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未来宣告  作者: 海猫銀介
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第2話 ポテチ戦争とか黒歴史だろ


「初めまして、『遊馬ゆま 邦彦くにひこ』君っ♪」


彼女は飛び切りの笑顔で正座をしながら挨拶をしてくれた。

俺は苦笑いするだけだ。


……さっきの冗談と思っていいよな。

見た感じ目の前に現れた謎の少女は殺意とかそんなもんを感じない。

きっと混乱している俺に合わせて演技してくれたに違いない。

とはいってもどーせならもっと悪役っぽくのってほしかったんだけどな。


「で、お前一体何?」


物凄く冷静になった俺はちょっと強めな口調で尋ねる。

別に怒ってるわけじゃないが、本気でコイツの正体がわからない。

悪戯にしては手が込みすぎてるし、周りを見渡す限り隠しカメラっぽいのもない。

一般人の俺がドッキリカメラとかそんなもん仕込まれるはずはないけど。


「言ったじゃん、君を殺しに来た未来人って」


「……いやほら、俺もあの時はテンション高すぎたからさ。

もう普通の俺だからあのテンションに合わせなくていいんだぞ?」


「何の話? あ、それよりもお腹空いちゃったな……何か食べ物もらっていい?」


キラキラを目を輝かせながら少女は俺に物をねだった。

少しは俺の質問にまじめに答えろっつーの。

てか図々しい奴だな、いきなり俺に食いもんをよこせなんて。

だが、見ての通り美少女だ。

正直かなり可愛いし、これぐらいのことなら応えてあげたくなる。

これが悲しいモテない男の性なのだよ。


「ん……菓子ならすぐ出せるぞ」


丁度未開封だったコンソメ味のポテトチップスを手に取る。

馴染み深いオレンジ色のパッケージは、どこか安心感を俺に宿した。

実はこの菓子は俺の大好物で常に切らさないように買いだめをしている。

これがないと1日が始まらないぐらいってぐらい好きだ。


「お菓子はちょっと……なるべくカロリー低いのがいいな。

最近ちょっと太り気味だからダイエット中なの。

お菓子はダイエットの敵だよ、敵っ!

それに私はコンソメよりうすしおが好きなの。

後のりしおも好きだけどあれは手が汚れるから嫌いで――」


ツンッと顔を背けた少女は口を尖らせながらそう言った。

よくわからんが俺の大好物があっさり否定されて悲しいぞ。

俺はカチンと来たと同時に、いい事を思いついた。


「んじゃ、俺一人で食うからいいや」


「あっ……」


俺の勘は正しかった。

やっぱこいつ、このお菓子を食いたいようだ。

今のちょっと悲しげな声を俺が聞き逃すはずもない。


正直今の一声だけで可哀想だし、許そうかなって思うほど強烈ではあった。

しかしタダで渡すのも面白くないし、あの謎の少女自身プライドがそれを許さないはずだ。

だからちょっと意地悪をしようと俺は腹を空かせたコイツの目の前でお菓子を頬張ってやろうとした。


目的は奴のそのプライドをズタボロにしてやることだ。

俺は怪しい笑みを浮かべながら、バリッと俺はお菓子の封を開ける。

謎の少女は顔を背けたままこっちを向こうとしない。

いつまで保っていられるかな、その態度。


俺はニヤニヤしながらポテチを摘んで口に運んだ。


「うぉっほぉ~この菓子うんめぇ~~っ!

こんなにも素晴らしい菓子を何で食わないんだろうなぁ~?」


わざとらしくバリバリと音を立てながら、お菓子を頬張っていると

そっぽ向いていた少女がチラッと目だけをこちらに向けた。

ふっ……落ちるのも時間の問題さ。

俺は次なる作戦に出ることにした。


「ほらほら~お前も一言お願いすれば、この最高に美味しいお菓子で空きっ腹を

満たすことができるだぜぇ~? ほーらいい香りだろ~?」


今度は俺は謎の少女の近くにポテチをチラつかせてみた。


「い、いらないしっ! が、我慢できるもん」


鼻をピクリッと動かしながらも、目を閉じたまま謎の少女は何とか俺を突っぱねた。

おぉうっ……いい反応をしてくれるじゃないか。

何だか滅茶苦茶楽しくなってきた俺はこれでもかというぐらい謎の少女を挑発した。


「うんめぇ~~うんめぇ~~っ! ああ、お前は一度俺の菓子を否定したという

小さなプライドのせいで腹を空かせたままになるとは悲しいヤツよの~。

俺も鬼じゃねぇし、一言だけでもお願いをすればちゃぁ~んと菓子を分け与えてやるんだぜぇ~?」


謎の少女は頑固としてお菓子に目を向けようとしない。

俺も粘りに粘ってみるが、なんとあっさりと俺の攻めを受け流しやがった。

今では大仏のように目を閉じてピクリとも動かないほど……


一体何だコイツは、神の領域にでも達したのか?

流石に反応がないと面白くないな。

ここまでかと思って俺は諦めて普通にお菓子を頬張ろうとした。


「隙ありっ!!」


すると突然謎の少女は俺の懐に手を伸ばした。

そして奴の手にはいつの間にか俺のお菓子が渡っていた。


バカな……俺の肉眼でも捉え切れなかったというのか。

奴め……侮れないぞ。


「あっはっはっはっ! 君のお菓子は私が頂いたわよ、どう? 形成逆転なんだからっ!」


「それはどうかな?」


「え…?」


謎の少女は俺の自信たっぷりな笑みを見て、さぞかし寒気を感じただろう。

自分の大好きなお菓子を一瞬にして奪われたというのに、俺は一切動揺していなかった。

むしろこの手の行動ぐらい想定済みだ、と言わんばかりの自信を奴に見せつけてやった。


彼女の表情は青ざめていて、片手にはお菓子を大事そうに抱えつつも

しゃがみこんだままの俺を後退りしながら見ている。


普通なら奴が優位な立場であるが故に、この立ち位置からしても謎の少女は明らかに有利なはずだ。

逆に俺を見下すような位置にいるはずなのに……どういう訳か、逆の立場となっている。

奴は余裕に満ちた俺に怯え……そして俺は奴を今、見下しているような状況だ。


「ふっふっふっ……お前はまだわかっていない、ここが俺の『フィールド』であることをな」


「な、何よ……き、君のお菓子は私の手にあるんだからっ!」


謎の少女は動揺を隠し切れずにいた。

それもそのはずだ、さっきまでお菓子を使って挑発していたこの俺だ。

そのお菓子を奪ったはずなのに、何故ここまで俺が平常心を保っていられるのか。


例えるなら、俺は刀を奪われた侍のような状況に立たされている。

侍は刀がなければ斬ることができない、つまり戦をすることができないはずだ。

刀は自分自身であり命よりも大切なもの、決して失ってはいけない『魂』だ。


そんな大事なものを失ってみろ……侍は絶望するに違いない。

しかもよりによって、敵に奪われているんだ。


そう、俺は今その状況に立たされているのと同じだ。

武器を失った侍……即ち俺に一体、何ができるというのか。

否、何もできるはずがない。 だからこそ、奴は俺のこの余裕に恐怖を覚えているのだろう。

当然だ、奴には想像すらできないはずだ。


俺がこれだけ平常心を保っていられる理由をな。


「確かに俺はお菓子を奪われた……お前を誘惑するために使っていたそのお菓子をな。

だが俺はまだ終わっちゃいない……何故だかわかるか?」


「……つ、強がったってお菓子は返さないんだからっ!」


「甘いな、俺がいつ『お菓子』を失ったんだ?」


「え……?」


勝ったな。

俺はこの戦いの勝利を確信した。

見ろ、あの謎の少女の絶望に満ちた顔を。


そうだ、奴は常識にとらわれすぎた上に『答え』に辿り着けなかった。

そして……俺の最後の言葉で、奴は気づいた。

だからこそあの表情になったんだろう……。


流石に、『答え』にたどり着いたはずだ。

俺が武器……もとい、『お菓子』を失っても冷静である理由を。

さあ、次の手で俺の偉大さを知れ、未来人っ!


「まだまだ俺のコンソメ味は残されているっ! 貴様には全てを奪いつくすことはできんはずだっ!

何故ならば、お前自身がその答えを知っているはずだっ!」


俺は自分の後ろに隠していた山ほど詰まれているコンソメ味のポテトチップスを見せつけた。

不思議とオレンジ色のパッケージからは神々しい輝きが放たれているように見える。

……というか、何故か放たれていた。 いや、この部屋は今何が起きても不思議じゃないだろう。


それよりも見よ、あの謎の少女の絶望に満ちた表情をっ!


「な、何てことなの……ダイエット中の私があれに全て手を出してしまえば苦労は水の泡……

それどころか、逆に君が永遠と食べ続けることによって私は苦悩を与えられ続ける……

そして一度でも手を出してしまえばもう終わりだわ……か、考えたのね……君……っ!」


謎の少女はお菓子をパサッと床に落とし、両手で頭を抱えながら跪いた。

はっはっは……さぞ屈辱に違いない。

まさかこんな手を使われるとは想像していなかっただろうからな。


「はっはっはっはっ! 未来人よ、現代人をナメるなよっ!」


勢いよく立ち上がり、悔しそうに伏せている謎の少女に向かって俺は一言決めてやった。

憎いほど決まった、まさしく俺は今ヒーローになった気分だ。

だが、それも次の一言で崩された。



「…何しているのよ、邦彦」



え?



俺は突然、この部屋にいるはずのない第3者の声を感知した。

おかしい……今この部屋にいるのは俺と謎の少女の二人だけだ。

そしてこの声……凄まじく聞き覚えがある。


俺は寒気を覚えた。


もし予感が的中していれば、事態は只事じゃ済まない。

今、俺は最悪な事態に備えて脳内をフル回転させていた。


何て……一体何ていい訳をすりゃいいんだ……。


俺は絶望に満ちた表情で、扉に目を向けた。

そこにはいつからいたのか知らないが、俺の『母親』の姿があった。

目を細めて、まるで哀れな人間でも見るような目で俺のことを見つめていた。


やめろ……そんな目で俺を見るな、母上様よっ!

いや、まてよ……そもそもこの謎の少女のことどう説明すりゃいいんだ。

ありのまま話したところで解決できるような問題じゃねぇぞ……。

しかもその少女と俺は今、ポテチで争っていたところ直で見られたんだ。


だ、ダメだ……どうやっても言い訳が思いつかない。


俺の目の前は再び、真っ白になるのだった。


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