第14話 俺らって本当よくわかんねーな
本日二度目の投稿。
何か調子がいいのであげちゃいました。
あれから俺達は4人で部活の方針について話し合っていた。
椿はもう、入部する気満々だったようだ。
とりあえずこれで、部活が廃部になることは免れたらしい。
後は活動内容について。
俺はまず文才を養うために、とにかく本を読む事から始めたい、と先輩に告げた。
勉強熱心なのね、と褒められて俺は思わず顔をニヤけさせた。
まぁ例のアルちゃんこと野月とやらに
『鼻の下伸びてんぞ、このエロヒコ』
とか言われたが。
先輩の前で何てこと言いやがんだって言い返そうとしたが
ここは大人としての立ち振る舞いを見せ付けてやろうと、何とか堪えてみせる。
椿は大爆笑してた、そこまで面白くもないだろうがっ!
ちなみに先輩からは
『頭ナデナデします? うふふ』
と、からかわれちまった。
思わず、是非お願いしますって言いそうだったが、ここも何とか堪えて見せた。
そんなこんなで、今日の学校は無事終了。
先輩と生意気なアル中マスコットに別れを告げて、俺はチャリ置き場へと向かう。
既に辺りは暗くなっていた。
夕焼けをバックに自転車で帰る学生の姿が、なんというか本当に絵になるな。
俺もあの背景の一部になろうと、自転車を漕ぎ出す。
……『奴』を後ろに乗せながら。
ああ、外から見れば俺はどんだけ羨ましい野郎に見えるんだろうな。
きっと事情も知らない奴らは俺のことを『リア充』だと言い切る。
だが、ある意味では俺は『リア終』なんだよ、意味がわかるか?
はぁ、本当に共感者がほしいと思う今日この頃。
「ねぇねぇ、邦彦っ」
「なんだよ」
奴の声が聞こえたので、とりあえず前を向いたまま適当に返事をした。
人が憂鬱な気分のときに話しかけおって
……まぁいい、ちょっとぐらい相手になってやる。
「学校って、すっごく楽しいね」
「ん、なんだお前、未来の学校だと友達はいなかったのか?」
「私、学校に行ったことないの」
学校に行っていない?
それにしちゃやたらと知識があるようには見えるんだけど。
なんだっけ、超時空なんちゃらとか。
あんなの学生の域超えてるようにしか見えん。
「ん、そんな訳ないだろ。 お前、意外と頭いいだろ」
「い、意外とって何ー?」
顔を見なくてもわかる、椿はムッとしながら俺にそう言った。
ついつい口が滑っちまったな、椿も流石に馬鹿にされると怒るか。
「ああ、悪い悪い。 でも、未来のこと大体は知ってんだろ?」
「そ、それは……専属の家庭教師みたいなのがいて……その」
あー……こいつ、本当に複雑な家庭事情なんじゃないだろうな。
何か聞くのが怖いけど、一応こいつの事を知っておきたい。
話してくれなきゃそれはそれでいいんだけど、あいつやたらと悲しい顔する時が多すぎる。
こいつには散々ハチャメチャな事をされていると言えど、やっぱりあんな顔は見たくない。
未来できっと色んな悩みを抱えているんだろうと思う。
勿論、俺が聞いたところで悩みが解決するとは限らんさ。
でもな、やっぱ何でも他人に話すだけで気持ちが楽になるって事もあるのは俺だってわかるんだ。
だから聞くって行為自体は、別に間違ってない行動だと思ってる。
……まぁ、そこで答えまで見つけてあげられたらベストだけどな。
「未来には友達いないのか?」
「……うん」
「なら、家族は?」
「……義理のお兄さんだけ」
うわあああああああああ
聞くんじゃなかった。
椿……お前、俺の想像以上に酷い人生送っているんじゃないのか?
まずったな、地雷を踏んじまったようだ。
「あ、でもいいの……最初からそんな感じだったし、もう慣れてるから……」
後ろから聞こえてくるのは、力なき椿の返事。
俺の心を抉るかのように、突き刺さった。
……声が震えてるぞ。
明らかに強がってんじゃねぇか。
……聞いちまった俺も俺だけど、椿もすんなり答えやがって。
何でそんな奴が、わざわざ俺を殺しに来ようなんて思ったのかね。
クロックスの奴らから無理やり従わされてたりするんだろうか。
だとしたらひっでー話だな。
「まぁいいじゃねぇか、未来でどうあっても今のお前はこの時代の学生なんだろ?
長居はしないかもしれねぇけど、楽しい学園生活を送ればいい。
そうすりゃいい思い出を未来に持って帰れるだろ?」
「……あ、うん……そう……だね」
俺が短期間で一生懸命考えた言葉を伝えたら、力なく椿はそう返事をした。
んーいかん、あんまり励ましの言葉にならなかったか。
逆に傷つけちまったかもしれん。
やっぱり俺には荷が重すぎたか……。
そんなことを考えていると、ふと背中越しから椿が体を密着させてくる。
両腕で俺の腹をギュッと強く抱きしめてきた。
やばい、ちょっと照れるぞ。
ちょっとどころじゃない、何か知らんがドキドキしてきた。
俺としたことが、こんな奴に――
いや、惑わされるな……け、けけ決して動揺してはいない。
ああ畜生っ!
今これほど童貞である事が憎いと思ったことがあっただろうかっ!
こんなことぐらいで俺の精神が荒れ狂うとは。
俺の邪念よ消し飛んでくれっ!!
「ねぇ、一つ聞いてもいい?」
「な、ななな何だ? い、いいいい言ってみろ」
俺は超声が震えていた。
やばい、想像以上にテンパってしまっているぞ。
腐っても美少女だ、なんだかんだいって意識しちまってんだな俺はクソッ……。
「どうしてこんなに優しくしてくれるの?
私は明日になったら、今日のあの時みたいに君を殺すかもしれないのに」
「何だよ、そのことか。 別にまだ殺されないんだろ、俺は?」
「で、でも……その……」
そこで椿の言葉は詰まった。
気づけば俺は冷静さを取り戻せていた。
確かに椿の意図は未だわからんし、俺はいつ殺されるかもわからん。
でも、こういう事言ってくるってのは……確実に殺さないって考えていいだろ。
理由ねぇ……今の俺にはっきりと言える事は、なんだろうな。
もやもやとする、はっきりと出てこない答え。
いや、まぁ大体答えはでてるようなもんか。
ありのままに、思っていることを俺は口にした。
「自分が殺されるという自覚が、あんまりないという点か?」
「……そっか」
再び力なく椿を返事をする。
だが、俺の話はまだ終わっていない。
正直今から言う話の照れ隠しをしていただけだ。
俺はコホンっと咳払いをして、再び口を開く。
「後な、お前は隠してるつもりかもしれないけど、お前結構色々辛い目にあってんだろ。
そう考えると何だか放っておけないんだよな、お前は敵と見れないと言うべきか?
ほら、あの悲しそうな表情されると、どーーしてもお前が俺を殺そうとしているなんて、嘘に思えるんだよ」
「……私、泣いてないもん」
「強がるなって、俺は決定的瞬間を見逃さない男だ。
友人にカメラマン目指せって言われてるほどなんだぜ?」
「泣いてない、泣いてないもん……」
強情な奴だな、そんなに泣くの見られるのが恥ずかしいか?
男は泣くなって言われるけど、女の子は違うだろ?
ああ、ホント。
椿が疑問に思う通りだ。
まだ1日ちょいの付き合いの奴に。
しかも、俺の命を狙ってる奴に、だ。
何で、『助けてやりたい』って思ってんだろうな。
椿は俺の背中に顔を押し付けた。
啜り泣きが聞こえてくる。
椿が明かさない心の痛みが、じわじわと伝わってくる。
でも、こいつもこいつだよな。
これから殺す奴に、普通こんなこと聞いたり信用得ようとしたりするか?
しかも、背中を借りて涙を隠すなんて……ったく、俺らって一体何なんだよ。
ああ、いつものノリなら『お前制服汚すなよっ!』って怒れるんだが、流石にそんなことできん。
……そんなに学園生活、楽しかったのか?
お前まだ、1日しか経験してないんだぞ。
これからもっと楽しいことあるだろうがよ。
この程度で感動の涙を流すなんてさ、安すぎるだろ。
もっと体育祭とか、文化祭とかさ。
そういう楽しい行事いっぱい経験してみろって。
こんなくだらない1日だけで泣いてたのが馬鹿馬鹿しくなってくるだろ?
ああ、全て口にしてやりたいが今はやめておこう。
あいつはいつまでこの時代にいるかわからん。
少なくとも、『未来宣告』とやらのせいで帰るに帰れないからな。
……つまり未来へ帰るには俺を殺すしかないわけだけど。
あー、ますますわからん……こいつの意図が。
「どうして、どうしてこんなに……優しいのに……っ!」
椿の力強い叫びが耳に入る。
多分、俺に対しての言葉じゃない。
俺の勝手な想像だけどな。
ひょっとして、こいつは俺を殺したくないのだろうか。
そうすれば今までの話……辻褄が合う気がする。
俺が未来へ帰る時って言ったとき、力なく返事した理由も……。
……いや、やめよう。
下手な思い込みは、今日の二の舞になる可能性を生む。
やれやれ、俺らって本当難しい関係だな……。
それから二人に会話はなかった。
こんなに空が悲しく見えたこと、あったっけな。
どうやら、椿の悲しみとやらを共感できちまってるらしいな俺は。
俺は夕焼けをバックに、ただ静かに自転車をこぎ続けるだけだった。




