マルちゃん大地に立つ、丸山田 誠一郎
「キモイ。マジでキモイ」
丸山田 瑠奈は玄関先に転がっている物体を発見して、そう呟いた。土曜日の早朝。朝5時23分。清々しい休日の始まりに不快極まりない思いをしてしまい、郵便受けの前で朝刊を片手に素振りする習慣を、ついつい忘れてしまった。
しかも、これが自分の血を分けた父親だというのだから、お隣の宮村さん家の犬小屋に放り込んで引き取っていただくわけにもいかない。
幸せそうな寝顔のまま、誠一郎は玄関の前に転がっていた。それだけならまだいいだろう。問題はそのビジュアルにあった。顔は言わずもがな、着ている服が問題だ。
ピチピチの純白のドレス……それも所々セクシーに破けており、生活指導の常習犯である、クラスメイトのアミちゃんよりも際どいミニスカ状態であった。というか、見えている。
せっかく最近少し見直し始めていたのに……瑠奈は愕然とする。しかし、このままにしておくわけにもいかない。なによりご町内の、いや銀河規模の恥だ。
「ちょっと、親父! 起きてよ! こんな所で寝てたら、廃品回収の人に回収されるよ! それか次に起きたら、ハム工場の生産ラインに乗ってるかもしれないよ!?」
父親に向かってこんな起こし方をするのは、日本中探しても丸山田 瑠奈くらいのものだろう。ゆすっても、叩いても、水をかけても、炙っても、起きる気配はない。
仕方が無いので、瑠奈は魔法の呪文を唱えた。ちなみに、瑠奈は魔法少女ではないが、かわいい猫のような使い魔が契約にやってきた事はある。執拗に契約を迫ってくるので、母直伝のカカト落としをお見舞いしたら動かなくなった。
捕まえてネットオークションで売り飛ばそうと画策したが、惜しいことに逃げられた。一体、あれは何だったのか?
「今日の朝ごはん、ママがお好み焼き作るって言ってたよ」
その言葉でスイッチオン。誠一郎はまるで機動戦士のようにカメラアイがバッチリと点灯し、大地に立つ。そして、巨体を揺らしながら格納庫へ入って行くのだった。
「ママはあの親父のどこを好きになったんだろ……」
通常の3倍の速さで家に入った父親を見て、瑠奈は唖然とする。瑠奈にとっては、月9の最終回や、今月の星占いとか、日本の政治の行く末より、気になるところであった。
瑠奈も家に入り、食卓の上にあった重箱に、顔を突っ込んでガツガツやっている誠一郎の前の席につき、トーストに口を付ける。
ふと、昨日から気になっていた事を思い出し、目の前の父親に聞いてみた。
「ねー、親父。ららちゃん、また友達のお家? 今日、あたしと一緒にお買い物に行く約束してたんだけど……」
誠一郎の動きがぴったりと止まる。まるで、リモコンの一時停止ボタンを押したように。そして、コマ送りをしたときのように、ゆっくりとかくかくと首を持ち上げていく。
「ららちゃんは……その……今日も帰らないかも……」
「え?」
「ららちゃんに何かあったの!?」
誠一郎は続ける。
「実はね……」