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未来宣告  作者: 海猫銀介
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第35話 フードファイター再来とかマジ勘弁


数日後、傷は塞がりきっていないが無事に俺は退院することが出来た。

当日は親父と母さん、そして椿が総出で俺を迎えてくれた。

病院内で多少動いてた事があったけれど、やっぱり体が重くて歩いているだけで疲労は感じる。

ま、それ以上に精神的なものもありそうだけどな。


そのままの足で帰って、ようやく自室へと戻った。

本当久しぶりだな、やっぱ自室ってのは落ち着くぜ。

ここでようやく俺が完全復帰を果たしたわけだが

それと同時に、椿が未来へ帰る日が迫っていた。


「……なぁ、すぐ帰っちまうのか? もう先輩達はお前含みで明日パーティーやる気でいるぞ」


何処か寂しげな表情を見せていた椿に、俺はそう声をかけた。

大佐達の話を聞いて以来、俺は椿にはあえて何も聞かずに普通に接していた。

今更こんな話をしたところで、気まずい雰囲気にもしたくなかったからな。


あいつは本当に今日俺が退院するこの瞬間までは、未来へ帰ってはいない。

未来へ帰れなくなるリスクを背負ってまで、本当に最後まで俺の面倒診てくれた。

せめてそのお礼としてでも、明日は是非参加してほしいんだけどな。


「あ、うん……大佐と相談したらね、何とかしてくれるって。

クロックスの上層部は反対しているみたいだけど、私が未来へ帰らないと困るんだって」


「大佐には毎度世話になっちまってるな」


是非大佐にも参加してほしいと思ったけど、そりゃ無理な話だよな。

あいつがこの時代にきてから、一ヶ月も経っていないけれど

本当、ずっと前から知り合いだったかのような感覚だ。

あいつが帰っちまうのは寂しいと思うけれど、仕方が無いこと。


「……えっとね、明日ね。 全部終わったら、皆の記憶を消さなきゃいけないの。

クロックスには、未来人が存在したという痕跡を消す義務があるから」


「そ、そうなの、か」


俯いたまま、ボソボソと椿はそう呟いた。

俺はただ、力なく頷くだけだった。


記憶が、消される。

俺達のたった一ヶ月近い記憶が、無かったことにされる。

それはとても寂しく感じた。


だが、未来の決まりだというのならばそれに逆らうことはできない。

同じ過ちを犯さないためにも、受け入れるしかないだろう。


「あんだけ派手にやっといて結局そういう後始末が必要なのな。 学校とかはどうすんだよ?」


「上層部が何かしら情報操作するみたいだけど……流石に全校生徒の記憶操作はできないし。

あ、そうだ。 記憶があるうちに制服を先生に返さないと」


「ん? それクロックスの奴らが用意したわけじゃないのか」


「ううん、先生に挨拶しに行ったときに私が苦学生ってことになってたみたいで、先生が制服を貸し出ししてくれたの」


何であの担任女子の制服持ってんだよ。

それかなり危なくないか?


「あの担任ひょっとしたら危ない趣味持ってんじゃないだろうな、ちょっと心配になってきたぞ」


「そんなことないよ、凄くいい先生だし」


椿は久々に笑顔を見せて、そう言った。

お世辞ではなく、純粋にそう思っているという表れだろう。

確かにあの変な性格さえなければ、もっといい教師なんだけどな。


「……なぁ、お前の記憶は消えないんだよな」


「うん、私の記憶は決して消されないよ」


「なら、俺達のこと忘れないでくれよ。 全てなかったことにされるなんて、寂しいだろ?」


例え過去の俺達の記憶が消されても、椿や……大佐や未来の俺も覚えててくれるだろう。

だったら悲観に思うことは無い、さ。


「大丈夫だよ、邦彦も絶対忘れない。 だって、私との出会い思い出してくれたんだよね?」


「ま、まぁ思い出すのに時間かかっちまったけどな」


「本当はね、邦彦が綺麗に忘れていて凄く寂しかった。 後から未来の君の仕業って事を知ったんだけどね。

だけど、私にとって邦彦は命の恩人だし、絶対に護らなきゃって思ったんだ」


「ああ、椿は俺を救ってくれたさ。 今の俺自身と『未来の俺』をな」


結果的に、全て上手い具合に事が進んだ。

椿や俺が望んだ、結末に辿り付けた。

誰も死なずに、誰も悲しまない最高の終わり方さ。

それは俺や椿だけの力ではなく、俺の『仲間』の力もあったわけだ。


「俺達の時代に悔いを残すんじゃねぇぞ、最後は皆笑ってお別れだ」


「……うん、そうだね」


「未来には大佐や未来の俺もいる、寂しくなんてないさ。 元気でやれよ」


「うん、頑張るね」


椿は、笑った。

だけど、この笑いは違う。

明らかに、作り笑顔だった。


何だよ、自分の元の時代に帰れるんだぞ。

もっと喜べよ、俺だって退院してからここに戻るまでは自室を見るのが楽しみで仕方なかったぞ。


ガチャリ


そのときに、俺の部屋の扉が開いた。

そこからは母さんが顔を除かせた。


「邦彦、椿ちゃん。 今からお父さんが焼肉ご馳走してくれるんだって、すぐ支度して」


家族揃って食事、か。

久しぶりすぎるな。

丁度いい、これで椿に良き思い出をプレゼントできるな。


最後は笑って、お別れだ。

お互いが寂しくならないように、悔いがない最後を送ろうぜ。


「わかった、すぐでる」


「邦彦はすぐでしょうけど、椿ちゃんは女の子じゃない。 男のアンタと違って支度には手間がかかるの、ほらさっさと出なさい」


「へいへい、どーせ俺には女なんてわかりませーん」


俺は椿を部屋に残して1階へと向かった。

あいつたっぷり食うんだろうな、と俺は暢気な事を考えていた。













「ガーッハッハッハッハァッ! 椿君、遠慮せずたっぷり食べてくれたまえっ!」


「ありがとうございまーす、それじゃいっただきます♪」


「もうお父さんったら、椿ちゃんは女の子なのよ?」


「よく食べる子はよく育つんだぞ、ほら邦彦も見習いたまえ」


親父、無茶振りはよせ。

あいつの食べてる量を見てみろ。

今ご飯をこれでもかってぐらい山盛りにさせたのを(よく店の人やってくれたな)3杯も食ってるんだぞ、あいつ。


と、俺達はこんな感じで焼肉を楽しんでいた。

相変わらず椿は豪快に食うし、何だか知らんが親父はご機嫌だな。


ま、病み上がりの俺は正直そこまで食えん。

一時は点滴だけで生活してたこともあって、病院の食事も少量だったからな。


「そうだよ邦彦ー、私に負けちゃダメなんだからね。 お父さん、邦彦にも同じの頼んでっ!」


「うむ、流石椿君だな。 病み上がりの今こそよく食べて体の調子を戻す必要があるものだ」


おい、勝手に何しようとしてんだそこの二人。

ちょっと母さん、止めてくれよと俺は目線で訴える。


「邦彦、残したら承知しないわよ?」


母さんすら敵だった。

畜生、俺の味方はどこにいやがるんだ。

先輩助けてください。

こんなところで、またフードファイターなんてやりたくないんですけど。


数分後に容赦なく盛られたご飯を前にして、俺は絶望する。

後で覚えてろよ、椿の奴。

俺はあの日以来の激戦を、再び乗り越えなければならなくなった。


「そうだ、二人に話があるの」


「ん、私達にか?」


椿は目の前のご飯をぺろりと平らげると、突如改まってそんなことを口に出した。

だが、今の俺はそれどころじゃない。

目の前の白い山を攻略することで精一杯だった。


「あのね……私、家に帰ることを決意したの」


「ほ、本当かね? 椿君っ!?」


親父は、思わず声を上げるほど驚いた。

母さんも似たような反応をしていた、まぁいきなり言われたら驚くよな。

俺は別に反応しなかった、こいつが『未来』へ帰ることは知っているし。


「色々考えたんだけどね、やっぱりここにずっとお世話になるのはよくないと思ってるし……。

お父さんもお母さんも私のこと心配してるんじゃないかなってちょっと思うようになって。

勿論、お家に帰るのはちょっと怖いけれど……だけど、帰らなきゃって」


「……椿くんがよく考えた上でその結論を見出したのなら私達はそれを見届けるだけだ。

……本当にもう、大丈夫なのかね?」


「はい、もう大丈夫です。 私、お父さんとお母さんと向き合ってみるから」


そういや未だにあいつの用意した『過去』とやらを理解してないな。

家出した幼馴染ってぐらいで。


「椿ちゃん……無理はしてないわよね、ここにいるのが迷惑だと思って、ということじゃないのよね?」


母さんは心配そうに椿にそう尋ねる。

本当にお人よしだな、まるで自分の子供だと思っているようだ。


「……正直ちょっと思ってるけれど、でも私の問題ですし、ちゃんと向き合わないといけないと思ったんです」


「わかった、椿君がそこまで言うなら私は止めん。 だが、もしまた辛くなったら戻ってきたもいいんだぞ」


「そうよ、邦彦だって椿ちゃんがいなかったら寂しがるんだから」


相変わらず親父と母さんは椿には凄く優しい。

昔の俺でもこんなに優しくされたことがなかったってのに。

あんなに愛されやすいのに、何で未来ではあんな境遇に立たされてるんだか。


「……ありがとうございますっ! 私、頑張りますからっ!」


椿は笑顔でお礼を言うと、俺が苦戦していた飯をパッと取り上げておいしそうに平らげた。

おい、食えといっときながら結局自分で食うのか。

ま、まぁ助かったからいいけど。


……とりあえず、これで両親との繋がりを絶つワケか。

外部記憶なんちゃらってのから記憶を消去するんだろうけど

俺達の場合はまた別の方法があるんだろうな。


それから椿は親父や母さんと会話を楽しんでいた。

俺が言ったように、過去に悔いが残らないように。

今この瞬間を、楽しんでいる様子が脳裏に焼きつく。


途端に、やっぱり寂しさを覚えた。

最初は迷惑な奴としか思っていなかったのにな。

色々知っちまうと、見方自体が変わってくる。

思えば前、大佐が俺にこんなことを言ってた。




『彼女はこっちの時代では色々と辛い経験をしていてね、是非君が彼女を支えてやってほしいんだ』




それは俺の想像を超えていた事だ。

正直、俺はあいつを支えられるほどの器量は無い。

大佐は何故、あの時あんなことを言ったんだろうな。

あいつは笑って未来に帰れるなら、俺はそれでいいと思ってる。


未来でもあいつは独りじゃないさ、大佐だって未来の俺だってついてるし

これから色んな奴と出会うかもしれないだろ?

ああ、何回もこんな事思ってるのに

何でこんなに悩んでしまうんだろうな。


……やっぱり、ちょっとスッキリしねぇんだよな。

椿の本心が、聞きたい。

俺は楽しそうに会話をしている椿の姿を見て、そんなことを考えるようになっていた。












自宅へ帰ると、辺りはすっかり暗くなっていた。

ほぼ満腹状態で、動けなかった俺は自室で即座に横になる。

早く胃よ落ち着いてくれ、マジで苦しい。


椿も満足げに伸びをして、ゴロンっと俺と同じように横になった。

お互い会話を交わすことなく、ただ時間だけが流れていく。


「……明日終わったら、すぐ帰るのか?」


「ううん、明後日の朝に決まったよ。 えへへ、もうちょっとだけ一緒にいれるね」


「じゃあ皆で見送らないとな、どっちにしろ記憶消す必要があんだろ?」


「そうだね、お願い……ね」


力なく、椿はそう呟く。

さっきまであんなに元気だったのに、俺と話すときだけ何故か元気がなくなってないかこいつ。

気持ちはわからんでもないけど、そりゃないだろ。

お互い、笑っていたいだろ?


「おい、食うか?」


俺はチラりと、オレンジ色のパッケージのポテトチップスを見せ付ける。

椿は「あ」、と言葉を漏らした。


「全く、いきなりアホなことしてたよな俺達。 お前もよく混乱した俺に付き添ってくれたな」


「え、だ、だって面白そうだったし」


「それ以外にも勝手に飯を特大にしやがったり、チャリを全力で漕いでいた俺に信じられない身体能力で追いついて見せたり

謎のテレパシー能力で俺の精神破壊しかけたり……」


「ご、ごめんね……悪気はなかったんだけど」


「何で謝るんだよ、全部楽しい出来事だったさ。 振り返ったらさ、お前が来てから俺は毎日が楽しかったぜ?」


せめて、椿に笑っていてほしい。

お互い寂しい思いをしない為に

思い出を語るのも、悪くない。

俺は、少しだけ語ってやった。


「お前さ、時々寂しそうな顔してただろ。 あんなに楽しい生活送っといて、何を悲しむ必要があったんだ?

今だってそうさ、俺の親父や母さんと良い思い出が作れた、もっと笑っていようぜ」


「……うん、そうだね」


やはり、作り笑顔か。

俺はため息をつくと、少しだけ間をおいてこう言った。


「お前さ……帰りたい、んだよな?」


あの話を聞いた後、触れにくくて避けていたが

俺はついに、その言葉を口にした。

あいつがどう思っているか、少しでも知りたかった。

知ったからといって、何かが変わるワケでもないだろうけどな。


「……か、帰らなきゃって思ってる」


「いや、そうじゃなくてさ。 未来に帰りたいんだよなってことだよ」


「う、うん……お兄ちゃんも心配するし、未来の君のことも心配だしね」


「違う、そうじゃない」


中々あいつは、話してくれないな。

『自分』の意思とやらを。

やれやれ、何をしているんだろうな俺は――


「お前自身が、帰りたいと思ってるのか? ってことさ」


こんな事聞いて、どうすんだよ。

帰りたいに決まってんだろうが。


俺が同じ状況だったらどうする?

未来には義理でも心配する兄貴がいるんだ。

どんなに辛くても、自分が生きた時代だぞ。


……帰りたく、なるに決まってる。


「……ごめん、今日は寝るね。 明日は、楽しも?」


「……ああ、わかった」


椿は、答えなかった。

何でだよ、即答してくれよ。

勿論、帰りたいよ♪、とかでいいだろ。


黙るなよ、逃げるなよ。

聞かせてくれよ、その言葉を。

じゃないと俺、何かを期待しちまうだろうが……。


決してそんなことを口にはできず、俺は椿の背中を見届けていた。

あいつは寂しそうな顔をしながら、押入れへと入り込んで静かに戸を閉じた。


……クソッ、寝れる気分でもありゃしねぇ。

久々にゲームでもやって気分転換でもするか。


明日を少しでも楽しく過ごせるように

気持ちをしっかりと、切り替えておかないとな。


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