表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来宣告  作者: 海猫銀介
9/37

第9話 ついてくんなよ


「はぁーおいしかったーっ! ごちそうさまっ!」


「椿ちゃんは本当素直でいい子ねー。 それに比べて邦彦ったら……」


「面目ないです、母上様」


俺は妙な敬語を使って、母さんに頭を下げた。

一度ならず、二度までも近所迷惑になりかねない声を上げてしまった。

母さんの冷たい目線が痛い、でも俺悪くないと思うんだ。

全てはこの隣の椿って奴が起因で……


っつっても、母さんにあの状況説明するわけにもいかんしな。

言い訳しようがないこの虚しさ。


「ごちそうさん」


時計をちらりと確認すると時刻は「7時50分」を指していた。

俺の学校へ付かなければならない時間は大体「8時30分」ぐらいで、自転車で大体15~20分前後。


羨ましいだろ、やっぱ学校が近いと色々と便利だぜ。

うん、時間はまだまだ余裕があるな。

これなら今日は遅刻をする心配はないだろう。

俺はさっさと制服に着替える事にした。


リビングの隅にある衣服かけから制服を取り出し脱衣所へ向かう。

手馴れた手付きでぱぱっと学ランに着替えて髪型を少し気にする。

うん、今日の俺もバッチリだ。 どーせ普通な顔だが。


決してブサイクではないと信じたい、イケメンとは思わないがブサイクってほどの面でないと思っている。

髪型もそれなりに気を使っているし、それに今日は『先輩』に俺の成し遂げたを報告しなければならないからな。

まだ時間に余裕はありそうだな、ちょっと自室に戻ってのんびりしてからいくか。


そう思って俺は脱衣所を出て一旦自室へと戻っていった。


「邦彦ー、あんまりのんびりしすぎんじゃないよ。 また遅刻してもしらないからね」


「へいへい、わかってますよ」


「返事は『はい』でしょ、それに1回まででいいのよ。 全くもう」


あー面倒くさい、どうして母親ってのはこうも口うるさいのだろう。

そりゃ俺は1回部屋で二度寝をしちまって遅刻をしちまった事はあるけどさ。

たった1回だぜ、それに同じ過ちは基本的にしないだろうししてないだろ。

勘弁してほしいよな、その辺は。


俺はちょっと憂鬱な気分になりながらも自室へと戻った。

そこには椿の姿もあった。


ん、何でコイツ俺の部屋にいるんだろう、と考えたが別に考えるまでもなかった。

未来人であるコイツがまぁ、学校へ通う必要もないだろう。

しかし母さんにはどう伝えるつもりだろう、今日の流れから見ると俺と同じ扱いを受けていたし

恐らく学校へ通う事が前提になっているよう…だが


俺はそこで物凄く嫌な予感を察した。

椿に気づかれないうちに俺は自室へ入るのを辞めて階段を下りた。


「んじゃ、行ってくるわ」


「あら、いつもより早いのね。 いってらっしゃい、二人とも」


今の一声聞いても、やっぱりアイツ……。


「ま、ままま待ってよ邦彦ぉーっ!!」


ドダダダダダと小動物が驚いて逃げ出すぐらいな音を立てながら、椿は階段を駆け下りてきた。

まずい、これは絶対コケて絡み合うといった王道パターンだ。

これ以上、奴とわけのわからない事態を引き起こすわけにはいかんっ!

俺は全力で玄関へと走り出し、瞬時に革靴を履いて玄関から飛び出した。


「きゃーっ!!」


ドターンッ! と、派手な音が俺の耳に飛び込んできた。


ほらみろ、やっぱりこうなったじゃないか。

自業自得だ、反省しろ少しはっ!

そう思って俺はのんびりと自転車に乗った。


「くーにーひーこーっ! まってってばああっ!」


俺の家から椿の叫びが聞こえる。

いや、無視だ無視。

学校でぐらいアイツとの関わりを絶つんだ。

ただでさえ家では苦労しているというのに。


「椿ちゃん、大丈夫? もう、邦彦ったら何してるのかしら……椿ちゃんを放置して」


「だ、大丈夫ですっ! わ、私も行ってきますっ!」


「ちょ、ちょっと椿ちゃん制服はっ!?」


「な、なんとかしますからっ! ではっ!」


何か怖い会話が聞こえる。

聞きたくねぇ……いや、もう無視できねぇこれは。

ってことで逃げだ、逃げ。


俺は頭の中で想定している最悪な事態を回避すべく、全力で自転車を漕ぎ出した。


「あーっ! 待ってよーっ!」


バカめっ! 遅すぎるわっ!

お前が未来人と言えど、チャリのスピードにはついてこれまい。


「悪く思うな、これも俺の平穏な学園生活のため――」


俺は振り返って後ろでちんたら追いかけている椿をあざ笑ってやろうとした。

だが、現実は違った。


いやいや、もう何でもありかよ。

俺は泣きたい気持ちになったぜ。




ドドドドドドドドッ!




俺が振り返った先には、アラレちゃんばりの猛スピードで駆け出してくる椿の姿が目に入った。


夢だ、これは悪夢なんだ。

いくらなんでもありえないだろ。

お前本当に人か? ロボットなんじゃないだろうな?


一体どうやったら人がそんなスピードで走れるんだよ。

下手するとそこらのバイクと匹敵するんじゃないかと思うね。

いや、それぐらい猛スピードで奴は俺を追いかけてきたんだよ。


せめて俺は見なかったことにしようと、前へ向いて全力で自転車を漕ぎ出そうとした。

すると後ろからドンッ! と何かが重く圧し掛かった。


背中越しに柔らかい感触がする、あれ…あいつ意外とでかいのか。

いや、何考えてんだ俺は。


「いたいた、よかったぁ……」


はぁはぁと息を切らしている椿は、走行中の俺の自転車の後ろに飛び乗ってきた。

おいおい、猛スピードで走ってきた挙句何事もなかったかのように俺の後ろへ飛び乗ってくるとか。

いやもう、こんな非常識な奴に常識を求めるのが間違っていた。


俺は平穏な学園生活を諦めるしかない、と心の中で覚悟を決めた。

とりあえず流石に二人乗りで猛スピードは危ないので、漕ぐペースを緩める事にした。


「……まさか、学校にまでついてくる気なのか」


「うん、だってずっと家にいるわけにもいかないでしょ?」


「そ、そりゃそうだけどな……てか、何で私服で登校してんだよ」


「う……そ、それが学園の制服が間に合わなかったみたいで」


何だ、未来の人は過去の学校の制服まで用意できるのか。

どんだけだよ……未来っておっかねーな。


「でも何でだ? そんなの未来で制服届いた日からこっちに送ってもらったりすればいいだけじゃねぇの?」


「ふっふーん、過去の人間は考えが浅いなー。 あのね、未来から過去へ移る際は

必ず時間の流れの同期を取らなければいけないの」


おいおい、また難しそうな話が始まったぞ。

まぁいい、黙って聞いておこう。

俺は無心になって自転車を漕ぎ続けた。


「要は未来から過去へいく為にはまず、場所と時間帯を設定してリンクさせるの。

もしこのリンクが断たれてしまうと正しい時間へ戻る手段がなくなっちゃうからね。

後未来と通信するときも、同期を取っていないと上手くいかないの。

過去の時間進行と未来の時間進行をあわせないと、色々と不便でしょ?

ちょっと矛盾してるかもしれないけどね。」


「さっぱりわからん」


「んー、これもまた未来の常識なんだけどね。 ま、そんなわけで今日は制服がないけど一緒に登校ね?」


「……いやまぁ、制服はともかくとしても…さ」


俺は物凄く嫌な予感がしていた。


昨日の行動を振り返れば、奴は俺の家に住み込むために俺の両親に嘘の記憶を植え付けてやがるんだ。

幸い二人に異常はないらしいが、気分はいいものとは思えん。

そして俺が通っていた学校に『黒柳 椿』って奴は存在しない。


それってつまり……


「お前まさか……学生とか教師全員にあの銃うってまわるんじゃないだろうな?」


「ふっふーん……やっぱり君は、まだまだ浅いんだねっ!」


ビシッと指をさされて言われてしまった。


何だかとても悔しい。

まぁこんなぶっ飛んだ話だ、別に理解できなくてもいい。

どーせ聞いてもさっぱりわからんだろう。


「ここに来る前にクロックスが色々と準備はしてくれているからね、私は転校生って事になってるらしいの。

学年は君と同じ1年生ね、もしかするとクラスも一緒になれるかもよっ?」


「やめろ、余計ややこしいことになりそうだ」


「えー?」


「えーじゃないっ!」


こいつのルックスは抜群だし、正直こんな奴と同棲できている俺は幸せ者なんだろうって思う。

でもやっぱり、コイツの目的とかその他性格面を色々と考慮してしまうとな

外では極力こいつと関わりたくないって思っちまうんだよ、家でなら仕方ないとしてもな。


悪い奴じゃないのはわかってんだけど…なんとも複雑な気分だ。

しかしクロックスって何処まで凄いとこなんだろうな。

俺を殺す目的の為に、くるはずのない転校生が来る歴史ってのを何らかの手段で用意したってことだろ、それ。


例の未来宣告って奴に則ってるのかね。

深く考えるのはよそう。


「ってことで、学校では用意された関係とかはないし、自由にしていいからね?」


「何で俺の言うんだよ、俺は言われるまでもなくお前とは赤の他人のフリをするぞ」


「えーっ! それは困るよ、私は君の傍にいないといけないし」


うー本来ならグッとくる一言のはずなんだが、やっぱり素直に喜べねぇ……

畜生、何でこんな可愛い奴を送り込んだんだ未来の奴らは。

こいつがまだブサイクだったり男だったりしたら、もっと心を鬼にできるというのに。

美少女ってところだ罪だよな、全く……。


「ま、お前がどうしようといいが……少なくとも俺に被害がないようにしてくれよな」


「大丈夫だよ、私まだそんな事してないもん」


しまくってるぞ、おい。

こいつまさか自覚がないのか。

畜生、怒るに怒れねぇっ!


「あ、もしかしてあの学校かな?」


「ああ、予定より早くついたな」


気が付いたら目の前には俺の通っている学校が見えてきていた。

当然ながら他の生徒もゾロゾロと正門をくぐっており、椿のような私服の人間は目立ってしまっている。

頼むから目立たないようにして欲しいが、事情を聞いてしまうと強くはいえない。

俺が女子生徒の制服を持ってれば万事解決だが、そんな事はありえてしまってはいけないしな。


「みんなー、おっはよーっ!」


元気良く大声で生徒達に向かって椿は挨拶した。

両手をぶんぶんと強く振って、飛び切りの笑顔だった。

ただでさえ目立ってるってのに余計な行動しやがって。


というかいつ俺の後ろから飛び降りたんだ。

未来の技術なのかこいつが特別なのかさっぱりわからん。

少なくともあいつを見ていると俺は色々と未来人を誤解しそうな気がするんだが。


おいおい……朝から俺はこんなに疲れているぞ。

嗚呼、無事に1日が終わればいいな……と切に願う俺であった。



ここまでが家パートだとすれば次からは学園パートです。

いろいろ変人出てきたりするかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ