弓遣いの恋。
弓遣いの子どもは、いつも目敏く見付ける。
キリキリと得物の弓を引き絞り、数本素早く矢を放つ。
狙いは違えず、矢は的を目指すが、的はそれに気付いて全て一閃のもとに斬り伏せる。
しかし、子どもにとっては想定内のことだ。
全ての矢が落とされる前に走り出し、相手が一瞬だけ剣を下げた瞬間に地面を蹴る。
『なに、姫さまに馴れ馴れしくしてんだー!!』
ギョッとした顔をするくせ、繰り出された蹴りは余裕で避けられた。
『あっぶねーな。こんなとこで、無駄な体力使うなよ。なんのための休憩だと思ってんだ?』
口調はいつもと同じ乱暴なものだが、その冷静な意見が逆に子どもの怒りを煽る。
『だったら、あんたも姫さまに引っ付いてないで、ゆっくり休んだらどーなの?』
『お前、目が見えてるのか?俺が引っ付いてんじゃなくてな』
『なにっ?!姫さまが、あんたみたいな、得体の知れない人間に近付いてるっていうの?聡明な姫さまが、不用意にそんなことされるわけない!姫さまの美しさに目が眩むのはわかるけど、妄想と現実をちゃんと区別してっ!』
『いや、別にどっちも引っ付いてないぞ。単に、話をしてるだけ…ってお前、聞いてないなっ?!姫君を護る騎士さまを気取るのはいいが、人の話を聞けよ』
『うっさい!人間風情がっ!!』
『あー、ハイハイ。精霊族さまのおっしゃる通りでー』
投げ遣りな言葉に、仲間たちはドッと笑う。
弓遣いの子どもが尊敬する王女もまた、楽しそうに笑っていた。
魔王討伐の道中とは思えない、暢気なやり取りだったとのちに思う。
「…ボク、彼を探そうと思う」
王女夫婦の遺された息子の成長を見届け、精霊の国に戻ってきた弓遣いに、その国の王子はいう。
彼は姿こそ少年だか、魂は弓遣いが尊敬した王女のものだと、すぐにわかった。
「もし、生まれ変わって男になったら、彼のよき理解者になってずっと傍で手を貸したいって思ってた」
その希望通りに転生した元王女が知らされたのは、元夫の死だった。
「…でもきっと、どこかで生まれ変わってきてくれるって、信じてる。ボクだって、無事に転生出来たからね」
寂しげな笑顔が痛々しかったのに、『信じる』といったときの元王女の目は力強い光が宿っていた。
仲間であり、夫婦であり、家族だったからこその信頼なのだろうか。
弓遣いには、そんな風に信じられない。
「そうそう、操も守ってくれたみたいだしね?」
意味ありげな表情に、弓遣いの頬は引きつった。
男にいう台詞じゃないが、そこが問題ではない。
かつての王女は、気持ちを知っていながら自身の死後、彼の傍に自分を放置したままであったことを弓遣いははじめて知った。
「やっぱり、あの方の隣はボクがいるべきだよね?」
「は、い…」
「ふふっ、ありがとう」
子どものような無垢な笑顔に見えるはずが、何故だろう。
弓遣いには、威嚇に見えてしかたなかった。
夫←弓遣いちゃん




