9-1 少女の夢と剣
真っ暗な道を歩いていると、誰かの声が聞こえたような気がした。
目覚めよ…目覚めよ………
男か女か、子供か老人かもわからない。でも、厳かな声だった。
早く目を覚ますのだ……聖剣の英雄よ……
聖剣の英雄?それは、アレクさんのことでしょう?
違う。彼にはその資格はない。お前が、剣を手にとるのだ。
私が?まさか……だって、私は何もできないのに。
早くしろ……早く目覚めるのだ英雄よ!
急に、白い光が私の眼を射す。眩しい…
さあ目覚めるのだ!何をぐずぐずしているのだ!早く目覚めよ!
や、やだ!恐い!やめて!
「お目覚めかい、お姫様。」
誰か、少年の声が頭上から聞こえた。
目を開くと、金色の瞳が私の顔を覗き込んでいた。
この顔は……確かあの時、塔で会った……
「きゃああ!?」
驚いてとっさに飛び起きた。舞踏会があった夜、塔の最上階に現れた不気味な少年だ。
「君も大概失敬だねえ。人の顔みて悲鳴あげるなんて。」
ずいずい近づいてくる少年の顔。ただのかわいい少年のはずなのに、体の震えがとまらない。
「あなたは……何しに来たの?人を呼ぶわよ!」
私は後ずさりながら逃げようとするけど、踵に何かが引っかかって後ろに転倒し……そうに、なった。
後ろに倒れそうになっていた所を、この少年に腰を掴まれて、止められていた。え、なにこれ。
「おやおや、ひどいなあ。天使様は敬えって教わらなかったのかい。あ、でも君のお兄さん神様キライだから仕方ないか。」
いたずら小僧のように上目づかいでこちらを見る少年。でも、その眼はまるで蛇のように鋭い。
「天使?何言ってるの?ふざけるのもいい加減にしなさい!」
声を振り絞って言ってみるけど、腰をがっちり抱かれたままだと格好がつかない。
「やれやれ。どうしたら信じてもらえるのかなあ。」
青い髪の少年は、困ったように笑ったかと思うと、私をまっすぐにたたせて、眼を閉じた。
え?
と、私が考える間もなく、少年の体が金色の光に包まれる。そして彼の背中からは、神々しいほどに真っ白な、羽が……天使の羽根が生えてきた。
「僕は、偉大なる創造主によって、地上に舞い降りた“青い天使”だ。亡国オルフェリアの王女、サラ=オルフェリアーナ。君には聖剣を持つ資格がある。」
そう言ったかと思うと、少年の……いや、天使?の足元が円形に光りだした。
光り輝く少年の足元からズズズズ……と、大きな剣が現れた。金色に輝く柄に、大きな白い宝石がはめ込まれた、水晶のように光り輝く剣……。
「さあ、創造主のお導きに従い、この剣で世界を浄化するんだ。」
「ちょ、ちょっと待って、一体何がどうなってるの?意味がわからない……」
「まあ、混乱するのも仕方ないかな。この僕だって最初はわからなかったからね。」
そう言うと天使はふわりと私の入っていた棺に腰掛けた。
「うーん、話すと長くなるからめんどくさいなあ。見たほうが早いと思うから……ちょっとじっとしててよ。」
そう言うと、彼は人差し指をわたしの眉間にそっと乗せた。
え?は?なにを……
「見せてあげるよ、君の知らない君の過去と、彼の過去を!」
目の前が、真っ白になった。
頭骸骨をむりやりこじ開けられてるような、激しい痛み
色々な景色が頭の中をぐるぐる廻っている。もう、何がなんだかわからない。
でも、それも一瞬だった。気がつくと、私は静かな森の中にいた。
小川のせせらぎの音、目に眩しい木々の緑色。
そして足元には、いっぱいのタマユリソウの花が咲き乱れていた。
これは、学校の近くの森じゃない。それは確かだ。なのに、とても見覚えがあって、懐かしい。これは……
「君はね、8年前の戦争で滅んだオルフェリア王国の末裔なんだよ。今はめている指輪がその証さ。」
言われて自分の手を見て、タマユリソウを型どった指輪がはまっていたことに、この時初めて気が付いた。




