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未来宣告  作者: 海猫銀介
22/37

第22話 電話の声って判断し難いよな


翌朝、俺は用事があるわけでもないのに朝早く目覚めた。

時刻はまだ6時。

俺は年寄りか、おい。


妙に目も冴えていたし、仕方ないので俺は洗顔所でバシャーっと顔を洗う。

まだ誰も起きていないな。

休日だし、両親も流石にぐっすり寝ているだろうよ。


さあて、まずは朝飯だ。

普段は昼まで寝てるから滅多に食うことはない。

せっかく早起きしたんだ、モーニングタイムとやらを楽しもうじゃないか。


トースターを2枚焼いて、お湯を沸かしてインスタントコーヒーを淹れる。

うん、中々欧米的でいい感じだ。


朝のニュース番組をみながら、俺はボケーっと朝を過ごした。

そういや昨日の件は、警察騒ぎになってないみたいだな。

幸い誰も怪我してないし、そりゃ騒ぎにはならないだろうが。


あっという間に朝飯を平らげると、テーブルの上においといた俺の携帯が鳴り出した。

こんな朝早くに電話?

ったく、誰だよ。


俺は折りたたみ式の携帯をパカッと開く。

そこには見慣れない番号が表示されていた。

……まさかな。


未来の俺が俺に直接電話してきたとか、ないよな。

俺は電話に出るのに留まった。

どうする、もし『俺』からだったら……?


いや、ダメだ。

俺はこいつと向き合うべきなんだ、だからこそ全てを知ってやろうとしたんじゃないか。

誰でもかまわない、出るぞ。

俺は勇気を振り絞って、受話器のボタンを押した。


「……誰だ?」


息を呑み、俺は低い声でそう呟く。

わずかの間、時が止まったかのような感覚に襲われる。

やはり、この電話の相手は……『俺』なのか?


「……ゆ、遊馬くんだよね?」


「へ?」


電話の先は、俺の予想とは裏腹に綺麗な若い女性の声だった。


「ご、ごめんなさい、間違えちゃったかしら……」


んー、何処かで聞き覚えのある声。

何と言うか、身近でつい最近聞いたような――

その時、俺はピンと閃いた。


「か、神野先輩ぃっ!?」


「キャッ!? び、ビックリした……。 ゆ、遊馬くんだったのね」


俺は思わず受話器越しで大声を上げた。

ごめんなさい先輩、本来なら声を聞いた瞬間にわかるべきだった。

クソッ、せっかく先輩が俺に電話かけてくれたってのに何てことを――


ん、待てよ?

どうして、先輩が俺の番号知っているんだ?


「あ、あの……どうして俺の番号を知っているんです?」


「うふふ、それは内緒」


いや、そこは内緒にしないでくださいよ。

とも突っ込めずに、俺は逆にその言葉にハートをキュンと射抜かれていた。

流石だ、先輩。 言葉だけで俺に精神攻撃を仕掛けるとは。


「あのね、遊馬くん。 今日予定あるかな?」


「はいっ!?」


俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

な、何だ?

どうなっているんだ、もしかしてこれはデートの誘いじゃっ!?


「キャッ……もう、朝から変なテンションじゃない、遊馬くん。 今日は別の用事があるのかしら?」


「い、いやいやいや超暇っすっ!! 今日無駄に早く起きちゃってどうしようかな

アッハッハーって思ってたところですよっ!!」


「よかったぁ、断られたらどうしようかと思っていたのよ」


ブホァッ


俺は一瞬吐血でもしそうな勢いで驚いた。

いやいや、こんな言い方マジでデートじゃないか?

ど、どうするよ?

昨日はあんなブラックな出来事があったが、今日はまさにハッピーなピンク色の日じゃないか。

ああもうだめだ、俺の頭の中が先輩色に染まっていきそうですよっ!


「い、いやだなぁ、先輩の誘い断るわけないじゃないっすかーっ! ハッハッハーッ」


イヤッホォッ!

先輩とデートとかマジ夢だと思っていたのに。

この喜びどう表せばいいんだ?

とりあえず万歳でもしとけばいい?


「あ、そうそう。 椿ちゃんの連絡先知らないかしら? 今日は椿ちゃんにも来てもらいたいの」


ズゥゥゥーーン

俺の頭に重しか何かが圧し掛かった。


な、んだと……

俺とデートじゃ……なかったのか――

俺は今にも口からエクトプラズムか何かが出てきそうなぐらいショックを受けていた。


……だが、先輩に直接電話をしてもらえたのも事実。

ここは先輩の期待に応えなければっ!


「あー、椿の連絡先なら知ってるんで俺が誘っておきますよ……何処行けばいいんです?」


「私の家よ」




・・・




はい?

い、いきなり先輩の家へあがりこむだと?




・・・




俺の脳は思考停止した。


「あのね、前遊馬くんが行ってくれた文芸部の親睦会を正式にやろうと思っているの。

それでね、遊馬くんには出来れば買出しも手伝ってもらいたいかなーって思っていて」


「あ、あー……はい、はいぃ?」


「それじゃあ、9時で学校で待ち合わせでいいかしら?」


「あ、はい……いいですとも?」


何かよくわからない展開になってきたぞ。

よくわからなすぎて、俺の頭が混乱している。

突然俺が先輩の家に招かれるなんて。

ま、まぁ椿や例のクソワニもいるだろうけどさ。


いやいやでもいきなり家ですよ、家。

やっべーな、もしかしたら両親とかいたりするのか?

おいおいおいおい、ちょっとスーツでも買うしかないなこりゃ。

あ、でも待ち合わせは9時だぞどうする?

よし、親父のを借りてなんとか――


「でもよかったぁ……遊馬くんが元気そうで」


「へ? な、何言ってるんですか、俺はいつだって元気ですよ、ハッハッハッ」


「ちょっと昨日ね、元気ないなって思ってたの。 椿ちゃんも辛い顔してたし……」


あー、そういやそうだったな。

いかんいかん、舞い上がりすぎて一瞬だけ昨日の出来事を綺麗さっぱり忘れちまっていた。

ま、確かに昨日の俺は死んだ魚見たいな目をしてたかもしれないけど……。

ごめんなさい先輩、無駄に心配おかけしてしまったようで。


「ま、まぁ気にしないでくださいよ。 俺も芸の一つや二つでも用意しておきますからっ!」


「うふふ、楽しみにしてるわよ。 じゃあね、遊馬くん」


ピッ


俺は先輩との会話を終えると、パタンと携帯を閉じた。

しかし、先輩は随分と早起きなんだな。

今日はこの為に早起きしたとしか思えんぞ、俺。


「あら、邦彦。 起きてたの?」


「お、母さんっ! おっはよーうっ!」


どうやら母さんが起きてきたようだ。

気づけば時間は7時30分を過ぎていた。

何故か俺は妙なテンションで挨拶しちまったけれど。


「何がおっはよーう、よ。 今日用事でもあるの?」


「ああ、たった今できたんだ。 ぱぱっと着替えるぜ」


俺は顔をニヤニヤとさせながら2階へ駆け上がろうとする。

すると母さんが俺の肩をグイッと掴んだ。


「……その様子だと、吹っ切れたみたいね」


「ん……な、何がだよ?」


「隠さなくてもいいのよ、あんた昨日父さんと話したんじゃないの?」


あー、そういやそうだった。

何でだろう、まるで遠い昔の出来事のように感じるぜ。

その間に色々ありすぎたせいかな。


「なあに、心配すんなよ。 俺はこの通り元気さ」


「……全く、あんまり私達に心配かけさすんじゃないよ。

元気のない邦彦なんて死んでもみたかぁないんだからね」


母さんは俺に呆れながらそう言っていたが、笑っていた。

そういや昨日の母さん、全然笑ってなかった。

よくよく思い返すと、母さんも食事がそんな進んでなかった気がする。


……はぁ、今すぐタイムマシンで昨日に戻って昨日の俺をぶん殴りたい気分だ。

なんだってここまで他人に心配かけさせてたんだか。


だけど、それは何かと心強く感じる。

未来の俺には、こういった味方がいるかは知らないけど

少なくとも俺を支えてくれる人が、身近にいるからな。


「ま、とりあえず今日はでかけるからさ。 夕飯もいらない。

帰りはちょっと遅くなると思うから」


「はいはい、気をつけていってらっしゃい」


本当はそこで『ありがとう』とでも言えればよかったんだけどな。

あいにく、照れくさくてそんな言葉口に出せなかった。

帰りにケーキでも買って、お礼代わりにでもするさ。

勿論、親父の分も含めてな。


俺は自室に戻り支度を着々と済ませる。

んー中々いい服がないな、金がないからって安物ばっかですませてたからなぁ。

クソッ、京なら何でも決まってるってのに俺じゃ全然決まらん。

あいつの外見だけよこせ、中身 (特に変態部分)はいらねーからっ!


おっとそうだった、椿を起こさないと。

あーおいていくのもアレだし、買出しも付き合わせるか。

本当は先輩とプチデートを楽しみたかったが、仕方ない。

こいつを一人にするわけにもいかんだろうからな。


「おい椿、起きろ」


ガラッと押入れの戸を開ける。

するとそこには腹を丸出しにしてぐうぐうと寝ている椿の姿があった。

なんてだらしないのない格好だ、色気も何もありゃしない。

さて、どうやって起こすか。

とりあえず飯で釣るか。


「おーい飯だぞ、白い炊きたてご飯山盛りだ」


「えっ!? どこどこぉっ!?」


わあ、本当に釣れた。

何処まで食い意地はった奴なんだ、こいつは。

説明は面倒だし、とりあえず強引に連れて行こう。


「出かけるぞ、準備しろ」


「え、何処に?」


「とりあえず、学校だ」


「えー? う、うん、わかった」


眠そうな目をゴシゴシとしながら、椿は大あくびをする。

まだ寝たりないか、まぁそりゃそうか。

一旦深夜に起きたしな。


しかし、こいつも昨日の出来事がまるでなかったかのような感じだな。

俺と同じでお前も吹っ切れたんだな。

今日だけは一旦、『未来の俺』のことなんて忘れて楽しもうぜ。


「あ、特盛りご飯は?」


「ねーよ、トーストで我慢しろ」


「あーっ! 私に嘘ついたなー」


「そうでもしないとずっと寝てるだろうがお前っ!」


「嘘つきは泥棒の始まりなんだよー?」


「騙されるお前が悪い、嘘つく方ばかりに非を押し付けるな」


「むー……」


しぶしぶと目を細めて、椿は階段を下りていく。

まぁ流石に可哀想だし、コンビニでおにぎりぐらいは奢ってやるか。

とりあえず飯が食えれば満足だろうしな、あいつは。


まだ時間に余裕はあるけど、先輩を待たせたくはない。

できれば30分ぐらい前には到着しておきたいが。


「ん……」


その時、俺の耳に何か奇妙な音が響き始める。

これどこかで聞き覚えが。

あ、まさか――


「おい椿、やめ――」




再び、悪夢がよみがえる。




俺の頭の中で、人の精神を破壊し尽くす『最凶の音』が響き渡った。

俺はのたうちまわり、あやうく発狂寸前まで追い込まれた。

そんな姿を見て、椿はニヤニヤしながら俺の様子を伺っているのが見えた。


「ふーんだっ! 食べ物の恨みは怖いんだからねっ!」


「これと、それとは……話が違う……だろ――」




前言撤回、やっぱりこいつにおにぎりを奢るのはやめだ。

ガクン、と俺の意識は一度落ちた――



お気に入りが3件目を迎えました。

ありがとうございます。


一昨日拍手がやたら多くてビックリしました。

コメントもいただけたようで嬉しい限りです。

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