第24話 時には青春に命を懸けるさ
先輩と椿 (今すぐこいつは連れ帰りたいが)が料理を準備している間
俺達は無駄に広い客間で、何故かトランプで遊んでいた。
豪邸に招かれた文芸部員は全員揃ったようだな。
まぁ京だけは本当例外だけどな。
こいついっそのこと文芸部に入っちまえよ、どーせ暇なんだろ。
まぁそんなことはどうでもいい。
実は俺はかなりの窮地に立たされている。
何気なく始まったばば抜きを2,3週楽しんでいたところ
クソワニがとあることを言い出したのだ。
『普通にやるんじゃおもしろくねーぜ、このままだと相方が寝ちまうぞ。
ここは一つ罰ゲームでも賭けないか?』
俺は即否定したが、抵抗は空しく終わる。
京は隣で楽しそうじゃないかとか言いながら賛成しやがるし
担任も『俺に不可能はない』とか言いやがるので、結局多数決で負けた。
はいはい、そりゃそうだろうよ。
何せ俺は何故か3週とも負けてんだよ、ババ抜き。
そりゃお前ら俺が負ける姿を想像してニヤニヤするだろうよっ!
で、肝心な罰ゲームの内容は『モノマネ』らしい。
どうやらこの4人の中で負けた奴が3人のモノマネをしろって話らしい。
ふ、それぐらい楽勝だ。 とか安心してたら、条件付きだった。
そう、先輩が戻ってきて親睦会が開始したらメインイベントとしてやれって内容だったんだ。
どう考えても俺ピンポイントの内容にしてんだろ、あのクソワニ。
これは負けられん、あのワニ絶対負かすっ!
とか意気込んでいたら、結局俺は最後まで残ったわけだ。
で、目の前で俺のカードを選ぼうとしているのは『クソワニ』こと野月だ。
生意気なやつめ、ここで俺が見事な心理戦を用いて貴様を惑わしてくれるわっ!
「さあ、アル中ワニよ。 お前に果たして俺のジョーカーの位置がわかるかな?
何ならヒントをくれてやってもいいんだぞ?」
『ワニに迷いはない、こっちだ』
空気を読まず、クソワニは俺の手札からカードを1枚引き抜いていった。
おい、せっかく場を盛り上げようとしたのに何てことしてくれんだこのクソワニ。
『へっ、チョロイもんだぜ。 お前の負けだ、エロヒコ』
「ちくしょぉぉっ! 納得いかねぇっ!!」
呆気なく、負けてしまった。
なんだって俺が4連敗しなきゃならんのだぁっ!?
まさかカードに細工でもしてんじゃないだろうな。
しかし何の変哲もないカードに……あ。
俺はジョーカーの柄を見ると、何か違和感を覚える。
……おい、何か違うぞ、このカードだけ。
『オラ、さっさと練習しやがれ。 腹話術なら鍛えてやろうじゃねぇか
この俺様の指導を受けれるとはありがてぇと思うんだな』
「あのー、ワニさん? このカードなんですがねー」
俺は棒読みで一番怪しいワニに尋ねてみる。
『んだよ、そのカードがどうしたんだ?』
「何かちょーーっとだけ他のトランプと柄が違うみたいなんすよー、どういうことっすかねー?」
『知るか、んじゃまずは基本ってもんを教えてやるか』
しらばっくれやがったな。
クソッ、何か何を言っても無駄な気がしてきたぜ。
俺はワニ……ではなく、野月にグイッと腕を引かれながら客間の外へと強引に連れ出された。
「なんだって俺がモノマネなんきゃしなきゃならねーんだよ」
『ほら、受け取れ』
何故か俺はサルのぬいぐるみを手渡された。
ここで確信した、この用意の良さと段取りといいお前が犯人だな畜生っ!
「……お前の真似っつっても、別に腹話術である必要ないだろ?」
「……」
ふぅ、とため息をついて野月は自らワニの人形を外す。
その後すぐに鋭い目つきで俺のことをキッと睨みつけた。
な、なんだ?
俺別に何も悪いこと言ってないぞ?
「キミ、随分元気そうじゃないか」
「ん? 何だ、元気で悪いか?」
何だこいつ?
いきなりワニを外したと思ったら、そんなことを聞くためだったのか?
「やせ我慢のようにも見えんな、今日はキミと椿のための会だと聞いていたけど?」
「あー、まぁ色々あってな」
なんだ、そういうことか。
お前も俺のことを心配してたってことね。
こいつも口では生意気な事を言うけど、いい子じゃないか。
ちょっとだけ見直したぜ。
「桃子がキミを心配していた、私としてはどーせすぐ立ち直ると思っていたが
まさか本当に一晩で立ち直るだなんてね、せっかく私が用意したプランが台無しじゃないか」
「何だよプランって」
というか俺が元気になったことを逆に不満と思うのかこいつは
クソッ、前言撤回だ! やっぱりクソ生意気なワニの中身だった。
「キミに腹話術を伝授するプランさ」
「俺が昨日のテンションだったら断固拒否だぞ、今でも拒否りたいぐらいだ」
「……そこまでイヤか、私という壁が大きすぎるようだな」
「そういう問題じゃねぇよっ!」
こいつの行動がまるで読めんぞ。
要は単純に仲間がほしいだけなのか?
だー付き合ってられんっ!
「ま、どちらにせよ罰ゲームだからな、私のモノマネといえば腹話術しかありえないだろう。
ということでみっちり鍛えこんでやる、ありがたく思うんだな」
「結局そうなるのかよ」
俺はしぶしぶとサルのぬいぐるみを手にはめ込んだ。
すると、鼻に何かツンッと刺激が走った。
何だ……客間からとてつもない異臭が放たれていないか?
コゲの臭いというか納豆……というより何かが腐ったかのような臭いというか。
「……何の臭いだ」
『おい、こりゃ尋常じゃねぇ臭いだ、ちょっと来い』
いつのまにかワニをはめた野月は、俺の腕をまたまた強引に引っ張った。
京と担任も異臭に気づき、辺りをキョロキョロと伺っていた。
……ま、まさか『未来の俺』が何か仕掛けてきたのか?
ど、どうすんだ……毒ガスじゃねぇだろうな。
やばい、体に悪そうな臭いだし否定できねぇぞ。
俺は額に汗をたらしながら、臭いが一番強く放たれている箇所へと足を運ぶ。
……そこは先輩と椿が入り込んでいった部屋だ。
まさか椿が狙われたかっ!?
「お、おい椿っ!?」
胸騒ぎがした俺は、ドアをぶち破って無我夢中に走り出した。
部屋にはモクモクと煙が放たれていていた。
とてもじゃないが目も開けてられず、おまけに凄まじい異臭が俺の嗅覚に襲い掛かる。
い、息ができん……せ、先輩と椿は無事なのか?
と、というかこれなん……だ?
クソッ、前がみえねぇっ!
俺は手探りで前へ進んでいくと、奥のほうから微かに人の声が聞こえた。
先輩と椿か? 待ってろ、今向かうぞ。
声を頼りに俺は進んでいくと、どういうわけか段々と煙が晴れていった。
な、なんだ?
今度は何が起きたんだ?
俺が混乱していると、ようやく部屋の全貌が明らかとなった。
そこにはいくつかの流し台と調理器具の数々。
巨大な冷蔵庫がおいてあるところから、ここが調理場であることが判明した。
一斉に換気扇が稼動し始めていて、どうやらそれのおかげで煙がはれたようだ。
そして先輩と椿がガス台の前に立って二人で何やら話をしている。
目の前には巨大な鍋にドロのような色をしたスープか何かがマグマのようにボコボコと沸騰していた。
な、何だあれは? あんな料理見たことないぞ……?
「おかしいわね、こんな臭くないはずなんだけど……」
「大丈夫だよ、見た目はあれだけどきっとおいしいシチューになってるよ」
「そ、そうよね。 ありがとう椿ちゃん」
相変わらず無邪気な笑顔で語る椿と、天使のような微笑を見せる先輩の姿があった。
俺は無事な二人の姿を見てホッとするが、二人の会話の単語が引っかかった。
シ、シチューだって?
もしかして目の前にある気味が悪いスープを指しているのか?
明らかに変色してるじゃないか、あれは。
そ、それにこの異臭……まさかあれから放たれていたというのか?
グイグイッ
突然、俺の腕が引っ張られた。
こんなことするのは、やはり野月か。
何故かまたワニを外している。
「……キミ、あれを食べきる自信は?」
「あ? あ、あれ食うの? 俺が?」
「キミしかいないだろう、京から聞いたがフードファイターなのだろう?」
「い、いや……で、でも先輩の料理は……」
「……無理はしなくていい、私に任せてくれ。 キミは二人をこの場から放すんだ」
「あ、ああ」
野月はやたらと青冷めた顔をして、俺にそう訴えかけた。
ま、まぁそりゃそうだよな。
あのシチューっぽいものを食わなければならないと思うと、そりゃ……。
いや、でも案外うまいかもしれないぞ
だって先輩の手料理……だぜ?
「あら、遊馬くん。 もしかして匂いにつられてきたの?」
「もー、邦彦ってば。 つまみ食いでもしに来たんでしょ」
いかん、二人に気づかれてしまったっ!?
ど、どうする……いや、野月から頼まれているしな。
で、でもどうやって――
「あーいや、まぁ腹減ってたからなぁ。 先輩すんませーん、味見してもいいっすかー?」
しまった――
俺は何を口走っているんだっ!?
何故か知らんが、墓穴を掘ってしまった。
いや、もしかするとちゃんと美味しいかもしれないぞ。
椿が手を加えたかはわからんが、少なくとも先輩の手料理だ。
あの先輩がとんでも料理を作るはずがないだろうっ!?
「ええ、いいわよ。 丁度シチューができたところなの、ほらあーんして」
うおおおおおおおっ!?
い、今物凄く喜ぶべきシチュエーションのはずなのだが
何かが……何かが俺の邪魔をする。
そう、全身から変な汗が滝のように流れているのだ。
それに寒気も感じてきたぞ、何だ俺熱でもあるのか?
だ、だが料理を目の前にして引くワケには――
それに先輩の『あ~ん♪』が待ってる……
誰が迷うか畜生っ!!!
「もう桃子ちゃんったら、邦彦は子供じゃないから大丈夫だよ。 ほら、自分で味見してよ」
「あらやだ、私ったら。 ごめんね、遊馬くん」
な、なんちゅー余計な事をしてくれたんだ椿ぃぃっ!?
畜生……貴重な俺の青春が。
だ、大丈夫だ。
まだ手料理が残っている。
それをいち早く俺が味見するだけでも。
俺の青春は終わっていない。
遠くで野月が俺のことを見つめていた。
あいつと目が合うなんて珍しいな。
俺に向けてワニの人形で右手をフリフリとさせた。
何だ、別れの挨拶のつもりか?
おいおい大袈裟だな、たかが味見をするだけじゃないか。
……ははっ
俺は乾いた笑いをした。
「いっただきまーすっ!!」
腹を括った俺はパッとスプーンを奪い一気に口の中へと運んだ。
ドクンッ――
心音が高まった気がした。
な、なんだ?
し、舌が焼けるほど熱い……?
うぉ……なんだこの酸っぱさ……いや、苦いというか苦酸っぱいというか
しかも口の中でふんわりと広がるさっきの異臭と似たような臭いが……
というか胃が何か熱くなってきた、いかん胸焼けしてきたぞ。
う、何かキリキリと痛み出した、うお変な汗がでてきやがった。
いやいや、これ食って大丈夫なんだろうな――
うっ――
きゅ、急に腹痛が……
ちょ、何これ――
「うおおおぉぉぉぉっ!!!」
俺は無我夢中に走り出した。
「トイレは何処だ、トイレはぁぁっ!!!」
俺の悲痛な叫びは、屋敷中に響き渡った。




