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魔王とプリンセス  作者: 藤ともみ
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5-1 アレクと剣

「誰も信じてくれない・・・うまくこの街に溶け込んでいるな、クソ・・・」

朝の冷たい風にあてられながら、アレクは毒づいて、歯を食いしばる。

「アレク様、どうか落ち着いてくださいませ。」

「でも、このままではサラさんが・・・」

「焦りは禁物ですぞ。」

「しかし・・・・・・」

「アレク様、あなたの使命は世界の民を救うことではありませんか。サラ様一人に執着して焦りを見せては、それこそ敵の思うツボというものです。」

 常に冷静で、温厚なオットーの口から自分に向けられる言葉は正論で、それだけにアレクは苛立った。ずっと自分に寄り添い、ついてきてくれたオットーの言葉は、常に正しく、それゆえに若いアレクには時々鬱陶しく感じられることもあったのだ。

「・・・オットー、悪いが少し一人にしてくれないか。頭を冷やしてくる。」

「はっ・・・。」

アレクは武器をガチャガチャ鳴らしながら一人郊外へと歩き出した。朝日に輝くアレクの髪を、冷たい北風が揺らした。


 アレクが一人で街を歩いていると、当然のことながら街の人々と多くすれ違った。

 多くの人は、自分たちが初めて来た時の好奇に満ちた目を向けることはなくなって、おおむね親切で好意的な視線を向けてきてくれる。アレクもそれに対して柔和な笑顔を向けていた。が、彼の苛立ちはおさまらなかった。

 街の人々にはせっかく魔王の危険性を説き、銃を勧めて売ったのに危機感が足りなさすぎる。

 それにしてもオットーはサラの身に危険が迫っているというのにどうしてあんなに冷静でいられるんだ。

 いや、そもそも自分も甘すぎた。どうして、初めてダーリングに出会ったとき、どこかで見た顔だと思ったのに、白の魔王だと思わなかったんだろう。忘れもしない、憎い敵の顔だったというのに。どうして、あんなにサラと一緒にいたのに、彼女を早く守ってあげられなかったんだろう。自分の不甲斐なさに嫌気がした。


 気がつくと、アレクは見知らぬ荒野に立っていた。

 先程まで、寒いながらもいい天気だったのに、空には暗雲が立ち込めていた。突風がアレクを襲い、アレクはよろめいた。 

 急な天候の変化にアレクは戸惑った。ふらついた彼の足元を、急に何ものかがつかんだ。ハッとして足元を見ると、黒い影が足を捉えていた。・・・闇そのものがアレクを包み込むようだった。まるで泥に浸かっているように不快で、体が重く感じた。

 魔物かと気づいた時にはもう遅く、腕もあっという間に捕らえられて、アレクは身動きとれなくなっていた。

『油断した、なんとかしなくては…』

 アレクはなんとか闇を振りほどこうとするが、暴れれば暴れるほど、闇はしつこく絡みついてくるようだ。

 しかし、闇はアレクにねちっこくまとわりつくだけで、攻撃はしてこない。自分がおとなしくしていれば、闇はそれ以上の動きをすることは無かった。不快ではあるが、自分を締め付けようとも、圧迫して殺そうともしないらしい。

 アレクは訝った。が、これはおとなしくしておいて、隙をみて逃げたほうがいいのか・・・少なくとも、今は逃げようとしても攻撃しようとしても無駄だ。

『手荒な真似をして申し訳なかった、アレクサンダー殿。』

 突然、低い声が響きわたった。

「誰だっ!」

 アレクは周りを見回そうとするが、闇に邪魔されてあまり周りはよく見えない。

そのとき突然、ゴゴゴゴゴと地鳴りがして、アレクの目の前の大地がぱっくりと二つに割れた。

 その割れ目からは、水晶のように美しく妖艶な輝きを放つ、長剣が現れた。

『我は君を待っていた。英雄アレクサンダー・ベルクールよ!』

 信じられないことだが、厳かなその声は剣から発せられているようだった。

 



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