少年の期待を裏切るな、丸山田 誠一郎
「この建物の中だ」
ヴァンパイアハンター協会の事務所というものだから、教会の地下だとか墓地の近くとかにあるのかと思えば、意外な場所に案内された。
「留子ちゃん、本当にここなのかい?」
誠一郎の前には全国展開しているスーパーマーケット、『スーパーフジタニ』がそびえ立っていた。24時間営業なので午後10時を回った今でも営業している。
「田中さん、もしくは師匠と呼べ。下の名前で呼ぶな」
留子の破壊力のありそうな目力を前に、誠一郎は即座に首を縦に振った。
スーパーフジタニは、今日の晩飯のカレーの材料を買ったスーパーで、誠一郎がいつもお世話になっているスーパーだ。
一瞬、親子で買い物かと見間違うが、どうどうと不遜な態度で闊歩する留子の後ろにでかいナリを潜め、とぼとぼと歩く誠一郎と留子のカップルは、犬の散歩中の飼い主とペットと言ったほうがしっくり来る。
「ここで少し待っていろ」
そう言って留子は『従業員以外立ち入り禁止』の扉の奥へ消えていった。
5、6分くらいだろうか。肉売り場でトンカツ用豚肉を指を加えて見ている誠一郎に、若い女が話しかけてきた。
「丸山田 誠一郎さん、ですか?」
ぱっと見では大学生くらい。ハタチそこそこ。スーパーフジタニの女子制服を着用している所をみると、この店の従業員だろうか?
肩まで伸びた金色の髪と、品のいい化粧。
制服のラインをなぞる様に、誠一郎は女性の全身をなめるように見渡した。一言で言うと、『出るトコ出てる』だ。
天使の様な笑顔(営業スマイル)を浮かべ、誠一郎の奇行を寛大に見守ってくれている辺り、本当に翼とか生えているのかもしれない。
ネームプレートには『藤内 彩華』と書かれていた。
「は、はい? 何でしょう?」
万引きGメンに見つかった不審な客の様に、誠一郎はかわいらしくない目をパチクリさせ、上ずった声で答えた。
「私、田中の部下の藤内と申します。手続きの準備が整いましたので、中にお入りください」
笑顔と共に一礼。それにつられて誠一郎も頭を下げると、目線の先には藤内の豊満な胸があった。制服の上からでもそのボリュームは確かなものだとわかる。
藤内がドアを開け案内する。美女が通った跡はいい匂いがした。やがて店長室の前で立ち止まりドアをノックする。
「失礼します」
藤内に促され、室内へと足を踏み入れる。
「ちょっとちょっとちょっと! これ、おっさんじゃん!? トメちゃん、さっき新人はかわいいナイスバディちゃんって言ったよね!」
いきなり高校生くらいの少年が、誠一郎を指差し喚いた。
見れば、瑠奈と同じ高校の制服を着ている。この店のアルバイトだろうか?
茶色に染めた長めの髪と、アイドルの様な顔立ちは美少年と言って差し支えないが、軽薄そうな言動が少し鼻につく。
「かわいいじゃないか。メガネ+爆乳+ヒゲだぞ。せっかくできた後輩なんだし、文字通りに『かわいがってやれ』よ」
留子は机の上に足を乗せ、ふんぞり返っていた。
少年のほうはまだ納得がいかない様子だ。
「丸山田さん、こちらにおかけください」
ソファが誠一郎の下敷きになるのを確認して留子が口を開いた。
「さて、そんじゃ説明してやるか。私たちヴァンパイアハンターの事を」