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未来宣告  作者: 海猫銀介
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第28話 もう、迷ってられっか


俺達は家の外へ出ると早速通信機とやらの電源を入れた。

何の変哲もないトランシーバーには見える。

だけど、間違いなくこれは未来から送られた『通信機』だ。


『未来の俺』を探すにはまずは椿を探すほうが手っ取り早いだろう。

あいつならきっと、場所を押さえてるはずだし。

……逆に『未来の俺』に返り討ちにされるって事はないだろうな。


『やあ、おまたせ』


通信機の電源を入れた途端、聞きなれた例の大佐の声が聞こえた。


「大佐か? 椿は一体何処にいる?」


俺は大佐であることを確認すると、間髪入れずにそう尋ねた。

今までの椿の行動からして、あいつがそう簡単にやられることはないだろう。

だけど、万が一のこともあるしな、そりゃ心配にもなるだろ。


『どうやらまだ『君』とも接触できていないらしく、君の仲間も見つけることができないでいるらしいんだ。

彼女ね、とても焦っていたよ。 君達のことは伏せておいた、彼女を心配させることは酷だろうしね』


「こっちから『未来の俺』を追うことはできないのか? 前、椿は俺を助けてくれただろ?

少なくとも位置が把握できる術があるってことだろ?」


『……確かに把握はできるんだけどね、どういうワケか『君』の位置情報が約数百パターンレーダー上に出現しているんだ。

どれも独自に動いていて、とてもじゃないけど特定できそうにないのさ』


「な、なんだそりゃ?」


レーダーに位置情報? まるでロボットの世界だな、畜生。

やはり未来人相手は一筋縄に行かないってことか。


「野月さんの位置は?」


『残念ながら……私から教えられることは椿の位置情報だけだよ』


京はもしやと思って尋ねてみたが、大佐からの問いに落胆していた。

流石に未来はそこまで万能ではないか。

……とりあえず、椿と合流することが先決か。


でも逢ってどうするんだ? 逆に足を引っ張るんじゃねぇのか?

だったらアイツの位置を特定するほうがいいんじゃないか?

特に野月は早く見つけ出してやらねぇと……あいつあんな性格だから未来の俺を挑発しかねん。

あんな小さいヤツに未来の俺が手をかけるって事は考えにくいが、何処かネジぶっ飛んでるからな。


「邦彦、悩んだって仕方ないさ。 まずは椿ちゃんに逢ってみよう」


「……ああ、そうだな」


京は俺が考え込んでいることを察したのかそう言ってくれた。

確かに言う通りだ、今は確実に位置がわかってる椿と合流したほうが良いに決まってる。


「椿は何処にいるんだ?」


『今から位置情報を同期させるから待ってくれ、通信機の小型モニターに注目してくれ』


モニターなんてあったか?

俺は手にしていた通信機を確認すると、確かに何も移されていない液晶モニターが搭載されていた。


数秒後、突如画面から光が発せられると電子文字で描かれた地図が画面に出力される。

更に赤い点が一つ点滅していることを確認できた。

ピッピッピッと電子音とともに、赤い点は徐々に位置をずれしていっていることから、ここが椿の位置なんだろうな。


「ここは……そんなに遠くないみたいだね」


「でもあいつ足速いからな、自転車で追いかけてもきりがないぞ」


「だったら先回りしよう、ここを通れば回り込むことが出来るはずだよ」


「あの跳躍が気がかりだけど、まぁそうするしかないな」


全く、とんでもねぇ身体能力を持った未来人を相手にするのは大変だな。

俺はため息をついたと同時に、ひとまず椿が生きていることを確認できてホッとしていた。


「じゃあ、いこうぜ」


俺と京は自転車に乗って、地図を頼りに足を進めようとした。

すると俺のズボンのポケットから、何やらメロディーが流れ始める。

俺の携帯からの着信だ。

もしかして先輩か先生がかけてきたんだろうか。


「悪い京、ちょっと待ってくれ」


今は一刻でも椿と早く合流するべきかも知れないが、一応俺は電話を確認することを優先した。

携帯を取り出すと、画面には見慣れない番号が表示されていた。


先生が電話でもかけてきたか?

やっべーな、もしかするとかなり怒られるかもしれん。

無視はできないな、とりあえず出よう。


『よう、俺』


「は――」


俺は言葉を失った。

電話の先の声は、想像していた人物とまるで違う。

いや、先生の悪戯……ってこんな事態にそんな事する人じゃないだろう。


『悪い悪い、うっかり俺の居場所教え忘れてたな。

それじゃお前が『命を差し出し』にこれないからわざわざ連絡を入れてやったぜ』


「……野月は、無事なんだろうな」


電話の先は間違いなく、未来の俺だった。

その時、近くで待っていた京も事態を察した。

俺と京は目を合わせると、俺は頷いて見せた。

『俺から』の電話である事を、伝えるために。


『どうだろうね、お前が自分の命が惜しいってんなら……殺しちまうかもな』


「や、やめろ……言うとおりにするから絶対に手を出さないでくれ」


『素直でいい子だな、流石は『俺』ってとこだな。 しっかし奇妙なもんだな、過去の自分と会話するってのは』


「い、今から向かう、場所を教えろ」


やはり、未来の俺は人道を外れている。

ただの犯罪者に成り下がっているじゃないか。

クソッ……どうしてこうなっちまったんだよ、俺。


『じゃ、お前が今通ってる学校来いよ。 体育倉庫に野月閉じ込めてるからさ』


「学校だな、わかった」


今は大人しく従うべきか。

俺からはまた変な汗がじわじわと噴出し始めていた。

何回目だよ、クソ。


『ところで、全ては知ったか? ま、その反応だと知った上で従ってんだろうな』


「……」


俺は、何も答えなかった。

確かにほとんどのことは、大佐からも聞いたが

まだ、全てを知ったわけじゃない。

お前から、まだ何も聞き出してないからな。


『絶望、しただろ。 未来に希望を抱いたことがあるか? 将来の自分が、どうなっているか想像したことあるよな?

お前が想像した未来は、こんな『俺』だったかな? 違うだろ、違うんだろう? そうさ、俺がそうだったからなっ!

ハッハッハッハッハッハァッ!!』


電話越しから聞こえる凶器に満ちた笑い。

もはや、電話の相手が未来の自分とは思えないほどだ。

……俺はたまらず、電源を切った。


かなり動揺している。

呼吸も荒くなるし、多分目なんか血走ってんだろ今の俺。

足もガクガク震えだすし、手に持っている携帯を今にも地面に落としてしまいそうだ。


「……大丈夫だ、邦彦。 未来の君は、何処か間違えてしまっただけなのさ。

だけど、君は違う。 君が間違っても、僕……いや、僕達が間違いを正すさ」


「……そうだな、悪い。 ありがとう」


京の言葉はとても、心強かった。

一人で思い悩んでた昨日と比べれば、やはり仲間がいるというのは心強い。

今の俺は、『間違えない』のなら……何故未来の俺は『間違えて』しまったんだろうな。


時間を巻き戻す計画・過去の俺の殺害・無関係なはずの野月誘拐。

全て、人の道を外れた許されるべきではない行動だ。

だが、幸い……まだ全て『未遂』で終わっている。

だとすれば、まだ完全に手を染めて、いないんだ。

だったら俺は――


「……京、大佐。 聞いてくれ」


俺は、改めて京と目を合わせ、そして通信機の向こう側でこの会話を聞いている大佐に向けて、こう言った。


「俺は、『俺』と向き合う。 未来の俺を、正してやる」










未来の俺は、俺の学校の体育倉庫に野月がいると伝えた。

少なくとも、野月を簡単に解放するとは思えない。


流石に俺だけで行動するのは命取りであったし、椿の協力が必要だ。

大佐にその旨を伝えたら、直接椿に伝えてくれると言ってくれた。

そんなに距離もないし、すぐに合流できるはずだろう。


俺と京はそのまま学校へと向かった。

夜の学校は雰囲気が違っていた。

光のない薄暗い校舎は不気味な雰囲気が漂っており、いかにも幽霊が出てきそうな雰囲気だ。


校門は閉まっていたが、俺達は強引に門をよじ登って校内へと簡単に侵入した。

この時間帯って警備員の人いるんだろうか。

見つかったら面倒な事になりかねんぞ。


「邦彦っ!?」


突如、俺の名を呼ぶ声が聞こえた。

言ったそばから誰だ、目立つ行動を取りやがって。

振り向いたらそこには、椿の姿があった。


息を切らして、膝に手をついていた。

あいつがあんなにバテてる姿、初めて見たぞ。

もしかしてずっと、町中探し回っていたのか?


「……椿、話は大佐から聞いたよな」


「……ダメだよ、邦彦。 このまま君が向かえば、また危ない目に逢っちゃうよ?」


心配してくれているのか。

悪い、椿。 俺はもう、決めたんだ。

このまま全てをうやむやにしたまま、終わらせるつもりはない。

俺だって、当事者だろ?


「いいの、もう無理しなくていいの。 元々、私達がこんな事態を許してしまったことに責任があるの。

だから……私がちゃんと、決着をつければいいだけだから――」


「俺が納得、出来るわけないだろ。 お前が過去に俺に助けられたって話も聞いた。

大佐と椿が、わざわざ俺に接触してまで、未来の俺を探ろうとしていたんだろ」


「でも、それで今の君に……ううん、大切な友達にまで……被害が広がっちゃったんだよ?

それに未来の君は、『君』を本気で殺そうと思ってる……もう、君とは別人なんだよ?」


「椿……頼む、力を貸してくれ」


深く語らずに、椿と目を合わせて、力強くそう言った。

椿は俯いたまま、困惑した表情を見せたまま何も語らない。

確かに椿の考えは正しいかもしれないけど、それって根本的な解決にならないかもしれないだろ。

物事には原因の追究ってのが必要だと思ってるさ。


「椿ちゃん、邦彦の友人として僕も彼に力を貸してほしいって思ってる。

そうじゃないと椿ちゃん達がやってきたことが全て無駄になってしまうし、

邦彦自身も結局嫌な思いをするだけで終わるだろう?」


「邦彦……」


京の言葉を耳にして、椿は俺と目を合わせる。

俺の身を案じてのことなんだろうな、ここまで考えてくれると少し照れくさい。

だけど、もう大丈夫だ。


そんな顔しないで、いつもみたいに笑っていてくれ。

俺ももう、迷わないからさ。


「……邦彦、ごめんね。 私、さっきはもう少しだけ頑張ってみるって言ったのに。

邦彦の友達が誘拐されたってわかった時……凄く怖くなったの。

それに……ちょっとだけ、未来の君を憎いと思っちゃったんだ」


「ああ、俺も俺を恨んださ。 何でこんな事しやがるんだって、殺してやりたいってちょっと思ったさ。

そんなの人間として当たり前だ、例え自分自身であっても許せることじゃねぇよ」


「……わかった、私ももう一度だけ、頑張ってみるっ!」


心強い返事が返ってきた。

俺はその声を聞くと、思わず胸をなでおろした。

いつもの椿の調子に、戻ってくれたような気がしてな。


『我々は君達を全力でサポートしよう。 この件に関しては指揮権は私にあるし、上層部も手を出さないだろう。

……遊馬 邦彦、君の思うように動いてみたまえ。 相手は未来の君だ、もしかしたら『君』の想いが届くかもしれない』


「ああ、大佐。 俺、やってみるよ。」


さあ、これでいよいよ未来の俺との対面することが確定した。

後悔はしていない、だが正直まだ怖い。

殺される恐怖が消え去ったわけでもないし、全てが上手くいくとも限らない。


だが、やるしかないだろ。

京のヤツも乗り気だし、先生や先輩だって俺を支えてくれた。

……さあ、ケリをつけようぜ未来の俺。


俺は京と共に、体育倉庫へと足を運んだ。



拍手コメント頂きました。ありがとうございます!

物凄くお褒めの言葉を頂いてとても嬉しいです、力になります。

これからも期待に沿えるよう更新していきますのでよろしくお願いいたします。

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