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未来宣告  作者: 海猫銀介
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第34話 誰かの為に尽くす奴


結局あの日、椿は帰ってこなかった。

まさかそのまま消えたんじゃないだろうな、と不安が過ぎったが

次の日の朝に、椿は元気良く病室に訪れてきた。

今まで何処いたんだろうな、こいつ。


「体の調子はどう?」


「ああ、今朝も看護婦から色々審査されたけど問題ないってさ」


「バッチリだね、これならすぐ退院できるんじゃない?」


「まぁな……っと、そうだ。 実はさ、俺が退院したら先輩達が何かお祝いしてくれるらしいんだ。

そんとき、お前も来いよ。 最後ぐらい、皆で騒ぎたいだろ?」


俺は忘れないうちに、椿にそう伝える。

なんというか、こうでもいっとかないとこいつ勝手に帰りそうな気がしたし。


「あ、うん……お、お兄ちゃんと後で相談してみるね。 あ、そうそう。

お兄ちゃんが邦彦に話があるんだって、だからこれもってきたよ」


椿はかばんの中をガサゴソとさせると、そこには見慣れたノートPCが。

おいおい、いいのか病院にこんなの持ち込んで。


「すぐつなげるのか?」


「う、うん。 でね、私は席外してくれって言われてるの。

だから今から学校行ってくるから、終わったら戻ってくるね」


「あ、ああ悪いな。 わざわざ届けてくれたのか」


そういや今日平日だったか。

あいつも制服着てたし。

……てかまだ学校には通っててたのな。

俺がいない間に変な事してなきゃいいけど。


椿が退室していったのを確認すると、俺はPCを開く。

前に一回使ったから操作はもう覚えた。

ふ、過去の人間でも未来の道具は使えるのさ。

ていうか今のとほっとんど変わってないだろ、これ。


『やあ、待ってたよ遊馬 邦彦』


「そっちは忙しいんじゃないのか? いいのかよ、暢気に話してて」


『今更君がそれを言うのかい? しょっちゅう多忙なときに連絡をよこしてくれたじゃないか』


「ん、そうだったのか。 わりぃな、大佐」


確かに大佐はかなりやつれてたからな。

対応に追われて大変だったんだろう。


『今日はね、実は用事があるのは私ではないんだよ』


「ん? じゃ、じゃあ誰だよ?」


『消去法で考えればわかると思うけどね、ほら』


大佐がモニターから姿を消すと、そこには『未来の俺』が映し出された。

俺はうおっと声をあげて驚いた。


『……お前には、悪いことをした。 すまん、許してもらえるとは思ってないが』


「ま、まさかお前が来るとは。 もう二度と顔は合わせないだろうって思ってたのによ」


モニターの中にいる『未来の俺』は、以前とは打って変わって驚くほど別人だった。

前までは狂気に満ちていた表情だったが、今は何処か落ち着きのある雰囲気だ。

恐怖のかけらも感じない。


『椿からは、全部聞いたか?』


「全部……いや、聞いてないことがあるな」


『やっぱりな、なら俺が話そう』


そうだ、椿が何か途中でわざとぼかした部分があったはずだ。

そのせいで俺はモヤモヤしてすっきりしない状態となっていたんだ。


『俺は俺が元いた世界の過去の時間軸へ戻り、手にした技術を使って椿を未来に返すことには成功した。

念のため、俺と椿のつながりと完全に経とうと過去の俺自身の記憶まで消しておいたんだ』


「……あれ、ってことは俺って忘れてたわけじゃないのか」


なるほど、未来の俺が記憶を消した……か。

椿じゃないとすればそれしか有り得ないな。

でも安心したぞ、俺自身がどうでもいい記憶として忘れたってことじゃなくて。


「でも俺、思い出せてるぞ。 何でだよ?」


『未来において人の記憶を完全に操作することはできないさ、何かをきっかけに思い出しちまうことだっていくらでもある』


「つまり俺が死に掛けた結果はっきりと思い出したってことか……で、それから俺はどうしたんだ?」


自分同士と話していると、何か変な感じだな。

俺はこいつとまともに話せるようになってから、初めてそんなことを感じ取った。


『そこで俺は自分の世界へ戻ろうとしたら、何と椿と同じ事象が起きちまっていた。

俺の技術なら戻ることは可能だったんだけど、俺はそこで『平行世界』の存在に気づいた。

過去とのリンクが途切れてしまったのはつまり、平行世界がその瞬間に発生して、

世界が新たな未来に向かっていることだったのさ』


「そういや椿もそんなことを言っていたな」


『で、実はお前がいるその世界もその平行世界における分岐ポイントが生成されつつある。

早くしないと、椿は二度と同じ未来へ帰ることができなくなる』


「……マジかよ」


きいてねぇぞ、そんな話。

何でそんな事態が近いのにあいつはまだ暢気にここに居座ってんだよ。

……なら、早く帰すべきじゃないか?


『で、ここからが重要だ。 俺は平行世界に興味を持って椿がいた世界をこの目で確認した。

……そして、俺は知ってしまったんだ』


「何を、だよ」


『椿は未来では孤独だったんだ、両親は既に亡くなっていて、親戚も誰もいない。

唯一存在するのが、義理の兄であるフェイズ大佐だけだった』


「……なんだって?」


あいつ何だよ、孤児だったのか?

嘘だろ、あんなに明るいのに。


……でも、思い当たる節はいくらでもあった。

家族を羨ましそうにしたり、友達と騒ぐの楽しいっていったり。

あいつ学校そのものを、本当純粋に楽しんでた。


『椿はな、幼い頃からクロックスでのエージェントになる為の訓練を行っていた。

過去の時代へ飛んだのもその訓練の一つで、偶然イレギュラーな事態が発生してしまったということだったんだ。

だけど、クロックスの連中は椿にひたすら訓練をつませ続けていた、自分達の優秀なコマにするために』


「……なんでそんなことするんだよ、クロックスの奴らは?」


『彼女の両親はね、とんでもなく重い罪を起こしたのさ』


隣から割り込んで入ってきたのは例の大佐だった。

両親が重い罪……?

一体何をしたってんだよ。


『通常、クロックスは時空管理を行う際の規則としてね、自分達より未来の世界へ行くことを禁じていたのさ。

その理由は、未来の遊馬 邦彦ならよくわかると思うけれどね』


「……まさか、いったのか?」


大佐は無言で頷いた。

どうしてだよ、禁止事項なんだろ?

今で言えば法律に反することなんだろうけど。

そこまでしていかなければならない理由があったのか?


『更なる未来の技術は異端な世界の発展を招き、結果的にバランスが崩壊する恐れがあるんだってよ。

確かに俺が未来技術をばらまいた世界では、とんでもなくでかい戦争が起きようとしていた。

行き過ぎた技術の進歩を試してみたくなったんだろう、まさに世界が崩壊するほどの新兵器のぶつけ合いが始まろうとしていた。

そして俺も……そんな新兵器開発を行っていた人員の一人だったんだ』


「お前、そんなことの為に椿を……っ!?」


バカ野郎……バカ野郎がっ!

何してんだよ……なんで、そんなことしちまってんだよ。

もうその時点で、間違えてるじゃねぇかお前は。


あいつが目の前にいたら絶対に殴りかかっていたな。

何で誰も、正してくれなかったんだ?


『遊馬 邦彦、気持ちはわかるが今は抑えてほしい』


「で、でもよ……」


まさか戦争の手伝いするなんて、さ。

そんな自分がゆるせねぇよ、俺。


『……彼女の両親が更なる未来へいったのは全て彼女を救うためだ。

実は彼女は不治の病にかかってしまっていてね、その病気を治療するために未来へ向かったのさ』


「不治の病だって……?」


そんなこと、初めて聞いたぞ。

何でだ、何であいつ今まで黙ってた?


『結果的に、彼女の病気は完治したが……当時では未来へ向かうことは最も重い罪だったのさ。

だから彼女の両親は容赦なく死刑宣告を告げられた。 両親はクロックス内からでた時空犯罪者として取り上げられた。

確かに罪を犯したのかも知れんが、死刑のみならず時空犯罪者扱いするなんてあまりにも酷な話さ。

……彼女はもう、その時点で普通の生活はできなくなってしまっていたのだよ』


「……そう、だったのか」


そうか、だから家族のことを話すとあんなに辛い顔をしたのか。

両親の命を犠牲に手にした一つの命……か。

……あいつ、こんなに辛い思いを。


『そして彼女に残された道はクロックスのエージェントとして生きること。

時空管理を行うにあたり、様々な汚れ仕事を引き受けて生きるしかなかった』


『だから俺は、そんな未来認めたくなかった。 椿の為に、世界をやり直して……いや、作り直してやろうとした』


「……だけど、失敗したんだろ」


未来の俺がとった行動。

自分に技術力があるというなら、俺も同じ事をもしかするとしていたかもしれない。

クロックスの奴らがいるせいで、こんな事態が起きちまったんだって考えただろうな。

……まぁ、行き過ぎた考えではあるけど。


『俺の計画が失敗に終わったとき……俺は既にそこからおかしくなっていたんだろうな。

今度は俺自身を殺しちまおうと考えた、そうすればまた新たな世界が生まれて、希望のある未来が見出せるんじゃないかってな。

でも、それはもはや正常な考えではなかった、当時の目的をまるで無視した現実逃避だと気づかされたんだ、お前に。

……そう、この中途半端な時代へ飛んだ理由も『子供の俺』を殺せなかったから。

あの時椿を殺そうとしたのは、もはや正常な思考ができなかったから、何もかもを見失っていたからだ』


やめろよ……もう、十分だ。

俺の痛みは伝わった。

椿の、苦しみだって。


何も、何も知らなかったのか俺は。

あいつがあんなに苦しい思いをしていたことを。


『……彼女はね、自分がそんな状態でありながらも……君を救おうとしていた。

自分を救ってくれた優しいはずの『遊馬 邦彦』を求めて、未来宣告を使ってまで行動を起こしたのさ』


「……あいつ」


たかが公園でのあの程度のやり取りで、そこまで?

確かに結果的に正しい未来に返せたのも俺のおかげではあるけど。

……無茶しすぎだろ、椿。


『……俺が伝えたいことは、あいつにとって未来へ帰ることが必ずしも『幸せ』ってことじゃない。

それだけは、どうか覚えていてくれよ』


「どうだかな、今は十分幸せになれるんじゃないか?」


『どういうことだ?』


「未来には大佐だって……お前だっている、もうあいつは独りじゃないさ。

エージェントって何をするかしらねーけどさ、あいつならクロックスの奴らと楽しくやっていけるさ。

ありがとうな、色々教えてくれて。 ……椿をさ、頼むよ」


いくら何を聞かされようと、俺の意思は変わらない。

椿は未来へ返すべき、だ。


『……最後の一言、だ。 もっと、素直になっとけよ』


素直になれ?

何のことだよ。

未来の俺はそれを言い残すと、静かに席を立った。


そして後からゆっくりと、大佐が椅子に腰をかける。

深刻そうな顔で、俺の様子を伺っていた。


『新たな平行世界が、生まれようとしている。 それはつまり、未来の君の希望が結果的に叶うかもしれないってことさ。

君はどうだい、新たな『未来』を、信じてみないか?』


「……何を言っているのかわかんねーけどさ、とりあえず覚えておくよ」


俺は大佐にそう告げると、PCを開いたままベッドに横になった。

色々と衝撃的な事を聞かされて、また頭が混乱した。


ああ、またか。

また、色々考えないとな。

未来の俺は、何のためにこの事を伝えたんだろうな。

大佐も……多分何かを伝えようとしていた。


『……近いうちに私も椿を迎えに過去へ向かう。 その日にまた逢おう、『遊馬 邦彦』』


大佐がそう告げると、プツンッと通信が切れた音がした。

……いよいよ、あの大佐と直接逢うときが来るのか。

映像通りの人なんだろうか。


ま、いいや……今は疲れちまった。

ここんとこ寝てばかりだが、病人らしく寝とくかね。

俺はそのまま目を閉じた。


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