第25話 芸人の気持ちがわかるな
俺は生死の境目を彷徨っていた。
あの後は腹痛だけではなく、あのシチューから引き起こされた副作用の数々で3時間ぐらいはのた打ち回っていただろう。
あの担任は暢気に
『機関の奴らに毒を盛られたというのか……私がいながらなんてことだ……』
とか騒いでやがるし、椿なんて俺のこと指さして笑ってたぞ。
畜生お前ら薄情者だっ!
しかし、先輩の手料理で死ねるなら本望……なわけないだろ。
とりあえず、野月の奴が上手くシチューは諦めさせて代わりに料理を用意したようだ。
あいつ料理できるんなら、この際食えるものなら誰が作ってもいい。
「さあ、みんなー乾杯しましょうねー」
先輩は笑顔でグラスを手に持った。
このグラス何が入ってんだろうな、まさか酒か?
まぁあの担任もいるしそれはないだろう。
「じゃあ、かんぱーい♪」
……とまぁ、特に前置きもなく、かんぱーいと告げられた。
と、いうわけで何とか親睦会は無事開催された。
俺だけ何故かとんでもないアクシデントに巻き込まれているが、まぁいい。
「はっはっはっ、遊馬よ。 よく無事だったな、まさか機関の奴らに狙われるとはおもわんかったぞ」
「あー、いやまぁ……」
早速担任に捕まってしまった。
この担任もう顔赤いぞ、大丈夫か?
というか酒飲んでるのか、畜生俺も飲んでみたい。
「今日はお前が主役だ、バッチリと芸を披露するんだぞっ!」
「げ、芸? 何のことです?」
「フワッハッハッハァッ! 貴様の隠された能力なぞ既にお見通しなのだよ、この私の千里眼があれば地球の裏側さえも観測すること我できるっ!
即ち、それは貴様がこの私に隠し事を出来ないということを指すのだよ、遊馬 邦彦ぉっ!!」
何のことだかさっぱりわからん。
というか酔っ払ってる癖にいつもと何も変わらん。
まさか毎日実は酔っ払っているとか?
いわゆる常時覚醒状態とでも言うのか?
相手にするだけ無駄だろう、というわけで無視だ。
「やあ、邦彦。 どうだい、先輩の手料理の感想は?」
「ああ、危うく天国へ召されそうなぐらい素敵な味だったぜ」
「それはよかった、きっと神野さんも喜んでくれるさ」
「さり気に鎖骨に手を伸ばすな」
隣では担任が永遠とよくわからない話をしているが、全部聞き流している。
酔っ払いの戯言だ、明日になれば全て忘れてるさ。
ということで、俺は仕方なく京と話している。
本当は先輩と話していたいが、何やら椿と凄く盛り上がっていて入りにくかった。
あのワニも一緒になってるのが許せん。
「ところで君覚えてるかい? この後、モノマネを披露することをさ」
「……そういやすっかり忘れてたぞ。 マジでやんの?」
「ふふ、きっと上手くいけば先輩に喜んでもらえるんじゃないか?」
「逆にしらけなきゃいいけどな」
「君なら何とかできるだろ?」
随分とプレッシャーをかけにくるな、こいつは。
そんなに俺が先輩の前で玉砕する姿を想像するのが楽しいかっ!
畜生、こうなったら俺はこいつの変態モードのモノマネでもして大恥かかせてやるぜ。
覚悟しろよ、京……。
『ってことで、さあエロヒコ。 お前の番だぞ』
「は?」
俺が暢気に京と話していたら、突然クソワニから指名された。
いやいや、まてよ。
もう始めるの?
まだゆっくりしてようぜ?
クソワニ……もとい野月は何やらニヤニヤとしている。
結局こいつから腹話術は教わっていないわけだが。
まぁいい、こいつのモノマネなんて一番楽で笑いが取れるからな。
お前も大恥かかせてやるぜ、覚悟しろよ。
そこで俺は気づいた。
何だ、既に俺のモノマネの準備は万端じゃないか。
あの担任はどーせ中2病っぽいことしてりゃとりあえずモノマネになるしな。
「遊馬くん、もしかして今朝いってた芸披露かしら?」
「あ、ずっるーい。 一人でちゃっかり練習してたの?」
俺がいつそんなこと仰いましたか先輩?
って言おうと思ったが、言われてみれば確かにそんなことを口走っていたような。
……まぁいい、下手に言い訳をすればそれこそ先輩から俺への『好感度』が下がっちまうしな。
「わかりました、とっておきの芸を見せましょう」
ニヤリ、と意味深な笑みを浮かべながら俺はそう言った。
勿論この笑みは、先輩ではなく暢気で俺のモノマネを拝見しようとしているバカ3人組のことだ。
俺を負けさせたことを後悔させてやるぜっ!
俺は『クックックッ』と悪役じみた笑いを浮かべながら、何故か用意されていたステージっぽいところに立つ。
まるで漫才でも始めるかのような空気だな、似たようなもんだが。
椿からの黄色い声援が聞こえるが、あんま嬉しくない。
先輩は何も言わずに、にっこりと俺に微笑んでくれていた。
俺も答えるかのように笑顔を返した。
『鼻の下伸びてるぞ、はやくしろーエロヒコー』
「期待してるよ、邦彦」
「うむ、安心しろ。 これ以上機関からの妨害工作は私が防いで見せるぞ」
ふ、今のうちに吠えているがいい。
後悔させてやるからな。
んじゃ、さっさと初めてやるか。
「えー実は私身内のモノマネをさせていただきまーす。 はい、ここで拍手ー」
俺は棒読み気味で軽く挨拶をした。
パチパチパチ
まばらな音の拍手が返ってきた。
まぁ数人程度ならそんな盛大な拍手は起きん。
「1番、担任の真似いきます」
「いいぞー遊馬っ!! 私も一緒に盛り上げてやるぞーっ!!」
これまら棒読み気味で呟くと無駄にあの担任が盛り上がっていた。
あの担任なら何をやってもダメージがない気がするぞ。
……ま、いいや。
「さて、私はこれから担任のモノマネを始めようと思うが……グハッ!?」
ガタンッ
俺は大袈裟に膝を地につける。
わざと苦しみながら自分の右腕を抑えて、狂ったかのように転がってやった。
「クソッ……こんなときに―― 静まれ、俺の右腕……っ!!」
「ど、どうした遊馬っ! しっかりするんだ――」
「近づくな……っ今の俺では力を抑え切れんっ! 奴らめ……まさか強引に俺の腕の封印を解こうとするとはな――」
「そうはさせん……お前は私の生徒だ、このまま黙って奴らの道具にさせるわけにはいかないのだよ」
……何かおかしいぞ。
俺はモノマネのつもりでとりあえず、あの担任がやりそうなことをやってみただけだった。
だが、何故か俺の舞台にあの担任が上がりこんできやがった。
それも凄くうれしそうな顔で。
まて、これはモノマネじゃない。
ただの『演技』じゃねぇかあああっ!!!
しかもアドリブのぉぉぉっ!?
こ、これ以上話を拡大させない為にも強引に打ち切ってやろう。
「……ふ、お前にはいつも世話になるよ。 おかげで右腕が収まってくれたようだ」
「いや、まだだ。 機関の奴らがここでお前を諦めるとは思わん」
お前が諦めろコラ。
まだ続けんのか、もう十分だろ?
「思い出せ、50年前に村が燃やされた時お前はなんと言った? 必ず、この右手で悪の根源を断ち切ってやると、私と誓ったではないかっ!?
だからこそ、だからこそだっ! 機関の奴らにその右腕を――」
これは非常にまずいぞ。
俺はちらりと先輩と目を合わせた。
先輩は苦笑いをしている。
やはりあまりうけていない。
これ以上続けるのは危険だ。
付き合ってられん。
次やるか。
「あー次、京の真似をします。 ちょっと京こい」
「ん、僕が必要なのかい?」
「ああ、お前が俺の代わりをしてくれ」
「OK、今いくよ」
隣で騒いでいる担任を放置して、俺は京を舞台へと上がらせた。
うーこれはあまりやりたくないが、仕方ない、
お前に大恥をかかせるためだ、我慢しろよ。
「やあ、京ははっいやぁすばらしい鎖骨をしてるじゃないかー今日も触らせておくれよー」
「ほう、そうだね。 それじゃ僕も君の鎖骨を舐めてもいいかい?」
「させるかぁぁっ!!!」
俺は反射的に京にアッパーを綺麗に打ち込んだ。
絵になるぐらい素晴らしいぶっ飛び方をした京は何故か幸せそうに微笑みながら、地面へとたたきつけられていった。
「ナ、ナイスアッパーだったよ君……」
ガクンッと京は笑みを浮かべながら、気を失った。
……危うく京に好き放題させるとこだった。
つい危険を察知して拳を出しちまったが、まぁ許せ。
防衛本能ってヤツだ。
先輩はこれまた苦笑い。
椿はすっげー爆笑してるけど。
てか、モノマネってより漫才になってるじゃねぇかこれ。
どうすんだ、おい。
いかんな、罰ゲームといえどこのままだと先輩の俺に対する評価がつまらん男になってしまう。
ここは最後、可愛い笑いを取っておしまいにしてやるか。
「んじゃ最後、野月の真似しまーす」
ここはあえて『クソワニ』を名乗らず、野月の名をだした。
まぁ当然だ、俺はこれから野月の真似をするわけだし。
俺は右手にサルのぬいぐるみをはめ込んだ。
『お、ぶっつけ本番とはいい度胸じゃねぇか。 期待してるぜ』
勝手に言ってろ。
俺はニヤリと笑みを浮かべて、野月に視線でそう訴えた。
何故か強く睨み返されたが、あいつホント生意気な上にきっつい目しやがるのな。
さあ、深呼吸だ。
ある意味一番恥ずかしいモノマネだ、緊張もするさ。
俺はサルのぬいぐるみをはめたまま、テクテクと小刻みに歩き出した。
先輩や椿は勿論のこと、野月さえも頭に『?』を浮かべるほど不思議そうな顔をしていた。
まぁ、みとけって。 特に野月よ。
それ、今だっ!!
俺は大袈裟にばっと体を倒した。
そう、何もないところで、突然躓いて見せたんだ。
勿論、ワザとだ。
意図的にサルのぬいぐるみを上手く宙へと飛ばす。
よし、ここまでは完璧だ。
後は一瞬だけ宙に浮いた俺は
そのまま受身も取らずに顔面から――落下っ!!
ビターンッ!
派手な音を立てて、俺は倒れた。
一瞬だけ、会場に静けさが生まれる。。
一方俺は全体重の衝撃をほとんど顔面に受けたことにより、凄まじい痛みが襲い掛かった。
いやいや痛いってもんじゃねぇ、チクチクどころかズキズキすら超えてる。
俺は涙目になりながらも、何とか痛みにこらえて立ち上がって会場をちらりと伺う。
先輩と椿はポカーンと口を開けていた。
だが、野月は顔を真っ赤にさせていた。
ふう、これで俺の目的は果たした……な。
正直顔面の痛さは相当酷いが、それでも俺は達成感に浸っていた。
すると、そこですかさず野月がズカズカと俺に向かって歩き出した。
そしてグイッと腕を引っ張ると、俺をステージから降ろし客間の外まで連れ出されていく。
本日2回目だぞ、このパターン。
だが1回目と違って顔を真っ赤にさせて野月は怒っていた。
クソワニのぬいぐるみを外し、ふうっと一呼吸置く。
「キ、キミ。 一体どういうつもりだね、何だあれは?」
「お前の真似だろ、そっくりだっただろ? あそこまで再現するの苦労してんだぜぇ、ああ今も顔がいてえ……」
「そ、そうじゃないだろう。 どうして腹話術をしないんだ、せっかくキミ用の人形も渡したのに!?」
野月が荒ぶっている姿は新鮮だな。
よほど恥ずかしかったのか?
「だって練習してないし、まぁいいじゃないか。 どーせ先輩と椿は俺が何をしたかわかってねーさ」
「こ、このバカモノッ!!」
バチンッ、と俺はただでさえヒリヒリして痛む顔面にビンタを一発貰った。
ああ、なんだこのビンタ。
小学生のころにスカートめくりして怒られたときのビンタとそっくりだ。
今の俺は別にそんなことしてるわけじゃないが。
ま、とにかく満足したね。
その後俺は野月に連れられ会場へ戻っていった。
この後は野月が俺からサルの人形を奪い取って腹話術の漫才を披露して見せたり
椿がどうみても未来の技術使ってるとしか思えないとんでもマジックを披露したりと
親睦会はいい感じに盛り上がっていった。
トラブルは多かったが、俺は心の底から親睦会を楽しめていると思う。
こうやって集まるのって本当楽しいな。
もし俺が昨日、あのまま立ち直れなかったとしても
ここにいれば自然と心が洗われたかもしれないな。
なんだかんだであいつら俺のことを心配してくれたし、
これだけ俺のことを気遣ってくれる奴がいるってのは幸せな事だと思っているさ。
そんなことをしみじみ感じていると、椿がこっそりと客間を抜けていく姿を捕らえる。
その方向はトイレではなく、確かバルコニーじゃなかったか?
夜風にでも当たりにいったんだろうか。
俺もちょっと疲れたし、あいつも昨日大変だったしな。
そこで俺はふと、昨日の学校での出来事を思い返した。
放課後になったら、あいつ突然姿を消してたよな。
あの時も、今みたいにさり気無くどっかいってたんだろうなって俺は思った。
……ちょっと行ってみるか。
俺はバルコニーへと足を運んでいった。
外に出てみると、そこは住宅街とは思えない光景が広がっていた。
そう、この真っ白な巨大な豪邸の中庭が広がっていた。
綺麗な噴水はライトアップされていて、名前は知らないけど綺麗な色をしている花が周りに咲いていた。
他はこれでもかというぐらい緑に埋め尽くされていて、まるでここだけ本当別世界のように感じるほどだった。
そこで椿は何やら深刻そうな顔で中庭を見つめていた。
何だかんだで昨日の事を気にしてんだろうな。
「おい、椿。 どうしたんだよ、そんな顔して」
「あ……邦彦」
「先輩がせっかく俺達の為に親睦会開いてくれたんだぜ、ちゃんと楽しめよ」
「大丈夫だよ、すっごく楽しい。 邦彦もバカやってて面白かったし」
「うっせ、好きでやったわけじゃねぇよ」
何故かぎこちない会話。
午前中時点では振り切っているもんだとずっと思ってたんだけどな。
せっかくこういう場にきてるんだし、こいつを元気付けてやるか。
俺もまだまだ、こいつに言いたいことはあるしな。
「昨日さ、俺が部活いくときお前の姿なかっただろ」
「……あ、うん」
「俺はどーせその辺フラフラしてんだろとか適当な事思っててさ。
俺を監視するとかいっといて随分自由なヤツだなーとか暢気な事思ってたさ。
でも、俺が危ないときに、お前がちゃんときてくれたんだよな」
「え、そ、それが私の仕事だし……その」
「……後から気づいたんだけどさ、お前あのとき『未来の俺』を探してたんだろ?
俺があいつと遭遇する前に、何とかしようと思って動いてくれてたんだよな?」
「う、うん……」
「悪いな、俺自分のことばっかで、その、ちゃんと伝えてなかったよな」
「な、何を?」
何か気恥ずかしい。
俺は別にたいした事を告げようとはしていない。
椿も何故か戸惑ってるし。
まぁ俺の口からあんな言葉が出てくること時点でそりゃ戸惑うか。
「……ありがとうな、お前のおかげで俺は助かった」
俺は一呼吸置いて、椿にそう告げた。
椿は目を丸くさせて驚いていた。
そういや面と向かってこんな事言ったことなかったな。
いかん、今更ながら恥ずかしくなってきたぞ。
「……でもね、邦彦。 私が君を殺そうとしていることは、変わらないんだよ?
お兄ちゃんともね、いっぱいいっぱい相談した。
今の君はどうであれど……私はやっぱり『未来の君』を野放しにはできないの
だからね、私は邦彦に感謝されるようなことなんて、してないの」
顔を俯かせながら、椿は俺にそう告げる。
確かにそうかもしれないけど、俺が救われたのは確実だ。
未来だとか過去だとか関係ないだろ、もはや未来の俺は別人と思ってもいい。
「それも俺のことを考えた上での結論なんだろ。 未来の俺がどうなろうが今は置いといてくれ。
でもさ、俺は……あいつと向き合わなければならないと思ってる」
「向き合う?」
俺は未来の俺に何があったか、知る必要がある気がしていた。
だからあの時、俺は全てを知ろうと椿を引き止めて大佐をとっ捕まえて聞けることを聞き出した。
単なる好奇心じゃない、俺は『何か』しなければならない気がしたんだ。
「最初は椿のことをとんでもないヤツだと思っていたし、はっきり言ってすげー迷惑なヤツだと思ってたんだ。
未来からトラブル運んできて好き放題やってたしな。 でも、それが本当に全部俺が関わってるってわかった途端
俺はその間に、もっとお前の目的とかに興味を持つべきだったんだろうなとか、ふと考えるんだよ」
「でも、大佐も私も絶対教えなかった。 邦彦の行動は別におかしくもなんともなかったの。
だから、何も知らずに……全て終わらせられたらいいな、って思ってたの」
「結果的にはそうだったかもしれんけどさ、まぁあの時あーすりゃよかったなーって思うこと、椿だってあるだろ?」
「……あははっ、今日の邦彦変だよ。 どうしちゃったの?」
「……ま、色々思うことがあるだけだ」
んー何だか無性に今まで思ってたことを話したい衝動に駆られていた。
もしかして初めてか?
椿とこうやって俺が思っていたことをぶちまけてみたの。
「あのね、邦彦」
「ん?」
「私ね、もうちょっとだけ頑張ってみる。 君が協力してくれるんなら、ちょっと心強いから」
その頑張ってみるの意図は、何か。
未来の俺を殺さずに解決するってことだろうか。
気がつくと椿からは笑顔が戻っていた。
いつもの調子を取り戻したとみていいよな。
「んじゃ、早く戻って楽しもうぜ。 せっかくの親睦会だしさ」
「う、うん」
「た、大変よっ!?」
俺達がバルコニーから中へ戻ろうとすると、先輩と執事が何やら慌しくやってきた。
先輩の顔は青ざめていた、まるで悪い何かを見てしまったかのような。
隣の執事も深刻そうな表情でいた。
……何があったんだ?
その時、俺は嫌な予感がした。
「ど、どうしたんです先輩?」
「こ、これ……」
先輩の手から渡されたのは、どこかで見覚えのある緑色のキャラクター。
「これって……」
「……美羽ちゃんのアルちゃんよ」
な、なんでクソワニがここに?
あいつがこれを手放すことって……まぁ最近俺の前では頻繁に外していたが
それでも、肩身はなさず大事に持っているはずなのに。
「これをお読みください」
執事は、俺に紙切れを渡した。
ノートの端を強引に千切ったもののようだ。
そこには雑な文字で、こう書かれていた。
『野月 美羽 預かった 交換条件は 遊馬 邦彦 の 命 』




