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未来宣告  作者: 海猫銀介
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第4話 俺はフードファイターにはなれない

あの後俺は下に降りてリビングへと向かった。


家は2階建ての1軒家であり、自分の部屋は2階にある。

その為、めんどくさいが飯を食うには降りる必要があった。

別に自分の部屋で持っていって食ってもいいが……親父がそれを許さない。


俺の親父は家族を愛するという強い思想を持ち、

極力食事は家族が揃っていなければ箸一つつけることは許されない。


つまり家族揃ってから頂きます、をするまではお預け。

今時珍しいかもしれないけどな、家族揃って飯を食うなんて。


変な一面で滅茶苦茶厳しいときもあれば、

かなーりゆるい時もある不思議な親父ではあるが別に嫌いじゃない。

むしろ家庭を大事にしてくれるし、親父のことは正直尊敬している。


「さあ、椿君っ! 遠慮せず召し上がりたまえよっ!」


豪快にガッハッハッと笑いながら、俺の親父は楽しそうに飯を平らげていた。

黒縁メガネにちょっと小太りな親父ではあるが、これでも昔はモテモテだったそうだ。

それは今の母さんの姿を見れば納得できるかもしれん。

年齢の割には皺一つ見当たらない美貌の持ち主だからな。

決してマザコンではないぞ、勘違いするな。


俺の茶碗と隣の奴の茶碗には山盛りのご飯が盛られていた。

おかしい、いつもこんなのご飯よそってもらったことないぞ。

今日の飯はトンカツだけど、何か凄まじくでかいトンカツが2枚もあるし、キャベツも山盛りだ。

しかも味噌汁も具が溢れ出して味噌汁と呼ばれる代物じゃないし……。

どういうことだ、ぶっちゃけ全部食いきれないぞ俺。


で、隣の奴は遠慮なく飛び切りの笑顔で白いご飯をパクパクと幸せそうに平らげている。

おーい、ダイエット中じゃないんですかー?

そんなに食べたら豚になりますよー?

ポテチ戦争とは何だったのか、俺はため息をついた。


「どうした邦彦、食欲がないのか?」


「い、いや…そうじゃねぇけどさ」


俺は再びため息をつき、目の前にある飯を何とか食いきろうとようやく箸に手をつけた。

何だか調子が狂うぞ、未だにこいつがここに来た理由をわかってないし。

しかも家族と仲良しっぽいし、すんげー嫌な予感がするんだが……。


「いやぁ、しかし椿君は随分と量を食べるんだなー邦彦も見習うべきだな」


「美味しいものはお腹いっぱい食べないと損ですよ、だから私いっぱい食べるんですっ!」


「椿ちゃんはとってもお料理を美味しそうに食べてくれるから作り甲斐があるのよ。

ついついはりきりすぎちゃったわ」


「おばさんの料理すっごくおいしいんだもの、ついつい食べすぎちゃって

体重が気になっちゃうぐらいなの」


「何っ!? そんなに良いスタイルだというのに体重を気にしていると言うのか

……若い子はわからんなー母さん」


「貴方気をつけてくださいよ、家でならいいんですけど下手するとセクハラになりますからね」


いつも通りの会話といえばそうなんだけど、ダメだ違和感が消えない。


というか、いつ親父の記憶まで操作した?

知らない間にあの銃を放っていたんだろうか……いや、深く考えるのはよそう。

俺は食べることだけに集中しなければ、母親の手料理を残すことになるからな。


前一度、体調不良のせいもあってか飯を残しちまったときは一週間ぐらい晩飯抜きにされたもんだ。

食べ物を粗末にする奴には飯を与えないと散々怒られたきり俺は二度と残すまいと誓ったんだ。

次、残すような真似をしたら俺は一週間どころじゃ済まない気がしてしょうがない。

だから必死になって俺は胃に飯を詰め込んでいた。


そのおかげで外では残飯処理役とかフードファイター遊馬とか

そんな風に呼ばれるようになっちまったが、誇りに思う事にしている。


「私は気にしませんよー。家族っていいですね、いつもこうやって

楽しく食事をできるって凄く幸せな事ですよね」


謎の少女は顔が笑っていたものの、段々と食事のペースを落とし、箸も進まなくなっていた。

こいついきなりテンションあげまくったり下げまくったり忙しい奴だな。


そういえば、奴と俺の関係が一体どうなっているのかまるで聞かされていなかった。

結局は一時的な記憶操作を行ったぐらいの情報しか得ていないからな。


「……すまないが、椿君」


「はいっ?」


親父は改まって謎の少女の名を呼びかけた。

先程まで豪快に開いていた口を閉じて、優しく微笑んだ。

俺が小さい頃、落ち込んだときに慰めに来てくれた時のような優しい表情だった。


隣では母親も深刻そうな顔で親父の表情と謎の少女の表情をチラリと伺っていた。

家族会議でも始まるんじゃないかと思うぐらい重い空気を俺は感じた。


どーせあいつのことだ、ろくでもないことをしたに違いない。

悪いが俺は無関係だ、傍観者として事態を見届けさせてもらうぞ。


「もうそろそろ家に戻ったらどうかね、ご両親もきっと心配しているだろう」


「貴方、ちょっと……」


「いや、すまない…別に迷惑だとは思ってはいないんだ。

ただ椿君の悲しそうな顔を見ていると、どうも耐えれなくてね……」


親父は謎の少女から目を背けながら、そう言った。

歯切れが悪かったものの、心配をしているように俺は聞こえた。

母親は心配そうに謎の少女の様子を見ていると、やっぱりこいつは悲しそうな顔をしている。


何処か思いつめているような、いや、追い詰められていると言うか。

親父がそういった後はしばらく無言のまま皆動かなかった。

気まずい空気が広がり、せっかくの楽しい空気もパーになってしまった。


丁度いい沈黙だ、俺に叫ばせてくれ。

お前ら一体、何の話をしているんだ、と。


ま、俺には関係ないね。

それよりも俺は目の前にある大量の飯を攻略しなければならない。

この空気を無視して俺は箸に手をつけようとした。


ドンッ


ゴフッ!?


俺は突然脇腹に激しい痛みを感じた。

油断すれば胃に詰め込んでいた飯がリバースするという大惨事になるところだった。


で、勿論犯人は奴だ。

こいつ綺麗に決めやがって……マジで効いたぞ、今の。


「ごめん、強すぎた」


「……なんだよ」


俺は俯いたままの謎の少女に耳を傾けた。

小声でボソボソとしゃべっている為、こうしないと聞こえやしない。

まだ痛む脇腹と暴発寸前の胃を気合でコントロールしながら何をしているんだろうな、俺は。


「ちょっと合わせてよ、ここで君の番だよ」


「はぁっ!?」


思わず俺は声を上げてしまった。

あまりにも衝撃的だったのか、脇腹の痛みも胃の不快感も一気に消え去った。


「どうしたんだ、邦彦?」


「い、いや…なんでも」


こいつ、いきなり俺に助けを求めやがった。

一体何を求めていると言うんだ、俺はお前から何も聞かされていないんだぞ?

しかし親父の目線が何故か痛い、まるで空気を読めといっているような。


悪かったな、空気が読めないバカ息子で。

でもその原因は隣の奴なんですよ、わかってますかお父様っ!


「大きな声ださないでよ、不信がられるでしょ?」


「俺に何しろってんだよ」


「私一人で進めちゃってもいいけど……ここは君のフォローもあったほうがいいかなって。

お願い、適当に私を励まして、ね?」


こういうのを無茶振りって言うんだろう。

というかやっぱり演技だったのか、こいつ。

にしてはマジっぽい顔するのな……危うく騙されるとこだったぜ。


俺は今から両親を騙すための手伝いを強要させられてるわけだ。

あまり気乗りはしないが、何か断れそうにもないので俺は適当に合わせてやる事にした。

後でたっぷり色々聞かせてもらうからな……クソ。


「お、親父、少しは……あー、つ、椿の気持ちも考えてやれよ。

こいつだって帰りたい気持ちはあるんだろうからさ」


「む…それもそうだが…」


「ごめんなさい、迷惑なのは承知です……。

でも、もう少し……もう少しここに、いさせてください」


長い沈黙は俺の一言で破られた、まぁ合わせろといわれたらこんなものか。

奴を『椿』と呼ぶのは抵抗があったが、仕方ない。

謎の少女は頭を深々と下げ、両親も困惑した表情でいた。


いや、本当何の話かわからん。

何でこんな重い展開になっているんだ?


「すまなかったな、顔をあげてくれ、椿君」


「気にしなくていいのよ、何度でも言うけど貴方は家族同然なんですからね、椿ちゃん」


両親もこいつに気を使っているのか、優しく声をかけていた。

おいおい……本当、これ俺が昔からコイツと知り合いだったとか、そんなノリじゃないか。

しかも友達とかじゃなくて大分親密な関係っぽいのは気のせいか?

親父も母さんもどっちもこいつのことよく知っているっぽいし。

幼馴染、だとしても色々と納得がいかないぞ。


「あ、ありがとうございます……っ!」


隣でガバッと顔を上げて再び笑顔を取り戻した少女は飯を勢いよく平らげて言った。

そしてさり気無く俺にだけ見えるように親指をグッと立てて俺に向けていた。

これは、よくやったって意味で捉えていいんだよな。


しかし、俺の中では疲労感と虚しさだけが残るのであった。

こいつに誉められたところで得られるもんなんてないしな。

さて、俺は残りの飯を詰め込むために再び『戦い』を再開させた。


だが、俺は気づいてしまった。

この程度で限界寸前に達してしまっている事に……。




俺は……フードファイターにはなれない。




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