見が少女、中身はおっさん、繕うのも面倒くさい。
それに、もう一つ。
「お前も、たまには会いに来てくれるだろ?」
やたらキレイな精霊国の王子。
王女との婚約話は嘘らしいが、そんな噂がある目立つ王子が出入りすれば色々面倒なことに巻き込まれそうだ。
昼間の公爵とのやり取りと合わせ、すでに手遅れなほど目立っているのだが、鈍い彼女は気付いていない。
「もちろん、王子さま業が忙しいお前ばっか頼りにしたくないから、俺も会いに行くけど…さっきから黙って、どうした?」
黙って俯く王子に、少女は少しイスから立ち上がって手を伸ばす。
小さいがマメが潰れて固くなった剣士の手は、王子の前髪を持ち上げた。
「何て顔、してんだよ」
潤んだ目で、恨みがましく睨んでくる王子に苦笑する。
「…一緒に住む話ではなかったのですか?」
「いや、無理だろそれ」
こっちは今まで旅人をしていた自由気ままな身分だから、どこに住もうか勝手だが、相手は精霊国唯一の王子。
好き勝手出来る立場ではない。
「折角、息子の手が離れたのに」
獣人がいたら、『お前は子育てしてねぇだろ』と突っ込むだろうが、今は突っ込む不在のまま話は進む。
「息子も手が離れたので、もう一人作りません?」
中腰だった少女の腰を撫で、妖艶に微笑む王子。
いつの間に、席から立ったのか少女にはわからない。
「…今度は俺が産むのか?」
一応、牽制してみるが、さっき見た有無をいわせない顔をしていたので無理だろう。
ちょっとゲンナリした顔をするのは、男だった記憶と男の精神があるからだ。
「つーか、俺でいいのかよ?」
ガサツで下品で下ネタも平気で、平民で我流の剣術くらいしか自慢出来ない平凡な女で、更に前世が男で今も気持ちがまだ男な面倒な相手。
少女にとって、自身の評価はそんなものだ。
しかし、王子は即答する。
「あなたでなくては、嫌です」
しっかり少女の目を見て、はっきりと確かにそういい切った。
「それに私、いったではありませんか」
『生まれ変わっても、あなたと一緒にいたいです』




