第19話 衝撃の事実ってのは、想像を絶するレベルの事実だ
久々に一人で乗る自転車は快適だ。
いつもと違って後ろの重荷がないから、遠慮なくスピードを出すことが出来るぜ。
奴が重いとかそういうワケではないんだけど。
ギュンギュンと漕ぐスピードをあげて、俺は見慣れた道を進んでいく。
この近くにそれなりに大きい本屋があったはずだ。
しかし、こんなめんどくさいことを頼まれてしまうとは。
俺が信頼されていると思うべきか?
まぁいい、帰った後にたっぷり先輩に褒められて鼻の下伸ばしてワニにおこられ――
……いらん、後半部分はいらん。
誰も聞いていない空しいコントを脳内で繰り広げていると
ふと、視界に入った光景に足を止めた。
別に何の変哲もない公園だ。
あまり広くなくて、砂場にゾウの滑り台にジャングルジムとベンチが少し。
子供は誰一人遊んじゃいない。
ったく、まだ残ってたんだなこの公園。
昔、俺はこの公園でよく遊んでいた。
京と一緒にドロだらけになって遊んで、母親に怒られた事もあったな。
思い返すと懐かしい、随分前の出来事なんだよなぁあれも。
俺は懐かしさのあまりに、自転車から降りて公園を見渡した。
意外と鮮明に覚えてるもんだな、ここまで形が変わらないのも驚きだ。
……あの時の女の子どうしてんだろうな。
京が言い出すまで全く忘れていたが、俺は確かにここで俺と同じぐらいの年の女の子と遊んだ気がする。
たまたま俺が一人で遊んでたところ、一人で蹲って泣いてやがった。
昔のことだからほっとんど覚えてないけど、最後にはその子泣き止んで笑ってたな。
んーどこの子だったんだろうな、近所の子じゃなかったみたいだし。
ま、こんなところで油売ってる場合じゃない。
俺には先輩から頼まれた大事な任務があるからな。
何処か清々しい気分になりながら、チャリへと足を運ぶ。
すると、俺の目の前に突然不審な人物が現れた。
刑事ドラマで出てきそうな長いコートを身に纏い、
帽子とサングラスとマスクで顔を隠している長身の男。
何処からどう見ても不審者だろ、これ。
まずったなぁ、もしかしてこの公園って危ない奴の集まりにでもなってんのか?
ここはさっさと巻いたほうが良いな。
俺は面倒事になる事を察して、堂々と怪しい男の横を通り過ぎた。
「……『遊馬 邦彦』だな」
俺はピタリと足を止めた。
何だ、こいつ。
何で俺の名前を?
いや、でもこんな知り合いいないはずだ。
その時、俺は胸騒ぎを感じた。
不審な男は、俺の正面に立ち、サングラス越しから俺と目を合わせる。
すると自ら、マスクとサングラスを取り外した。
……俺はその顔を見て、驚いた。
何故なら、少し親父に似ていたからだ。
親父をもう少しスリムにして、若返らせると……こんな顔になる。
わかっていることは、この人物は『親父』ではないことだ。
「な、何だよ……?」
俺の声は、震えていた。
何故か知らんが、物凄く嫌な予感がする。
この親父似の男……ただの『不審者』ではない。
男の口が、ゆっくり開かれた。
口の端を不自然なほど吊り上げ、不気味な笑顔で俺にこう告げた。
「お前を、殺す――」
ゾクリ――
と、背筋に寒気が走った。
こいつ、何言ってんだ……?
じょ、冗談だろ?
男の目は真っ直ぐと俺の瞳を捕らえている。
嘘、ではない……直感的に悟った。
同時に、大佐の言葉が俺の頭を過ぎった。
『……気をつけてくれよ。 君は常に……命を狙われていることを忘れるな』
逃げろ、俺……逃げろっ!
脳内で、何度も何度も俺が俺自身にそう告げていた。
だが、足がすくんで……身動きが取れない。
俺は蛇に睨まれたカエルのように、動けなかった。
男は右手をコートの内ポケットに突っ込ませると
そこから、ギラリと銀色に輝く何かを取り出す。
間違いなく刃物だ、こいつ……凶器を持ち出したぞ。
相手は凶器に満ちた顔で、ククッと笑いを浮かべた。
また、背筋にゾクリと寒気が走った。
ヤバイ。
逃げろ……逃げろっ
わかってんのかよ、このままだと殺されちまうぞ?
クソッ、何で言うこと聞いてくれねぇんだ、俺の体っ!
動け……動いてくれっ!
俺の願いは空しく、体の全身から力が抜け落ちた。
カクンッと視界が下がり、男の足が目に留まる。
すぐに見上げると、そこにはあの凶器に満ちた顔のまま男がナイフを振り下ろそうとしていた。
終わった。
俺は、ここで死ぬんだ。
途端に冷静になった俺は、全てを諦めた。
「邦彦ぉぉーーっ!」
……なんだ?
突如、聞き覚えのある声が耳に飛び込んだ。
時にはうざったくて、俺に散々迷惑行為を重ねてきた、『奴』の声が
今、この時だけ、物凄く頼もしく感じた。
ガキィィンッ!
金属音が響き渡り、俺は空を見上げる。
男の手からナイフが弾き飛ばされ、ブンブンと高速回転しながら上昇していた。
その音で、俺は我に帰りようやく体の自由を取り戻した。
体勢を崩しながらも、俺は死に物狂いで男の傍から離れた。
はぁ……はぁ……
マ、マジで死ぬかと……思った。
「……ごめん、遅れた」
「……つ、椿? どうしてお前がここに?」
そこには、いつもと雰囲気が異なる椿の姿があった。
前にも見たことがある、あの鋭い瞳。
そう、俺を殺そうとした時と全く同じ目だ。
あいつの本来の姿、というべきなのか。
ただ、前と今回は明らかに俺に敵意を向けていない。
あそこに立っている『男』を、その瞳は強く睨みつけていた。
「やはり、俺を止めに来たのはお前だったか」
あの男は、どうやら椿のことを知っているようだ。
しかし、どうなってやがるんだ?
どうして椿が、俺をあの男から守った?
こいつの役割は、俺を殺すことのはずなのに。
放っておけば、自分の手を汚さずに任務を達成できたはずなのに。
「……君の事は、クロックスが完全に包囲しているよ。 まんまと姿を現すなんて、マヌケね。
もう、この『時代』に留まれると思わないでね」
「ああ、そうかよ? クロックスが包囲しているって? 笑わせるぜ、こりゃ傑作だな
やはりお前は何もわかっちゃいない、クロックスの上層部はいい加減な奴らだってことをな」
椿はすっかり俺のことを気に留めずに、あの男と話し込んでいる。
あいつ一体、何者だ?
まさか、こいつも未来から俺の命を狙いに……?
とにかく俺の出る幕ではなさそうだ。
俺は黙って耳を傾けた。
「クロックスの力は、君なら十分に理解しているでしょう?」
「じゃあ逆に聞くけどさ、何で俺の『未来宣告』に承認が降りたんだ?」
「え……? な、何を……?」
チラリ、と椿は俺に目を合わせる。
未来……宣告……?
俺はふとあの男の言葉を思い出す。
「……『お前を殺す』、確かにあいつは俺に、そう言った」
一字一句、間違えようがないこの言葉。
そのせいで、俺は身動きがとれずにいたぐらい衝撃的な言葉だった。
椿に言われたときとはワケが違う。
明らかに、殺意の篭った一言だったからだ。
「クロックスでは今、俺のことで祭りになってるらしいからな。
俺の狙い通り……急進派の奴らが承認してくれたってことさ。
これで、強制送還されることはない、俺がこの未来宣告を取り消さない限りな」
「そんな……成立……したの?」
嘘だよね? と、言わんばかりに椿は俺ともう一度目を合わせようとする。
だが、俺は目を背けた。
それはあの男に、嘘偽りがないということを示すことを証明する行為だった。
話が、全く見えてこない。
未来宣告については、確かに椿から聞いている。
あれは単純に過去の辻褄合わせを行うために設けた未来人のルールのはずだ。
……生きて帰れたら、椿から色々と聞かなきゃな。
「……遊馬 邦彦」
男は、再び俺の名を呼ぶ。
今度は俺は動じずに、逆に睨み返してやった。
「……ダメ、ダメっ!!」
その途端、椿が何かを察したのか俺の元へと駆け出す。
な、何だ?
おい、敵はあっちじゃないのか?
何で俺のほうに、向かって来るんだよっ!?
だが、あの不審な男はそんな事にも動じずに、口を大きく開いた。
「俺は、未来のお前だっ!」
・・・
は?
俺の思考が、止まった。
一瞬、新手のギャグか? と疑ってしまった。
その時、椿は表情をハッとさせてその足を止める。
その様子を見る限り、この言葉は『ギャグ』ではないことを即座に理解した。
「クロックスの意思は、俺を殺すことにある。 俺がやってきちまった事を考えれば、奴らは当然そう考えるだろうよ。
勿論、俺自身もその『意思』には賛同している」
「や、やめて――」
椿の力ない言葉が、胸に突き刺さった。
その瞬間、俺は今までの不自然な行動の理由を、ようやく理解できた。
「だが、死ぬのは俺じゃない……『お前』だ。
俺は俺の全てを狂わせた、だから『お前』を殺す為にこの時代にやってきた」
何で、だよ。
何で、こんなことを隠してたんだよ。
「クロックスの奴らは、どうあっても俺を殺したいらしい。
だからこそ、俺がこの時代へ無断で飛び去っても……俺は捕まらなかった。
どんな形であれ、『俺』を殺せれば全て良し、ってことだ。
聞こえたか、『遊馬 邦彦』これが、真相だ」
俺は、言葉を失った。
何の冗談なんだ、これは。
頭が、頭が……おかしくなっちまいそうだ。
「く……にひこ……」
椿の声は、震えていた。
必死で、この事を隠そうとしていたのだろう。
……嘘だろ。
こんなのって、ありかよ。
俺は一体、どんな複雑な運命を抱えちまったんだ。
「……日を改めよう、『遊馬 邦彦』。
お前が全てを知れば、この『死』すら受け入れる気になるだろう。
そう、今の俺と同じようにな。 全ては、『未来』の為だ」
未来の俺は、捨て台詞のように俺にそういい残した。
ああ、ダメだ。
頭が、回らない。
今、何が起きたんだ俺の身に。
ワケわかんねぇよ……。
誰か……助けて、くれ。
俺は力なく、その場で座り込んだ。
その時の俺の顔は、言われるまでもなく
絶望に満ちていた、顔になっているんだろうな。
どうして、こんなことになっちまったんだ――
俺の目の前は、真っ白になった。
先日拍手で2通目のコメントを頂きました。
どうやら某所でアドバイスをくれた方らしく
その後も読んでいただけたようでこの場を借りて感謝致します。
勿論、何名か拍手くれた方にも感謝致します。
1回といわず10回ぐらいしても怒らないんだからねっ!
さて、ストーリーもいよいよ中盤を迎えてシリアスな展開になってしまいました。
いきなり雰囲気が変わりすぎたのでビックリされた方ごめんなさい。
でも合間をもってコメディー要素はウザくならない程度に盛り込みたいです、はい。
こんな感じの小説ですが、これからもご愛読いただけますようよろしくお願いいたします。




