第3話 3-0
冷たい雨の降り注ぐ、暗い大地を、自分は剣を引きずりながら歩いていた。
足元には、おびただしいほどの死骸が……ついさっきまで生きていた、人間の真っ黒な死骸が転がっている。先ほど放った炎が雨によって鎮火され、人々の体は消し炭のようになっていた。
誰が自分の手にかけた人で、誰が憎かった敵に殺された人だったのか、今となってはもうわからない。いや、もうみんな、自分のせいで死んだようなものだろう。
自身の左手を見てみれば、白い爬虫類のような冷たい皮膚に鋭く長い爪が生えた、およそ人間のそれとはかけ離れたものになっていた。
ああ、自分はもう人間ではないんだな、とこのとき初めて自覚した。
どうしてこうなってしまったのか、自分にもよくわからない。どうして自分はここまで残虐なことをやってしまったのか、今になって思い返してみても、よくわからなかった。
振り返るのが怖かった。下を見るのも怖かった。
自分が殺した人間たちの、恨み言が背後から聞こえてくるようだった。
なんで自分を殺した。
よくも父を、母を、殺してくれたな。
なぜ罪もない彼を、彼女を殺した。
かわいい我が子を、愛しい人を、何故、何故、何故。
痛いよう怖いよう、死にたくないよう
恨んでやる恨んでやる恨んでやるこの人殺し人殺し人殺し!
体が重い。もう何も考えられない。右手にある忌まわしい剣を手放したいのに、これも青の魔王の力なのか、どうしても手放すことができない。
それでもなんとか歩いていたが、国の外にあった森にたどり着いて、ついに動けなくなって、その場に倒れ込んだ。
もう、このまま永遠に眠っていてしまいたいと、そう想った。
幼い子供の泣き声に気が付いた。
目だけを開くと、木の傍で小さな子供が泣いていた。女の子だ。黒髪に、白い肌の映える、かわいい娘だった。
自分は動けないほど弱っているのに、自分はあれほどの人々を殺す、残虐な行為をした後だというのに、なぜだろう。この娘を慰めなければ、守らなければと思った。
泣いている少女に向かって、手を伸ばす。
それで罪滅ぼしをしているつもりか?自己満足じゃないか。笑わせるな。
―構うもんか、あの子を放っておけないんだ。なぜか。
人殺しの魔王に何ができる?お前が人を守ることなどできるわけがないだろう?
―やめろ……
人々の怨みを振り払うようにして、自分は必死になって少女に向かって手を伸ばす。
やめろやめろ。人殺しの魔王が。あれほどの人間を殺したお前に、無垢な少女に触れる資格など無い。自己満足のために罪のない子供を不幸にすることになるぞ
この化け物が。化け物が!
「やめてくれ!」
目が覚めると、見慣れた天井だった。
静かな月明かりが部屋に差し込む、静かな夜だった。嫌な汗を全身にビッシリとかいていた。
睡眠が必要ない体ではあるが、セリアに、たまには夜眠るように言われていて、このようにたまに眠るとろくな夢を見ない。
再び眠る気にはなれず、私はベッドを抜け出した。