表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王とプリンセス  作者: 藤ともみ
51/54

8-6 金色の魔剣士


 アレクたちが螺旋階段を登りきると、観音開きの扉が現れた。

「俺が前に来たときは、この部屋の中で姫は眠らされていました。」

 そう告げる部下の言葉にアレクは頷く。だからこそ、油断することはできない。敵たる魔王はこの扉の奥で待っているはずである。

『アレクよ、ここからは君が先に行くのだ。君の力を皆に見せてやれ』

「ここからは私が先頭に立とう。下がっていろ。」

 アレクが言うと、兵たちはさっと左右に下がった。開いた道をアレクは悠々と歩き、慎重に扉に手をかける。

 とってに手をかけ、扉を開くと、そこには真っ白な空間が広がっていた。

 蒼白い壁に囲まれた、釣鐘状の天井の部屋。家具らしきものは一切ない。教会から、椅子や祭壇などを全て取り払ったらこうなるだろう、と思われるような空間だ。

 アレクは部屋の中へ一歩踏み出した。その時、大理石の床が鈍く光った。

「なっ……!」

思わず後ずさるアレクだがもう遅い。大理石に描かれていた魔方陣が光り、部屋全体が蒼白い光に覆われる。

「皆の者、光をまともに見るでないぞ!」

後ろからハルフォード元帥の声が飛び、兵士たちは慌てて目をかばった。

 やがて強い光が収まり、アレクと兵たちが目をあけると、先程まではいなかった金髪の女が一人……いつもは一つにまとめた髪を下ろした、ダーリング家の使用人、セリアが立っていた。

「お待ちしておりました、アレクサンダー・ベルクール様。わが主の城へようこそ。」

 セリアは優雅に一礼する。

「君も、白の魔王に仕える魔物だったのか。」

 アレクは剣を構えながら、やはりそうかと内心思っていた。公爵家で初めて出会ったとき、全く気配を感じさせずにいつの間にかルークに付いて商談に参加していた時から、只者ではないと感じていた。

 アレクの問に、セリアは肯定も否定もせずに、言葉を続ける。

「しかし残念でした、ベルクール様。主人はあなたお一人に来ていただくようお願いしたはずですが、まさかこれほどの大所帯でいらっしゃるなんて。案外臆病でいらっしゃいますのね。」

「なんだと!」

「まあ良いでしょう。ともかく、ここから先は、聖剣の英雄以外は通すな、という主の命令です。兵士の皆さんはご無事なうちにどうぞお引き取りください。邪魔するならば、私は容赦いたしません。」

 挑発的なセリアの言葉に兵士たちは色めきたった。剣や銃などそれぞれの武器を構える。

「待てセリア!落ち着いて話し合わないか!」

 ハルフォード元帥が急いで列の最前列へと向かいながら叫ぶ。

「ハルフォード元帥閣下……。」

「セリア、君とは闘いたくない。手をひいてくれんかの。」

「お優しいお言葉ですね元帥閣下。しかし、その言葉そのままお返しいたします。どうか兵を引いて下さいませんか。無駄な殺生を避けたいのは私も一緒です。」

 セリアの淡々とした言葉に兵士たちは怒りをぶつけた。

「ふざけるな!」

「非力な少女を殺しておいて、よくもそんなことが言えるな!」

「少女を殺した?なんのことです?」

「とぼけてんじゃねえ!」

 ダン、と鈍い音が響いた。銃兵の一人が、セリアに向かって発砲したのだ。

「馬鹿者!」

 ハルフォードが振り向いて叱責するが。

「……なるほど、確かに最新式の銃のようですね。」

 セリアは何事もなかったように落ち着き払っている。胸の前で左手を握りしめていた。

「といっても、私や主には無意味な攻撃です。」

 セリアが左手を開くと、鉛の弾丸が手の中にあった。彼女はその弾丸を指でつまむと、少し力を込めて、その弾丸を粉々にした。

 唖然とする兵たちの目の前で、粉々になった弾丸をセリアは払い落とした。

「そこまで戦いたいと言うのなら、仕方ありませんね……。」

 セリアは右手に握っていた、金色のヘアピンを上へと向ける。

 白い霧のようなものが、そのヘアピンにむかってどんどんと集まっていって、ヘアピンとセリアを包む。

 霧型の瘴気だとアレクは気づくも、どうすることもできない。

 霧に覆われたヘアピンは、金色の長剣へと姿を変えた。霧に覆われたセリアの黒いドレスは、黒い鎧へと姿を変え、頭部を覆っていた霧も彼女を守る防具へと姿を変える。

 セリアの足は、人間のそれから、鎧に覆われた鳥の脚へと変形した。

そして、霧に覆われた彼女の背中からは、金色の鳥のような翼が現れた。ただ、それは右側からのみの翼、片翼だった。

 鳥人のようなその姿に、人々は恐怖の声をあげる。

「烏合の衆は消え去りなさい。」

 セリアの剣の切っ先から、無数の光が放出される。それらは矢印のように姿を変えたかと思うと、みるみるうちに無数の剣へと姿を変えた。

「この剣に耐えられないようならおかえりなさい。」

 セリアが金色の剣を振り下ろすと、生まれた無数の剣はアレクの後ろにいる兵士たち目掛けて、弾丸のような速さで飛び出していった。

「うわあああああ!」

「逃げろおおおおおお!」

 螺旋階段にいた兵士たちは逃げ場がなく、皆大慌てで階段を駆け下りていった。剣が飛んでいくと、観音開の扉が閉じられていく。

 が、ハルフォードと、隊の中にいたオットーは身をかがめて飛んでくる剣を交わしながら走って前進し、鉄の扉の中へと滑り込んだ。

「お見事です、元帥閣下、オットー殿。」

 セリアは素直に賞賛の声をあげる。

「ですが、ここからの闘いには手出し無用です。さあ、かかって来なさい聖剣の英雄よ!」

「望むところだ!」

 アレクは聖剣を抱えて突進していく。

 セリアは向かってくるアレクに対して、空中で剣を作り出し、アレクに向かって投げ飛ばしていく。アレクは降り注ぐ剣の攻撃をかわし、あるいは聖剣で払いのけながら突進していく。

 オットーは、セリアに悟られぬよう、気配を決して援護射撃を試みる。が、セリアの飛ばした剣がオットーの右手めがけて飛んできて、彼の手の甲を傷つける。

「手出しするなと言ったはずですよ。」

 セリアはアレクの方を見据えたまま、オットーに言う。オットーは諦め、若い主人の闘いをただ見ることしかできなかった。

 オットーの心配をよそに、アレクは華麗に身をかわしながらセリアの元へと突進していく。

 剣の一つが、アレクの右肩に命中した。鮮血がアレクの肩から吹き出した。

「アレク様!」

 オットーが、思わず叫ぶが。

 アレクの傷は、黒い皮膚のようなものに覆われて、たちまち塞がれた。アレクは何事もなかったかのように、そのままセリア目掛けて走っていく。

(なんだ……?今アレク様の傷を覆ったものは?)

「な、何?」

 セリアにも予想外だったようで、一瞬たじろいだ。

 その隙をついて、アレクはセリアに飛びかかり、刃を彼女目掛けて振り下ろした。

セリアは金色の剣でその刃を受け止めた。キイン、と、金属音が響く。

 セリアはアレクサンダーの剣をさばきながら考えていた。

(剣に輝きが感じられない……おかしい……なにか、変……。)

「死ね!この化物が!」

 アレクサンダーが剣でセリアの胸めがけて剣を突いた。

 その剣…“聖剣”であるはずの剣から、どす黒い、邪悪な瘴気が放出されたように、セリアには見えた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ