7-1 冬の夜に
「呼び立ててすまなかったね、セリア。いい酒があるんだ。一杯どうだね?」
「ありがとうございます。公爵様。」
ひっそりとしたっ寒い夜、暖かな公爵家の一室で、アーク公爵とダーリング家の使用人セリアが向かい合って座っていた。
しかし、公爵の対応は、他の家使用人に対するものとしてはかなり丁寧すぎた。周りに人がいれば、咎める人もいたかもしれない。
しかし今夜は完全に人払いをしてあった。
公爵は二つのグラスに赤い酒を注いで、一つをセリアに手渡した。
「率直に言おうセリア。私はルークを助けたい。頼むから彼を説得してくれないか。」
「公爵様…お気持ちは嬉しいのですが、前にも申しましたとおり、もう手遅れですわ。」
「何故だ?彼はずっと人間としてこの国で生きていたじゃないか。この国の教育や芸術の為に、多くの投資をしてくれた。何より、彼は私にとって大切な友人だ。だから……」
ほとんどすがるような公爵に、セリアは悲しげに、しかし冷静に首を振った。
「公爵様。止められるものなら私がとっくに止めております。でも、もうどうしようもないんです。聖剣の英雄が現れた今となっては、あの人がこの世にとどまる理由はもう無いのですよ。」
「何故だ、聖剣の英雄がサラさんを救って結婚するから死ぬっていうのか?そんなこと馬鹿げている!何も結婚したからって永遠に会えなくなるわけじゃないだろう?結婚したあとも、いい相談相手の兄として側にいてやったらいいじゃないか。」
「そのようにずるずるとサラに付き纏う気は、我が主人にはございません。あの少女を拾ったときから、彼女が結婚したら完全に人間界に開放すると決めていたのですから。」
「しかしだなセリア……」
セリアは酒に口をつけると、言葉を淡々と続けた。
「それに、これは事前に不可侵条約を結んだ際にもご説明したではありませんか。サラの養育費として、公爵家から年間三〇〇万バルクの支援をいただくかわりに、魔王とその眷属は決して国の人々を殺さないと。サラが結婚したら、できる限りで公爵家の援助をしてほしい、と。」
「それじゃ、あまりにもルークが不憫すぎるじゃないか!君はどうしてそんなに冷静でいられるんだ!?彼が死のうがどうでもいいと思っているのか!」
公爵はもはや自分がついだ美酒のことなど忘れていた。
「そんなこと、思っていません。」
「だったら!」
「でも、あの方を交渉で事前に説得するのはもう無理でしょう……あの方は、自分の幸せをすべて諦めてしまった方ですから……」
あまりに諦めに満ちたセリアの言葉に、公爵がまた何か言いかけたその時。
「誰かたすけてええ!」
宵闇を切り裂くような女性の悲鳴が聞こえた。




