表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来宣告  作者: 海猫銀介
21/37

第21話 俺は悪趣味じゃない



椿は5分もしないうちに、大佐との通信の準備を済ませた。

大佐に繋ぐまでもうちょっとかかるらしい。

その間、俺は伸びをしたりとかなりリラックスできていた。

んー、やっぱ吹っ切れた感があるよな。


「ねぇ、いいかな?」


「なんだよ」


「えっと……その、起きてた……?」


「ああ、全部聞いてた」


退屈そうにしてた俺の様子を伺いながら、椿は俺に尋ねる。

嘘ついたってしょうがないし、俺は正直に答えた。

すると椿は顔を真っ赤にさせて、慌てて顔を背けた。

そんな恥ずかしいことか? まぁいい。


俺は目の前に突きつけられた現実から、目を逸らそうと、忘れようとばかり考えていた。

その結果、周りをよく見もしようとはせずに親に迷惑をかけちまった。


……お前に、助けられたな椿。

一番最初に、滅茶苦茶な登場をして以来、ずっと俺に迷惑ばっかかけていたけどさ。

なんだかんだでお前、俺を守ろうと必死だったんだよな。


どんな事情で、この時代に来たかはまだはっきりしてねぇけどな。

お前だって色んなもの抱えて生きてきたんだろ。

俺より遥かに、辛そうな経験をしてる癖に俺に構っている場合だったのか?


なぁ、あの後何処に行こうとしたんだ?

何を決意したか、教えてくれよ。

俺は言葉には出さずに、椿にそう訴えかけた。


「やあ、お待たせ」


「おう、きたか」


相変わらず、相手を大佐かと思っていないような口調で俺は返す。

そんな様子を見て、椿は目を丸くしていた。


「まさか君から直々に呼び出されるとはね、どういう風の吹き回しだ?」


「ちょっと色々聞かせてもらおうと思ってんだ。 例えば、『未来の俺』の事とか、な」


「なるほど、その件か。 いやぁ、こっちではもうお祭り騒ぎだよ。

司令官である私に全部責任をなしつけられていてね。

このままでは埒が明かないと思っていたところさ」


大佐は笑いながらそう言っていたが、目の下にはクマができていた。

未来でも人間の根本的な構造ってのは変わらんね。

この大佐相当疲れてそうだけど……まぁ、知らん。

悪いが、俺の話に付き添ってもらうぞ。


「言っておくけど、隠し事はもうなしだ。 規則だろうがなんだろうが知らないけど、

そんなの関係なしに洗いざらい吐き出してもらうからな」


「ほう……? 椿の報告と随分違っているようだね」


「家族にだって心配されてんだ、ここまで俺の時代に影響を及ぼして今更俺を『無関係』と主張するわけないよな?」


「よろしい、そこまで言うなら覚悟は出来ているみたいだね。 さて、ならば……」


「ちょっとおにいちゃ――あ、た、大佐っ!? い、いいの?」


突然黙って聞いていた椿が、バッと立ち上がってそう叫んだ。

大佐がついにその口を開こうとした時に、何水差しやがるんだこいつは。

しかも深夜だぞ今、ボリュームぐらい抑えろ。


「実はこの通信、上層部には無断で行っている。 だから誰も監視はついていないし、私がこうしていることも知らないよ。

しかし、それも時間の問題さ。 手短に話すから、良く聞いておくれ」


「お兄ちゃん……そんな、危ないよ……?」


素が出てるぞ、おい。

大佐はどうやら、俺との通信にリスクを背負って応じてくれたみたいだな。

こりゃ感謝しないとな。


「……おっと、そうだったな。 椿、悪いけど席を外してくれ」


「……わ、わかった」


椿は大佐にそう告げられると、そのまま俺の部屋の外へと出て行く。

何だよ、椿には聞かれたくない話なのか?

椿はもう一度心配そうに俺の顔を見つめる。

俺は合図で『いけよ』って伝えたら、通じたのかそのまま笑顔になって部屋の外へと出て行った。


「椿は監視対象だからね、今は就寝時間といえどそこから私との通信がバレてしまう危険性もあった」


「なるほど、な」


俺が聞かずとも、大佐はしっかりと俺の疑問に答えてくれた。

すっかり忘れてたな、そんなこと。


「さて、まずは……『未来の君』、つまり我々の時代の君が何をしたか、というところから始めようか」


「……ああ」


俺はゴクリと生唾を飲み込んだ。

これが、俺自身が殺される理由になる。

一体、どんなことをしでかしちまったんだ?


気がつくと俺の体は、震えていた。

クソッ、何で震えるんだよ。

覚悟は、出来ているはずなのに。


「結論から言おう、君は『世界の時間』を巻き戻そうとしたのさ」




・・・




「はぁっ!?」


俺は素っ頓狂な声を上げた。

い、今なんつったこの大佐?


「クロックス本部の最深部にね、『時の女神』と呼ばれている最新のタイムマシンが眠らされているんだけどね。

開発者は君さ、全く……正直アレを見てしまった時は、冷や汗どころじゃなかったね」


お、おいおい……マジでとんでもねぇ話だな。

タ、タイムマシンがどうこうとは言わないけどさ。

何だよ、世界の時間を巻き戻すって。

『タイムトラベル』とは話が違うだろ、それは。


しかもなんだって

開発者が……俺?

嘘だろ、俺がそんなもん開発できるわけないだろ。


「気味が悪かったよ、未来の君の趣味かは知らないけどね、その機械には黄金の女神像が飾られていたのさ。

その女神像がまたまた凶悪でね、外敵とみなしたモノを灼熱のレーザーで一瞬で仕留めてしまうという迎撃システムだったのさ」


「うげ……なんだってそんなセンス悪くなっちまったんだよ、俺は」


た、確かに女神とかは憧れるかも知れないけどな。

でも黄金って何だよ、しかもそれをなんかとんでも兵器にしちまう俺って……。

ある意味未来の俺には失望したぞ。


「クロックス総動員でね、君の装置を止める作戦が展開されたよ。

莫大なエネルギーを使うようだからね、発動までに1日の時間を要した。

君のありとあらゆる手は我々の先を越えるもので、正直手に負えなかったよ。 だけど、結果的に君は『負けた』のさ」


「し、失敗したのか」


まぁそりゃ成功してたら今頃大佐とか椿はこの時代に来てないってことだよな。

いやでも、巻き戻っちまってたらその未来ってどうなっちまうんだろう。

……ま、この辺は今聞くべきことじゃねぇな。


「こうして君は我々に捕まり、クロックス設立以来の大事件はめでたく幕を閉じようとしたのさ」


「……お、終わりか?」


「そんな訳ないだろう、ここからが本番さ。 世界を巻き戻すのが無理ならば、今後は君は何を考えると思う?」


何で俺にそんなこと聞くんだよ。

俺自身のことは俺が一番良くわかるってか?

正直さっぱりわからん。


「そもそも何で巻き戻そうだなんて考えたんだよ、過去に悔いがあるんだったら、俺は過去そのものを変えようとするけどね」


「そう、それさ」


「……まさか」


「お察しの通り、まずこれは君が殺される理由になるのさ」


な、なんてこった。

理由は良く知らないが、どうやら未来の俺にとって『今の俺』の存在ってのは余程邪魔らしいな。


でも、それはちょっとおかしいだろ。

腑に落ちない点は、まだまだたくさんある。


「ちょっと待てよ、そもそもおかしいだろ。 何で最初からそれをしないんだ?

世界の巻き戻しなんてするより余程簡単なんじゃないの?」


「残念ながら、我々の世界を変えよう方法というのは『時間の巻き戻し』しかないのさ、誰も考えたことなかったんだけどね」


「どういう意味だよ?」


「パラレルワールドって知っているかい?」


うわ……また嫌な単語が出てきやがった。

パラレルワールドっつったら、要は似たような世界が複数あるみたいなもんだよな。

世界が分岐してーとか云々の。


「つまり、都合よく我々の世界の『過去の時代』へ辿りついたとしても、

そこで及ぼした影響は『我々の世界』に影響はないのさ。

いわゆる、新たな世界の分岐点へ向かうだけで……結果的に、未来を変えることが出来ないという説なんだけどね」


「はぁ、なるほど……」


思わずため息がつきたくなるほどぶっ飛んだ話だ。

いやまぁ、今更なんだろうけどさ……。


「だったら尚更おかしいな、未来の俺って要は今の未来を変えたいんじゃないのか?

だったらこの世界に、何をしに来たんだって話になるぞ」


「……すまない、私では彼の目的ははっきりとわかっていない。 ただ、君が殺されるということは間違いないのさ。

未来の世界に影響しないといえど、『未来人が過去の世界に危害を加える』のは立派な時空犯罪さ」


そこかなり重要なところだと思うんだけどな。

結局肝心なところはしらねぇのかよ。

……まぁ、今回ばかりは全部教えてくれてるようだし、文句は言えねぇか。


「……で、何で大佐とか椿はわざわざこんな回りくどい事したんだよ?」


「クロックスには未来の辻褄合わせの為に用意された『未来宣告』って言うルールがあるのは椿から聞いただろう。

『未来宣告』っていうのは審査が厳しい分、『最も強力』な権限を持つのさ」


「承認が通っちまうと誰も取り消すことができないし変更することもできないってことか?」


「その通り、正確に言えば本人以外、だけどね。 ま、過去の時代へ影響を及ぼさないってのが表向きの目的だけど、本当は違う。

単純に、『過去の世界』に留まる理由作りでしか過ぎないのさ、未来宣告ってのはね」


「マジかよ……」


「ちなみに許可なく過去へ飛んだりすると、クロックスに捕捉され次第『強制送還』される。

勿論、過去の世界へ行く権利も全て剥奪されるさ」


大佐の話を聞くと、何となく俺の疑問が取れた気がする。

大体未来人が勝手に決めたルールで、過去の時間帯の辻褄合わせをするとかおかしいと思ったんだ。

本当は過去の時代で何をしても自分達の時代には何も影響はない。

色々と話が繋がった、な。


「我々は、過去の時代へ飛んだと思われる『君』の捜索の為に過去の時代へ飛んだ。

そして、しばらく過去の世界に留まれるように任務の内容にも適した『未来宣告』を行ったということさ」


「……なるほど、な」


俺を殺そうとして殺さないという矛盾が、ようやくわかった気がする。

まぁ結果的に、俺が殺されそうになってるのは変わらんっぽいが。


「正直ね、我々としては未来の君を含めて『殺す』ような真似はしたくないのさ。

今の時代の君を見ていると尚更ね……あんな世界的な犯罪に手を染めるような人間とは思えないのさ」


「……だけどよ、結果的に悪いことしてんのは確かだろ」


「その通りだ……さて、これ以上の通信は怪しまれる危険性も高い。

詳しいことは椿から聞いておいてくれ」


「悪い大佐、教えてくれてありがとな」


「気にするな、私はいつでも君の味方さ、また逢おう『遊馬 邦彦』」


プツン――


大佐は俺に笑顔でそう告げると、プツンと通信をきった。


……


はぁ

ため息をついた。


覚悟してたといえど、まさか予想以上にスケールがでかい話になっていたとは。

いろんなことを聞いちまったせいで、ちょっと頭が痛い。


だけど、モヤモヤしていたものが少しずつ取れてきたな。

その分、新たな疑問も出ちまったけど。


「そうだ……おい、椿?」


俺は部屋の外へ出て行った椿を呼ぼうと、ドアを開ける。

一体何処で待ってるんだろうな、まさか外にでも出たか?

とか、考えていたら――


すぅ……すぅ……


廊下で横になって、寝息を立てている椿の姿がそこにあった。

おいおい、なんて無防備な格好で寝てんだよ。

全く、こんなときだってのに。


流石にこんなところで放置しているわけにもいかないので、俺は仕方なく椿を抱きかかえる。

うおっ、思ってたより軽いな。

これでダイエットしてるとか有り得ないだろ、死ぬぞ。


「邦彦ぉ……」


ん、なんだ?

起こしちまったか?

俺は椿と顔を合わせた。


「……ごめんねぇ……くにひこぉ……」


……寝言か?

夢に俺でも出てきてんのか。

幸せそうな顔で寝てると思いきや、今度は悲しそうな顔になったり

本当忙しい奴だ、こいつは。


「おい、気にするな。 いい夢でも見てろ」


寝てるか起きてるか知らんけど、俺は押入れに椿を置くと布団で横になった。

ああ、なんかすっきりした気分だ。

これなら今日は気持ちよく眠れるだろう。


大佐のおかげで、ある程度の事情はわかった。

だけど、俺はまだ事情を理解しただけである。


俺に出来る事とは、一体なんだろうな。

今は知ることで精一杯だけど、それでいい。

知るべきことを知らない限り、俺が何をすべきかもわからんからな。

それに人任せってのも性に合わん。


『未来の俺』とは、少なからずもう一度接触する機会があるはずだ。

その時までに、俺は自分の出来ることを考えておくさ。


俺は再び布団の中に潜り込んだ。

驚くほど、スムーズに俺は眠りに入った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ