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魔王とプリンセス  作者: 藤ともみ
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プロローグ 魔王の城

 空には雷が光り、激しい雨が降る、嵐の夜のことである。

 蔦で覆われた天まで届くかのように細長い石塔は稲妻に照らされて、怪しげなその姿を露にする。その塔の中、冷たい石の廊下を一人の男が走っていた。

 石で出来た巨大な塔の中は薄暗く、気味が悪い。一階登るごとに燭台にある蝋燭がゆらゆらと揺れているのだが、その光も薄気味悪かった。燭台には恐ろしげな魔物の彫刻が施されている。

 男は長剣を構えながら進んでいく。この剣は、村を出るときに馴染みの鍛冶屋のオヤジが自分の為に鍛えてくれた剣である。笑顔で自分を送り出してくれた村のみんなの期待に応えるためにも、必ず姫を救い出さなければ、と男は剣の柄を握り直した。

 

 男は、世界中で有名な伝説に聞く、囚われの姫君を救い出す冒険にやってきたのであった。

村中できいた噂によれば、とある国の美しい姫君が恐ろしい魔王に捕らえられ、石塔に幽閉されているという。そして英雄がやってきて自分を救ってくれることを姫はひたすら待っているというのだ。その姫は100年も眠り続けているという噂もある。姫君を救い出せば、その人物は英雄として称えられ、美しい姫と結婚することもおそらく難しくはないだろう。そしてゆくゆくは王となって国を治める権力も手に入るかもしれない。


 階段を登りきったところで、突然、赤い色の大きな猛禽が男の行く手を阻んだ。

鋭い目でこちらを睨みつけている。

 ―ちっ、また使い魔か…!!

 鳥は熱い炎の塊を口から吐き出す。

 男は村の紋章が入った、これまた鍛冶屋のオヤジが特別に作ってくれた鉄の盾で炎から身を守りながら、ポケットから小石を取り出し、鳥に向かって投げつける。

 鳥が怒ってこちらに向かってくるのを、タイミングを見計らって間合いを詰め、剣で心臓を突き刺した。

 そのまま動かなくなった魔鳥をその場に残し、男は更に上へと進む。

 姫を塔から救い出すには、途中でこうした魔物たちを倒しながら進んでいかなくてはならない。男もここに来るまでに、小さな魔物たちを次々と倒してきた。そろそろ疲労困憊である。

 剣を構えた男はようやく、最上階にある、鉄の扉の前にたどりついた。

用心しながら、そうっと男は観音開きの扉を開けた。

 中には、大きなガラスでできた棺がひとつだけ置かれていた。

棺の中いっぱいには色とりどりの花が敷き詰められている。

そして……その棺のなかに少女が眠っているのが見てとれた。かすかに寝息も聞こえる。

遠くて顔はよくわからないが、肌の色は透き通るように白く、それを覆う黒髪はとてもつややかであることが分かった。噂通りの美しい姫に違いない。

「おお麗しのマイプリンセース………」

 男はガラスの棺に向かって駆け出した。

 が、次の瞬間。

 男の足元の床がぱっくりと開き、男は虚しく叫び声をあげながら落下していった。

 

 男が落とし穴に落ちてしまうと、天井裏からひとりの男がふわりと部屋に降りてきた。

 白いマントと白銀の甲冑に身を包んだ、若い男である。長く白い髪に、青白い肌は、人間が持つそれではない。

「今宵の男もたいしたことはなかったな……」

 男は銀色の長い髪を垂らし、紅い瞳でパックリと開いた床の底を見つめた。穴の底にはどこまでも深い闇が続いている。

「ええ。そもそも近所の鍛冶屋で鍛えた剣で我らに立ち向かうなど、無謀にもほどがありますね。」

白髪の男のつぶやきに答えるように、女が隠し扉から現れた。蜜色の髪をポニーテールに結って、白いメイド服を着ている。髪と同じ色の瞳が暗闇の中で猫の目のように光っていた。男は女の方に驚きもせず、暗い穴を見つめたまま、答えた。

「ああ。我が使い魔達をさしむけるまでも無かった。幻覚のみで十分であったな。」

「しかし、ここまで来たのに成果なしというのは……少しかわいそうな気もしますね。序盤で徹底的に痛めつけて帰したほうが良かったのではありませんか?」

「いや、あの男は村では一番の力持ちで、正直者として有名だ。ああいう男には実際に“姫”を見させて、噂を流してもらうほうがいいのだ。」

「なるほど。」

白いマントを羽織った男は、穴から顔を離し、ガラスの棺のほうへ近づき、その中ですやすやと寝入っている少女を抱き上げた。少女は全くもって起きる気配がない。

「サラを部屋に戻す。私ももう寝るとしよう。人間の処分は頼むぞ、セリア。」

「はい。御休みなさいませ魔王様。」

セリアと呼ばれた女は、男……魔王に向かって礼をし、主の背中を見送った。


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