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未来宣告  作者: 海猫銀介
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第8話 男なら誰もが喜ぶはずなんだがな

今日から毎日更新とまではいきませんが、2~3日に1話ずつあげていこうと思います。


ジリリリリリリリリッ!


聞きなれている耳障りな音が、俺の枕元から響きだした。

クソッ、相変わらず嫌な音を出しやがるぜ。

俺は枕に顔をうずめながら、手探りである物を探した。


そう、この近くにあるはずのあの忌々しい機械だ。

しかし、俺はそれがなければ意識を闇に沈め続ける事になってしまう。

どんなに心地よく眠っていても、うんざりするほど聞きなれているこの音が

耳に入ってしまえば、早く耳障りな音を消したくなるだろう。

そうなってしまったら、眠い中でも強引に動いて音を止めざるを得ない。


ここでもない、ならもう少し右か?

昨日は何処に配置したかあんまり覚えていないからな。

俺はいつも例の機械の設置場所を変えている。

そうすればこうやって手探りで探す手間が増えて、嫌でも体を動かす事になるからな。

もう少し右のほうに手を動かした俺は、カツンッと冷たい物体に指をぶつけた。

ガタンッと小さな音を立てて倒れた機械は、床と振動して更に嫌らしい音を出しやがった。


その途端、ジリリリリリという音共に、床からガタガタガタガタと

たたきつけるのような音と妙な振動が布団越しに体全体に伝わってきた。


鬱陶しい……さっさと止めちまわないと俺のストレスが大爆発しちまうぞ。

倒れている例の機械を俺は片手で持ち上げて、床にドンッと叩き付けた。


その途端、ようやく俺の部屋に静けさが戻った。


さあ、ここからが問題だ。

俺はようやく睡眠を妨害する悪夢の兵器『目覚まし時計』の魔の手から逃れたわけだが。

このままでは二度寝をしてしまい、心地良い眠りの世界へと誘われてしまう。

それでは俺が何の為に、あの忌々しい音を自らセットしていたのかわからん状態になってしまう。


だが、いつも以上に辛い目覚めを迎えている俺はどうやら起きれそうにない。

眠気に逆らう事ができずに俺は掛け布団の中に顔を引っ込めた。

そのまま静かになった部屋で、布団の中から一歩も出ないまま、再び意識を闇に沈めようとした。


その瞬間、ふと布団の中の違和感に気づく。




すぅ…すぅ……




何故か、誰かの寝息が聞こえてくる。


いや、俺じゃないぞ。 俺は半分起きてるからな、どんなに寝ぼけていても自分の寝息を聞けるような状態にはならん。

おかしいな、俺はペットを飼ってはいないし母さんや父さんだってそうだろう。

それに俺以外の人間が俺の部屋にいるはずも……。


と、俺の思考はそこで止まった。


何か大事な事を忘れているような気がする。

何だ、一体何を…忘れているんだ?


いや、そんなことはいい。

それよりも俺はこの寝息の正体を掴まなければならない。

段々と脳が覚醒してきた俺は、目を開いた。


その先には……見覚えのある黒くて長い髪が広がっていた。

これ…何だ、何処で見たんだっけ?

俺は目を丸くしながら必死で何かを思い出そうとしていた。

というかこれ、どう見ても…人、だよな。


「うー…ん……」


その髪からはこれまた聞き覚えのある声が聞こえだした。

そして黒い髪はもぞもぞと布団の中を動き出し、くるりとひっくり返った。

布団の中から顔を見せたのは――




「だあああああああっ!!! 何でお前がぁぁっ!!!!!」






その日、俺の声は近所中の目覚まし時計となってしまった。







「全くもう……朝っぱらから騒がしいのよ、少しは近所迷惑を考えなさい」


「あ、ああ……悪かったよ、母さん」


朝っぱらからとんでもない状況に逢ってしまっていたおかげで、俺は無事朝飯にありつけていた。

我ながら信じられない雄たけびをあげてしまった。


まさか謎の少女…いや、椿の奴が俺の布団の中で寝ているとは想像していなかったからな。

そもそも昨日の出来事を綺麗に忘れちまってたのも原因だ。

おかしいな、寝ている間は記憶の整理がされるはずなんだけどな。

何で寝起きってのはこう頭が働かないんだろうな。


しかしよく考えれば男としてはかなり美味しい状況だったんじゃないか。

……いやいや、そうも言ってられないだろ。

俺と椿はそんな関係じゃねぇって、仮にも命を狙われてるんだぞ。

それに昨日、絶対俺と布団の中に来るなって言ったはずなんだけどなぁ。


確かあの不毛な争いは深夜まで続いて、最終的には椿が押入れの中に引っ込んで終わったはずだ。

…ん、今日の目覚めが非常に悪かったのはそれが原因じゃないか。


畜生…学校ではなるべく授業中の居眠りは控えてんだけどな。

今日ばかりは、ぐうぐうといびきを立てながら寝ちまいそうだ。


「ん、そういや父さんまだなのか?」


「何言ってるのよ、お父さんは今日から出張よ。 朝早くに家を出たわよ」


そういやすっかり忘れてたな。

父さんが勤めている会社は、印刷関連のところらしく地方の支店がいくつかある為、

たまにそっちにいくような事があるらしい。


普段は都内にある本社に勤めているから、本当にたまにらしいけどな。

まぁ詳しい事は知らん、とりあえず朝飯だ。


「そういえば、椿ちゃんはどうしたのよ?」


「んぼはっ!?」


ご飯を口に頬張った瞬間にその名を出すんじゃねぇよっ!

母さんの突然の言葉で俺は思わずご飯を噴出してしまった。


「何よ、その反応は?」


こればかりは俺のせいだ、母さん。

貴方は何も悪くないでございますよ。


いや、何せ朝起きたら布団にそいつがいやがったからな。

その名を出されると嫌でも意識しちまうんですよ。

そんな事口が裂けても言いたくはないので、とりあえず勘弁してくれ。


「いや、椿ならまだ寝てやがるんだよ。 何度起こしたって起きやしねぇし。」


「あら、やだ。 あの子ったら貴方より朝には強いはずなのに……」


そんな設定にしてやがったのか。

とんでもねぇ、あいつは俺の絶叫でも起きやしながったんだぞ。

俺は思わずあいつの胸倉掴んで文句言いまくったのに返ってきた返事は


「ひゃううぅ~やめてよぉぉっ…もうおなかいっぱいなんだってばぁ~…」


だぞ、寝ぼけているにもほどがあるぞ。

もはやワザととしか思えん、あれは寝ぼけてるフリをしてそのままずっと寝ていようって作戦だ。

だが、そんなことしてたら学校に……。


あれ、待てよ。


あいつ学校に通ってるわけないよな、いや、未来の世界では通ってるかもしれないけどさ。

ま、細かい事は気にしねぇ。

俺は気持ちを切り替えながらたくあんに箸を付けて頬張った。


「心配ねぇ……私が起こしてあげようかしら」


「ぶほっ!?」


だから何で、こういう変なタイミングでとんでもねぇこと口走るんだ家の母上様はよっ!


「ちょっと邦彦っ! あまり食べ物を粗末にするような事はするんじゃないわよ」


誰のせいだと思ってやがるんだ畜生!

いや、そんな事はどうでもいい。

俺は更なる悲劇を防ぐ為に、母上様の行動を止めなければいけない。


もし、母上様が俺の部屋に向かって

奴が俺の布団の中で寝ている光景を見たら言い訳しようがないからな。


「あ、い、いやいいっ! 昨日の件もあったしさ、つ、椿はちょっと疲れてんだよ。

ギリギリまで寝かせてやってもいいだろ、な?」


「でも椿ちゃん朝ごはん大好きなのよ、そんなにギリギリまで待ってたら食べる時間がなくなってしまうわ」


「わかったわかった。なら俺がもっかい起こしにいくっ!」


「ちょ、ちょっと邦彦っ! 残したら承知しないからねっ!?」


母さんの怒声を受けながらも俺は、食事を中断して階段を駆け上った。

とりあえず、ご飯で釣ればあいつだって起きてくれるだろ。

昨日のやり取りであいつは飯が大好きな事ぐらいわかってんだ。


特に真っ白なご飯が好物なんだろうな、あの山盛りをひたすらバクバクを食い続けていた辺り。

奴の好きなもんがわかったところで、どうしようってわけでもないが。

そして俺は息を切らしながら、自分の部屋の扉に手を掛けた。


「おい、いい加減に起きやがれっ! さっさと飯食えよっ!」


バタンッと扉を開くと同時に俺は力強く叫んだ。


だが、俺の部屋には誰もいなかった。


ついさっきまで布団の中で気持ちよさそうに寝ていた奴は、いつの間にか布団から抜け出していた。

掛け布団がひっくり返ってる辺り、起きて行動を起こしていることは明らかだからな。


だが、部屋から消えるってのはどういうことだ?

入れ違いでトイレにでもいったか…いやでもトイレは1階にしかないし、階段の前を通る。

よほどタイミングが合わない限りそれはないような。


と、俺はその途端に僅かな音を聞き取った。


それは誰かの話し声だ。

どう考えても俺の部屋から聞こえている。

恐らく椿の声であろうが、一体何をしているのだろうか。


あの電波っぷりからみると変な独り言してても不思議に思わないが、部屋に隠れてするようなことでもないだろう。

さては、俺を脅かす為に部屋のどっかに隠れやがったのか?


もしかすると話し声は、俺が焦っている姿を一人で嘲笑っているだけかもしれないぞ。

クッ……何だか腹が立つぞ。

だが、あの単純そうな椿だ。それに俺の部屋に隠れる場所は一つしかない。


そう、押入れだ。

そこに奴がいることを確信した俺は、さっさと押入れの目の前に立った。

やはりそこから椿の声がはっきりと聞こえてきた。


「……うん、うん。 そうそう、それお願いね」


「えっ? 出来ればすぐにでもそうたいんだけど……」


「ま、まだ間に合わないんだ……そっかぁ」


何だかよくわからないが、別の誰かと話しているようだ。

会話の内容はよくわからんが、とりあえず俺は無言で押入れを開けた。


「うん、色々とありがとうね、おにいちゃ……あっ」


俺と椿の目が合った。

椿は押入れの中で、ノートパソコンのようなものを操作していた。

何だ、未来にもしっかりあるんじゃないか。

この形は大して変わってないのな、ってことはパソコンってかなり完成されてるってことだよなそれ。


「う、うん。大丈夫、邦彦だよ。 平気平気っ」


んーどうやら電話っぽいもんかな。

大方未来の人物と連絡を取っていたんだろう。

さっきの言葉から察するに、未来の兄貴とでも会話してたんだろうな。

何で隠れてこそこそやってたのかよくわからんが、深く考えないでおこう。


「うん、わかった。 じゃ、また後でね」


そういって椿はノートパソコン(と思われる)を操作して、パタンと閉じた。

そういや昨日大佐って名乗る奴が俺に直接声かけてきたよな。

その時に言ってた端末ってのがこれなんだろうか。


しかし一体どんな仕組みで俺の頭の中に声が聞こえたんだろうな。

別に俺はヘッドフォンっぽいもんをつけてなかったし。

っつっても椿もそれっぽいのはつけてないな。


「……えーっと、おはよ、邦彦」


「ああ、おはよう」


何だか気まずい雰囲気で、俺達は挨拶を交わした。


「何だ、兄貴と連絡でも取ってたのか?」


「うん、あ、でも本当のお兄ちゃんじゃないんだ。 義理のお兄ちゃんというか…本当に昔からお世話になってて」


寂しげな表情を見せながら、椿はそう呟いた。

あんまり触れちゃいけない話題っぽかったな。

そういや昨日も俺の家族が羨ましいとかそんなこと言ってたし。

もしかすると、本当に家庭環境に恵まれてないのかもな。


「……んでさ、お前にはたーっぷり言ってやりたいことがあるんだが、生憎そんな時間がない。」


「あ、私も聞きたいことがあるのっ!」


時間がないって言ったの聞こえなかったのかっ!?

まぁいい、どーせまだ余裕があるし少しぐらいなら聞いてやろう。


「何だよ、言ってみろよ」


「私、どうして邦彦の布団で寝てたんだっけ?」




………





「俺が聞きてぇよっ!!」





再び俺の叫びが近所の第2の目覚まし時計になった瞬間であった。






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